J-Popの歴史に燦然と輝くユニットの魂を継承するプロジェクトは、そのレガシーを重んじつつ、彼女だけの道を進みはじめた――〈私らしさ〉を見つめた新作『故障した車』がめざす世界とは?
ZARDのトリビュート・バンドとして始動し、その魂を受け継ぎながら、現在は神野友亜のソロ・プロジェクトとなったSARD UNDERGROUNDが、3枚目のオリジナル・アルバム『故障した車』をリリースした。メンバーの脱退から1年が過ぎたいまも「1人で活動する感覚が掴みきれていない」という彼女は、誰よりも〈SARD UNDERGROUNDらしさ〉と向き合い続けている。
――2024年9月にソロ・プロジェクトになってから1年が経ちましたね。
「3人のときは、そのなかにいる私という存在を自分の中で確立してたんですけど、1人になると、自分ってどんな人だろう……って悩むこともあって。いままで築いてきたSARD UNDERGROUNDらしさは失いたくないけど、どうしても見え方が変わっちゃうじゃないですか。1人になっても印象を変えずにやっていくにはどうしたらいいかと考える毎日で」
――ソロになって、歌詞の書き方に変化はありましたか?
「歌詞もメンバーの個性を理解したうえで書いていたので、2人のイメージを壊すようなフレーズは絶対に使わないと決めていました。SARD UNDERGROUNDの曲になる=2人のイメージにも繋がると思っていたので、そういった意味でも全然違います。SARD UNDERGROUNDとしては、押し付けるような言葉はあまり使いたくなくて。そっと寄り添うとか、元気がもらえる歌詞にしたいんです。老若男女問わず誰でも聴けるところを大切にしています」
――神野さんが考える〈SARD UNDERGROUNDらしさ〉は、ZARDの歌詞とも重なる部分だと思います。その世界観を大事にしつつ、新作『故障した車』の楽曲も作っていったと思うのですが、アルバムをリリースするにあたって、制作はどのように進めていきましたか?
「どういった形で発表するかを決めずに曲の制作を進めていて、アルバムをリリースするなら今年8~9月のホール・ツアー前に出せたら理想的だなと思っていたんですが、結果的にその直後のタイミングになりました。収録曲のなかでいちばん古いのは、“ナンバーワンあなたは”で、2~3年前に作った曲です。前からストックしていたのは、その曲と“輝く旅人よ”“あなた、カトレア”で、それ以外は今年に入ってから作ったものばかりです」
――ソロとしては初のアルバムということで、これまでとは違う部分もあるのでしょうか。
「“全部自己責任”と“TO MY FREEDOM”は、どっちも猪突猛進系の曲で、3人の頃だったら出さなかったと思います。デモを聴いて作詞をするときに、まずは登場人物や舞台、空気感を考えて箇条書きにするんですが、“TO MY FREEDOM”は、箇条書きから歌詞にするのがとてもスムーズにできて。でもそういう曲ってSARD UNDERGROUNDっぽくないことが多くて、スムースにいき過ぎた歌詞はいままでは書き直していたんです。この曲は、聴く人を固定してしまうところがある気がして、それがSARD UNDERGROUNDっぽくないと感じていたものの、世界観が気に入っていたので、プロデューサー(ZARDのプロデューサーでもある長戸大幸)にも見ていただいて、そのまま出せることになりました。そういった意味では、1人になったからこそ作れた曲もあるので、進む方向が見えつつあるのかな?と思う部分もあります」
――なるほど。今回、アルバムのタイトルにもなっている〈故障した車〉というワードがとても印象的ですが、この〈故障した車〉というフレーズはどこから生まれたものなのでしょうか?
「この曲を制作していたときにハマっていた海外の楽曲のなかに出てくる〈故障したセダン〉というフレーズにおもしろさを感じて、そこから広げていきました。元になった曲と歌詞の内容は全然違います。あと、マイナー調なのにスムーに入ってくる感じがクセになるし、グルーヴ感、テンポ感もすべてが完璧に仕上がったなって。アルバムのタイトルも、一回聞いたら忘れられないものにしたくて『故障した車』になりました」。
――“故障した車”は、ラストがフェードアウトしていくところに懐かしさを覚えます。
「もう少し長かったんですよ。あと2回ぐらいサビを繰り返す形だったんですが、歌詞の空気感的にちょっと重たくなっちゃうなと思って。重たい曲にはしたくなかったので、最後は余韻に浸る間もなく終わる感じがちょうどいいんじゃないかと思って、カットしました」。
――サウンド的にもメランコリックで哀愁漂う感じがありますよね。
「“故障する車”や“あなた、カトレア”は、違う世界に飛び込む感覚になる曲で大好きです。“あなた、カトレア”は、間奏で曲の雰囲気が変わる感じも良くて。あと、“TO MY FREEDOM”も、最初に聴いたときに大好きなSuperflyさんっぽいなと思って。歌手をめざすきっかけになったのも、Superflyさんへの憧れがあったし、シンプルにメロディーが好きです」