さまざまなチャレンジを踏まえ、2016年のミリヤがスタート。かつてなくヴァラエティー豊かなニュー・アルバムにおいて、ミリヤが新たに掴み取った自由とは……
自分と向き合うこと
過去最多の全17曲を収録し、ヴォリューム満点の内容となった加藤ミリヤのニュー・アルバム『LIBERTY』。曲調も実に多彩で、先行シングル“少年少女”のフォークや峯田和伸をフィーチャーした“ピース オブ ケイク ―愛を叫ぼう―”でのロック、さらにはEDM、トラップ、フューチャーベース、ヒップホップ、R&Bなど、彼女のマルチな音楽性を一気に解放。さまざまなアングルで魅力を確認できる一枚となっている。
「今回の私の視点は結構男性的でもあると自分では解釈しているので、性別や年齢を問わず、誰でも必ず1曲は〈自分の曲だな〉って思える曲があるアルバムになったと思います。加藤ミリヤに対するイメージはいろいろあるかもしれないけど、とりあえず食わず嫌いしないでいっぺん食べてみてっていう感じ。聴いたらきっと自分の〈生きてる感〉というか、自分の〈人間度〉が盛り上がってくるはず」。
これまでは事前にプランを立ててアルバム作りをしてきた彼女だが、今回は自分がやりたいと思った曲調を気の向くままに制作。曲作りに関しても既成概念やセオリーからの脱却を意識した結果、「新しいメロディーがどんどん泉のように湧き出てきた」そうで、新奇性に富んだ曲から彼女の王道といえるナンバーまでがいい意味で雑多に詰め込まれたアルバムとなった。
ポップながらも力強いアップ・チューンに仕上がったエクスペリメンタル系エレクトロの“This Is My Party”はなかでも新感覚。プロデュースは意外にも今回が初セッションとなるDJ WATARAIで、彼女自身も「もう念願だった。中学時代の私に教えてあげたい(笑)」と喜ぶ。また、“MIRROR MIRROR”“Memories”は、KOHHのプロデュースで名を上げた理貴と初手合わせ。これまでの彼女にはなかった色彩のダークさを作品に添えている。
「理貴くんを知ったキッカケはKOHHくんのアルバム。若手のトラックメイカーとやりたかったし、自分より年下の世代でわかりやすい結果を出してるプロデューサーが出てきて嬉しかったんです。理貴くんのトラックは根本的な暗さがいいんです。私自身、根っこが暗いから(笑)」。
一方、すっかり十八番となったサンプリング技法による曲は2曲収録。ひとつはダフト・パンクの“One More Time”を大胆引用して世間を驚かせた最新シングル“FUTURE LOVER-未来恋人-”。もうひとつは坂本龍一の99年のヒット曲“energy flow”をネタ使いした“BABYLON”で、歌詞は「バビロンという名の音楽業界」をテーマにしてライティング。現代社会を生き抜くためのアラームソングとも解釈できるピリッとしたナンバーだ。
「“energy flow”が作られた経緯を調べたら人間の鼓動を表現した曲らしく、それに感動して絶対に使いたいと思ったんです。歌詞もそこから着想を得ました。心臓の鼓動ってことは、自分の心の在処を感じるってこと……ってことは自分と向き合うこと……というふうに考えていって。いまっていろんなものが本当に精査されてると思うんです。もうそろそろ、みんな、本当のことって何だろうって気付きはじめるような気がして。だからこそ、自分が何を思っているのか知ることが大事だし、時代の変化に対する嗅覚や危機感を持ってないと置いてかれるぞと思って、その気持ちを書いたんです」。
ピュアじゃない
切ないラヴソングにも定評のある彼女だが、“Want You Back”はその新定番になりそうな都会派ポップ・バラード。洗練を極めたバンド・サウンドに乗せ、叶わなかった恋をエモーショナルに歌う。
「“Aitai”みたいな存在になる曲を作りたいなと思って。自分のポップセンスやバラードセンスを試されるようなものをやってみようと自分に課して作りました」。
シングルとして既発の“リップスティック”は、何パターンも書いた歌詞をすべて白紙に戻し、スケジュールも仕切り直してイチから作り直したほど難産だったという。かつて彼女を女子高生のカリスマへと押し上げた“ディア ロンリーガール”の10年後を歌ったこの曲は、結果、多くの話題を集めたが、そこで得た自信と手応えが今回の『LIBERTY』というアルバム・タイトルに繋がったと語る。
「“リップスティック”で〈加藤ミリヤってこうだよね〉とか〈こうじゃなきゃいけないよね〉っていうところをちゃんと打ち出せたからこそ、今度は自分をもっと自由に捉えたいなっていうマインドになったんです。〈FREEDOM〉はみんながあたりまえに持ってる自由だけど、〈LIBERTY〉はやっと勝ち取った自由のこと。いまの私は〈LIBERTY〉だし、とにかく新しいことをやりたかったんですよね」。
〈ピンクの羽根を広げてさあ飛ぼう〉――タイトル曲にはそんな一節が出てくる。どこか掴みどころのない存在、手の届かない存在になりたいという願望がいま強まっているという彼女。妖精をテーマにしたという今回のヴィジュアルにもその思いが反映されている。
「妖精というのは存在してるようでしていないもの。イコール、私たちの存在がいかに儚いかっていうことなんです。“うたかたの日々”という曲でも、私たちの過ごしているこの瞬間がいかにかけがえのないものかっていうことを伝えたかったし、みんなにもっと自分のことを大切にしてほしくて。〈ピンクの羽根〉としたのは、いまは燃えるような赤じゃないんです。それが滲んで、滲んで、淡いピンクでもいいし、濃いピンクでもいい。それは聴く人のイメージに任せるんですけど、白ではないなって。白ほどピュアじゃないですから、私たちって」。