孤独だったミューズのデビューから10年間の道のりを、コラボ、カヴァー、サンプリングを通して振り返るエンターテイメント作品!

 今年の9月8日でデビュー10周年を迎えた加藤ミリヤの新作『MUSE』は、スペシャル企画でてんこ盛りの一枚になっている。本作を紐解くキーワードはコラボ、カヴァー、サンプリング、この3つだ。

 「10年を振り返ると女の子に向けて発信してきた自分がいたし、主に女の子たちが自分の歌を聴いてきてくれたから、まず女性にフォーカスしてみるべきだと思ったんです。そもそも自分がデビューするときは誰かのミューズになりたいと思っていたし、女性アーティストは女の子たちが憧れる存在であるべきだと思っていたんですね。そんな思いが核にあったから、今回は私が尊敬する女性アーティストとコラボしていくアルバムがいいかもって。だけど、コラボ・アルバムみたいな見られ方もされたくなくて、ソロのオリジナルやカヴァーも入れたんです」。

加藤ミリヤ 『MUSE』 ソニー(2014)

 新録のコラボ曲から見ていくと、“I’ll be there with you”は普段から仲良しのAI&青山テルマと作った友達ソング。悩んでいたテルマを囲んで3人で話したことが曲作りのきっかけになったそうで、「自分の未来に2人がいてほしいと思ったから、そういうメッセージも個人的に込めてる」と語る。「歌うメッセージとスタイルが自分と似てると思った」というJASMINEを迎えた“DRIVE”は、自分を翻弄した元カレと再会したときの波立つ心を歌った荒々しいアップ・ナンバー。SUGAR SOULとの“Blue Flame”は青白く燃えるような女の情念が表現されたアンビエントR&B風情の逸品で、「自分は心の闇を歌ってきているから、その究極がないと自分を説明できないと思った」とのこと。妖艶さを増したSUGAR SOULの歌にはゾクゾクするし、DJ KRUSHによるディープでスモーキーなトラックはいぶし銀の輝きを放つ。

 カヴァーに目を向けると、宇多田ヒカル“Automatic”は、ミリヤがデビューのキッカケを掴んだオーディションで歌ったナンバー。中学の頃は宇多田の歌声に憧れて歌唱法を研究していたという。今回は「誰よりもこの曲が好きだっていう自負があるので、ちょっと歌い崩した部分はライヴ・ヴァージョンとか(笑)、最後のフェイクもわざとまったく一緒にした」と、原曲を完コピするように歌唱している。もうひとつのカヴァー曲であるアリシア・キーズ“If I Ain’t Got You”は、初期の頃にライヴでよく歌っていた楽曲。最新ツアーのバンド・メンバーとの一発録りでエモーショナルな歌を聴かせている。

 また、アルバムの幕開けを飾る書き下ろし曲“M.U.S.E.”は、10年間の心の経年変化を歌ったナンバー。「結局、私のミューズは私だっていうことを言いたかった」そうで、自身の過去曲をいろいろとセルフ・サンプリングして作り上げた力作だ。そして最後を締める“STYLE”は、自身の音楽活動の姿勢を自嘲的かつ挑発的に歌った曲。TLC“Creep”をサンプリングしていて、最近UKでリヴァイヴァルの兆しを見せているヒップ・ハウスを思わせる仕上がりになっているところが興味深い。

 コラボ曲では相手がいることで浮かび上がる自身の一面を追求し、カヴァー曲では自身のルーツを再提示、そして単独名義のオリジナル曲では10年を経て思うことを表白した本作。この10年間、加藤ミリヤの表現のベースにあったのは、〈私をわかって〉という自己承認欲求だったと思うが、今作でも10年かけて作り上げてきた自身のアイデンティティーを強く発信。そういう意味では実に〈らしい〉一枚だ。そんな彼女は10周年イヤーを過ごしてきたいま、何を思うのか。

 「やっぱり歌がいちばん大切だということがよくわかりました。9月8日のファンクラブ・イヴェントでもライヴでみんなとひとつになれたし、ファンのみんなが必要としてるものが歌のなかにしかなかったから。歌で自分のすべてを見せて、音楽に自分のすべてを捧げていくことが何よりも大事だなって」。

 そんな彼女はいま、歌が上手くなってる手応えを感じているそうだ。自信の声をきちんと操られるようになり、コンディションの整え方もわかってきて、歌うための心技体が備わってきた充実感があるという。最後に彼女はこうも言った。

 「いま、歌っててすごく楽しいんですよ。いままで生きてきたなかでいちばん楽しいんです」。

 

▼『MUSE』に参加したアーティストの作品を一部紹介

左から、JASMINEの2014年のベスト盤『PURE LOVE BEST』(ソニー)、AIの2013年作『MORIAGARO』、青山テルマの2014年作『Lonely Angel』、SUGAR SOULが参加するKAMの2011年作『SPIRITUAL』(すべてユニバーサル)、DEXPISTOLSの2014年のミックスCD『LESSON.08/TOKYO CULT』(tearbridge)、DAISHI DANCEの2014年作『GEKIMORI』(urban sound project.)、DJ Mitsu the Beatsの2014年作『CELEBRATION OF JAY』(Jazzy Sport)、DJ KRUSHの2004年作『寂 ~jaku~』(ソニー)
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▼『MUSE』でカヴァー/サンプリングされた楽曲のオリジナルを含む作品

左から、宇多田ヒカルの99年作の15周年記念盤『First Love -15th Anniversary Deluxe Edition-』(ユニバーサル)、アリシア・キーズの2003年作『The Diary Of Alicia Keys』(J)、TLCの94年作『CrazySexyCool』(LaFace/Arista)
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