
新しい楽器も次第になじみ、次は〈夢の名曲集〉を録音します
2001年、ストックホルム生まれのヴァイオリニスト、ダニエル・ロザコヴィッチが1歳年長のフィンランド人指揮者タルモ・ペルトコスキの日本デビューに当たるNHK交響楽団C定期演奏会(6月20 & 21日)でコルンゴルトの“ヴァイオリン協奏曲”を独奏するため、1年5か月ぶりに来日した。「最初はハリウッド的と錯覚していた作品の深い人間愛に目覚めた」と打ち明けるコルンゴルトは、美の極致といえる名演だった。
「intoxicate」のために筆者がロザコヴィッチをインタヴューするのは2018年に続き、2度目。この間にユニバーサル(DG)からワーナーへ移籍。第1作にいきなり、44歳年長のミハイル・プレトニョフ(ピアノ)とのデュオ盤(フランクとグリーグのソナタがメイン)をリリースした。プレトニョフが室内楽を録音したのは初めて。スイスのヴェルビエ音楽祭で知り合い、ロザコヴィッチからお手合わせを願い出た。「夢の共演でした。偉大な芸術家に特有の独自の世界を備えた比類ないピアニストとの出会いを通じ、私自身の異なる側面が引き出され、音楽に対する考え方も大きく変わったのです」。
もう1つの幸運な出会いは、イヴリー・ギトリス(1922-2020)が亡くなるまで63年間も弾いていたストラディヴァリウスの名器〈ex-Sancy〉をモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン財団から貸与されたこと。美しい弱音を基調にニュアンス豊かな音楽を奏でる資質が、さらなる進化を遂げつつある。「非常に強い個性を備えた楽器、手中へと収めるには手強い相手です。特別な魂の宿った楽器であることは確かで一歩ずつ扉を開き、自分へ近づいてきたのと同時に、自分の知らない世界も開いてくれる点では天才指揮者、カルロス・クライバーに通じる何かがあります」。
ex-Sancyから得た啓示をもとに、次のアルバムとして考えているのが「夢のヴァイオリン曲集(dream pieces)です。通り一遍の名曲ではなく、人の心に直接語りかける音楽を選んでいます。1曲だけお教えすると、マーラーの“リュッケルトの詩による5つの歌曲”の第5曲“私はこの世に忘れられ”のヴァイオリン編曲です。長く望んできた私自身のオーケストラ、各地の楽団から腕利きを集めた弦楽合奏団“オネロス・ハルモニア”との録音を予定しています※」。さらにもう1点。
「無伴奏ヴァイオリン曲にいくつかの編曲を組み合わせたJ. S. バッハのアルバムを構想中です」。