唯一無二の声優トリオがデビュー10周年を記念したベスト・アルバムを完成!!! 挑戦の証たる名曲の数々は、聴き手の航海を前進させる強き追い風となって……
とっつきやすいが深い
声優の麻倉もも、雨宮天、夏川椎菜から成る3人組ユニット、TrySailがデビュー10周年を記念し、初のベスト・アルバム『BestSail』をリリースする。シングル表題曲を網羅した〈ALL SINGLES BEST〉と題されたCD 2枚組の通常盤に加えて、AB 2種の初回限定盤も登場。こちらはメンバー自身がカップリング曲とアルバム曲から選曲した〈MEMBER’S SELECT BEST〉を加えたCD 3枚組となり、さらに〈A〉にはジャケット撮影メイキングと10本のMVを収録したBlu-rayおよび特製ポスターが、〈B〉にはフォトブックがそれぞれ封入される。

2015年5月にデビューしたTrySailは、わずか2年後の2017年に横浜アリーナで初のアリーナ・ライヴを成功させ、2019年にはキャリア最長となる全20公演の全国ツアーを敢行するなどライヴ・アクトとしても評価を高めていく。コロナ禍で活動が制限されるなかでもスタジオ・ライヴなどを通して勢いを維持し、2022年には世界最大のアニソン・イヴェント〈Animelo Summer Live〉で大トリを務めると、翌年には声優ユニットとして初めて〈THE FIRST TAKE〉に出演。デビュー10周年を目前に控えた2025年3月には日本武道館2デイズ公演をソールドさせた。いまや声優ユニットのトップ・ランナーと言って差し支えないだろう。
そんなTrySailはこれまで17枚のシングルと5枚のアルバムをリリースしている。ユニット名に〈Try〉を冠しているだけあってリリース毎にさまざまな試みがなされ、例えばサード・アルバム『TryAgain』はタイトルに象徴されるように、実験精神に溢れた作品だった。が、TrySailのトータルな印象としては、まず〈元気〉〈爽やか〉といった言葉が浮かぶ。特にデビュー・シングル“Youthful Dreamer”とそのカップリング“Sail Out”はいずれもノリやすい4つ打ちのビートにキャッチーなウワモノが乗った、いかにも新人声優ユニットが歌いそうな、わかりやすいアイドル・ポップだ。
しかしながら、わかりやすい=とっつきやすいということでもある。大衆性を十分に備えているという意味でこれら2曲は入り口あるいは原点として申し分なく、クラムボンのミトが作編曲を手掛けた、ダブステップに流麗なストリングスが絡む“オリジナル。”などもその延長にある。そのうえでTrySailの音楽は、とっついてみると意外と深い。
例を挙げると4枚目のシングル“High Free Spirits”はバンド・サウンドを導入したシリアスかつダイナミックなロック・ナンバーで、それまでアイドル・ポップの範疇にいたTrySailにとっては大きな転換だった。このシリアスなロック路線は同曲の続編的な位置付けにある“Free Turn”や、より激しさを増したデジタル・ロック“誰が為に愛は鳴る”へ引き継がれ、ライヴでも大きな武器となっている。他方で、HoneyWorksとコラボした“センパイ。”もロック・ナンバーだが、こちらは〈青春〉を描いた瑞々しいギター・ロック。〈爽やか〉なだけではない、センチメンタルな歌唱で多くのファンを甘酸っぱい気持ちにさせた。
そして、いまなおTrySailの代表曲に挙げるファンも多い“adrenaline!!!”は、“High Free Spirits”と共にライヴ・アクトとしてのユニットのポテンシャルを爆発させたと同時に、TrySailとしてのひとつのスタイルを確立させるに至った楽曲である。90年代スカコアを思わせる極めてアッパーなノリが〈元気〉なTrySailと完璧に噛み合い、“adrenaline!!!”はライヴを重ねていくなかで会場全体が常軌を逸した沸き方をするブチ上がり曲へと成長した。