2025年4月にオープンしたタワーレコード吉祥寺パルコ店。音楽文化が根づく街・吉祥寺へのタワレコの帰還を、〈タワレコ吉祥寺店〉に馴染み深い音楽ファンが温かく迎え入れています。タワレコ吉祥寺店はメイズ・ワンビル時代(1995~2007年)、ヨドバシカメラ マルチメディア吉祥寺時代(2007~2022年)と過去に2つの店舗で営業してきました。そんな歴史あるタワレコ吉祥寺店ならではの音楽作品を現・吉祥寺パルコ店スタッフと元・吉祥寺店スタッフが個々の視点から選び、思い出とともにコメントを綴りました。 *Mikiki編集部

サム(吉祥寺パルコ店)
旧吉祥寺店でJ-INDIESを担当していた期間は、ceroやシャムキャッツ、ミツメといった2010年代インディーズ黄金期にはじまり、Yogee New Waves、Suchmos、never young beach、D.A.N.といった、中央線/下北沢/渋谷WWW界隈のバンドが多くCDデビューをして売れていきました。
毎週新しいバンドの音源に出会い、POPを書いて展開すれば、たくさんのお客様に手に取っていただける良き時代。吉祥寺は中央線沿線の文化はもちろん、井の頭線で下北沢や渋谷へも出やすかったので、様々な街の音楽愛好家たちが集まる場所でもありました。
そんな中でも強く印象に残っている作品といえば、2018年にリリースされた折坂悠太さんの『平成』です。『たむけ』を聴いて衝撃を受け、さっそく展開。少しずつ噂が広まり、どんどん認知度が上がり、『平成』で一気に爆発。このアルバムを初めて聴いた時、きっと時代を象徴するような一枚になると思いました。
民謡的歌唱を基調に、楽曲のリズムの変化に呼応するスキャットやポエトリーといった歌唱法の大胆な取り入れ方。あらゆる時代の豊かな文学性を内包した詩。ジャズやラテン、シャンソン、ブラジル音楽を取り入れた異端の、しかし円熟した音楽性。最先端でありながら、古今東西に存在したであろう街角の音色をもよみがえらせるような、圧倒的表現力。
もちろん超ロングセラーとなった今作は、その年の〈CDショップ大賞〉の大賞〈青〉に選ばれ、「ミュージック・マガジン」の特集〈2010年代の邦楽アルバム・ベスト100〉でも第1位になるなど、折坂さんの代表作と呼べる作品になりました。平成元年生まれの音楽家が残した、終わりゆく時代に手向けられた大傑作です。
余談ですが、ご来店いただいた際に吉祥寺の美味しいカレー屋をご紹介したのもいい思い出です(そのせいかコメントカードにカレーの絵を描かれていた……)。
しみずまー(新宿店)
2015年は、吉祥寺にタワーレコードが出店してちょうど20周年。そんな節目の年に発表された〈吉祥寺〉を感じられる一枚。
2013年春に井の頭公園のボートハウス前で結成されたジャマイカンスタイルのインストバンドの名曲カバー集。ジャケット(井の頭公園!)も音の感じも吉祥寺の雰囲気にピッタリで季節に関わらず愉しめます。
当時、吉祥寺店に在籍していたのですが、入り口近くのラジカセからゴキゲンなこの作品が流れていて最高でした。思い出の一枚です。
吉野真代(吉祥寺パルコ店)
今もなおシーンの前線から引け目を取らないくるり。2000年に発売された今もなお色褪せず、最高傑作の名高い2ndアルバム。吉祥寺パルコ店にとっても大切な一枚です。
まだ店舗ができる前に集まったスタッフたちが自己紹介代わりに持ち寄ったCD。発売後に生まれ、初めて聴いたというスタッフも多い中、一躍みんなのお気に入りに。〈音楽は世代を超える〉を目の当たりにした瞬間でもあり、その役割を担う存在であり続けねば、と襟を正してもらった作品でもあります。
M1“イントロ”のストリングスで高揚する期待から始まり、清々しい疾走感から感傷的で叙情的な風景まで。ジム・オルークとのコラボM4.“リバー”なんかもシンセ、ビートが効いててたまらなく実験的で最高にオルタナティブ。詩を聴かせるM10“ホームシック”あたりの後半は感情の機微を余りにも生々しく描いていたり。
ロック、ポップ、クラシックやフォーク、エレクトロとクロスオーバーに音楽が飛び交う、バンドが始まったばかりの不安定な状態でこその多様性が存在しつつ、アルバム全体を俯瞰するとひとつの物語を紡いでいるような、まとまりを感じさせる12曲。
いまもなお歩みを進め続けるくるりの原点とも言えるような作品です。
私自身も吉祥寺にお世話になってからまだまだ日も浅いですが、われわれの歴史は始まったばかり。今までの歩みへのリスペクトも忘れず、みなさまの新しい1ページに加えてもらえるような、そんな店舗を作っていきたいと思っています。