デビュー前に黒人音楽の殿堂として知られるNYのアポロ・シアターのステージに立ち、日本の男性シンガーには珍しい19歳という若さも武器にして、鳴り物入りでシーンに登場した清水翔太。それから7年、今回届いた『All SINGLES BEST』は、これまでにリリースした全シングルの表題曲を網羅したキャリア初のベスト・アルバム。デビュー曲“HOME”をはじめ、みずからトラックメイクを手掛けた初のセルフ・プロデュース曲“WOMAN DON'T CRY”、仲宗根泉とのコラボが話題となったHYのカヴァー“366日”、TV番組「クリスマスの約束」での共演が発端となった小田和正との“君さえいれば”、さらにシングル同様の人気を誇る“桜”もアディショナル・トラックとして収められている。

清水翔太 ALL SINGLES BEST ソニー(2015)

 最新ナンバーは“I miss you -refrain-”。これはSPICY CHOCOLATEが昨年発表したアルバム『渋谷純愛物語』の先行シングルで、彼がヴォーカルで参加した“I miss you”をリメイクしたもので、サウンドはアコースティック調にガラッと様変わり。歌詞も少し変えて原曲の続編という内容になっている。

 「この曲を作るにあたって、自分のなかで“I miss you”を〈過去〉という設定にしたんです。失恋を受け止めて一回冷静になったけど、時間が経って、やっぱりもう一回相手に思いを伝えたくなったという気持ちを書こうと。その感情の変化を音でも表現したかった。原曲のほうはサラッとしてるから、こっちはもうちょっとねちっこいというか、未練タラタラ感でいこうと。それでこういうサウンドにしたんです」。

 ボーナス・トラックの“春風”は、彼が15、16歳の頃に、当時していた恋をモチーフにして書いた曲。「その頃の曲のなかでいまだに心にずっと残ってるのは“HOME”とこれだけ」と語る注目のナンバーだ。

 「こういう楽曲はいま、絶対書けないですね。曲作りの技術は未熟だけど、だからこそ書ける詞やトラックなんですよ。今回、聴き直したときに若さというのはすごいなと思いました。15、16歳の頃なんて何にもわかってないし、何にも知らないわけですよ。でも、何にも知らないから大きな声で言える。そういうピュアネスって作品作りにおいて、すごく大事なことだなって。本当の意味でこの純粋さはもう戻らない。だから僕は、この頃の自分が羨ましい」。

 本作を聴いて改めて感じるのは、清水翔太のソングライティング能力の高さだ。ディアンジェロプリンスなどのソウル/R&Bをルーツに持ちながら、その一方で彼はポップスを作ること、グッド・メロディーを生み出すことに本当に長けている。シングル曲を作るときはその時々で「自分ができる〈最大限のキャッチー〉は何か」と考えるそうだが、自身が理想とするキャッチーの最高到達点はどの曲なのか。

 「たくさんの人に愛してもらうことを考えるとキャッチーであることが条件なんですけど、そこに振り切る場合や、それを薄めて〈清水翔太〉というブランディングを意識した作りにする場合など、パターンがいろいろあるんです。“DREAM”はキャッチーに振り切ったほうだと思うし、“WOMAN DON'T CRY”とか“I miss you -refrain-”はもうちょっとブランディング寄り。そういう作り方が成功したかどうかを結果がすべてで判断するなら、“君が好き”が個性とキャッチーのバランスの最高到達点なんじゃないかな」。

 自身のルーツやアイデンティティーの打ち出しと、大衆の琴線に触れる作品作り――そのバランスに抜群のセンスを発揮する清水翔太。誰もが感じたことのある淡い心の揺れ動きを丁寧に掬い取った歌詞、滑らかで美しい曲線を描くメロディーライン、そして、ソウル風味を軽く効かせた爽やかなヴォーカル。それらが三位一体となったエヴァーグリーンの輝きを放つ楽曲を収めた本作で、彼の類い稀な才能とソングライターとしての魅力をたっぷり堪能してほしい。