1987年の東京での生活感や空気感が反映された『Flying Beagle』

日本産のフュージョン=Jフュージョンの人気が再熱していることは、Mikikiでもコラムやインタビューなどを通じて度々発信してきた。海外のコアなリスナーやクリエイターがインターネットを介して、主に70〜80年代にリリースされたJフュージョンの作品に触れたことで生じたこのリバイバル現象については、以下の柴崎祐二氏による解説記事に詳しい。

リバイバルの過渡期かどうかはさておき、シティポップ然り、Jフュージョンも現代の音楽シーンにおいては重要な枠組みとして定着したように思う。名盤が日夜生み出されていた70〜80年年代の時点でそうだったと言えるかもしれないが、高中正義が現在キャリアハイを迎えていることなどを例に挙げても、世界的な視点や評価が加わったことで我々日本人が改めてその優れた音楽性を世代や時代に妨げられず共有できている、という事実がそこにはある。

そんなJフュージョンにとって新たな地平が切り開かれた2025年に、世界が羨むようなニュースが飛び込んできた。キーボーディスト菊池ひみこが、アルバム『Flying Beagle』の再現ライブを2025年10月22日(月)にビルボードライブ東京にて開催するのだ。

なお、同公演の開催に向けて菊池本人からの独占コメントを預かっているので、まずはそちらを先に紹介したい。

1987年のアルバムがこの様な形で再現することになるとは、夢にも思っていなかったことで大変驚いている、というのが正直なところです。

私のアルバムはとても私的な物で、その時の自分の日常生活だったり、様々な経験を通して感じたことを作品にして来ました。

当時は、スタジオミュージシャンとしての仕事を中心にしながら、時々ライブをしたり、レコーディングをすると言った生活でした。

そんな生活感をそのまま曲にしていたので、あの時代の東京でクリエイティブな仕事をしていた人たちの生活感や空気感が反映されているのではないかと思います。

それが、38年も経った今頃、それも海外で注目されるというのは、どういうことなのでしょう?

この再現ライブのお話をいただき、果たして再現になるのか、はたまた、全く違う物になるのか?

大半を参加ミュージシャンの音楽性に任せて作られている私の作品が、今回の為に集まっていただいたミュージシャンたちによってどの様な変化を遂げるのか、とても楽しみにしています。

今回ビルボードライブで再現される『Flying Beagle』は、菊池の通算7枚目のスタジオアルバムとして1987年にCBS/ソニーからリリースされた。まずはなんといってもジャケットのビーグル犬が目を引くが、同作を取り上げた海外メディアなどをいくつかチェックしても、このビジュアル面のインパクトの強さについてはマストで触れている。そうした意味でも、パッケージデザインの重要性を物語る作品とも言えるかもしれない(ジャケットにおいてはフォントデザイン、犬の目線がこちら側を直視するのではなく若干斜め上を見ているあたりなども本作の興味を駆り立てる要因になっているように思う)。

 

再現ライブはJフュージョン史にとっても忘れがたいステージに

海外から熱視線を向けられた要因は他にもある。全8曲入りでトータルタイム43分強というコンパクトさ、ボーカルなしの全編インスト作品であること、そして当時の日本屈指のミュージシャンたちによる至高のプレイとアンサンブルを存分に味わえる、という点だ。

彼女のパートナーである松本正嗣(ギター)、スペクトラムの渡辺直樹(ベース)や岡本郭男(ドラムス)、AB’Sの岡本郭男(ドラムス)らが参加した『Flying Beagle』は、1曲目の“Look Your Back!”から菊池によるカラフルなシンセを堪能することができる。野太いスラップベースのソロ、カッティングギターとブラス隊がリードするセクション、さらには曲冒頭のテーマにて締め括られる展開など、これぞ80sフュージョンの王道とも呼べるような構成でリスナーを圧倒していく。

続く“A Seagull & Clouds”は、どこかジョー・サンプル“A Rainy Day In Monterey”にも通ずるメロウなナンバー。BPM 90台の緩やかなテンポでトランペット、トロンボーン、ピアノなどが優雅に混じり合い、豊かなメロディを紡いでいく。表題曲“Flying Beagle”はフェードインしていく入りが斬新で、菊池のアグレッシブかつ流麗なピアノ演奏も聴きどころだ。

個人的に好きなのが、本作のなかで唯一のラテンフュージョン“Sand Storm”。アナログ盤では同楽曲がB面のオープナーを飾っているわけだが、今は亡き納見義徳のパーカッションが特に際立つ1曲でもある。

こうした名曲たちがコンパイルされた『Flying Beagle』を、今回のビルボードライブ公演では曲順通りに体感できるのだ。長らく廃盤/未配信の状態が続いていた『Flying Beagle』だが、2024年2月にはタワレコ限定でのリイシューが実現。同年10月にはサブスクでも解禁され、より多くのリスナーの耳に届いている状態なだけに、まさにベストなタイミングでのライブ開催と言えよう。

菊池や松本のほか、エリック・ミヤシロ、本田雅人、中川英二郎といった錚々たるメンバーが一堂に会する点にも注目な『Flying Beagle』の再現ライブは、Jフュージョン史にとって忘れがたいステージになるだろう。

 


LIVE INFORMATION
菊池ひみこ 『Flying Beagle』再現ライブ
Himiko Kikuchi 『Flying Beagle』 Revisited

2025年10月22日(月)ビルボードライブ東京
1stステージ
開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ
開場/開演:19:30/20:30
https://www.billboard-live.com/tokyo/show?event_id=ev-20895

■チケット料金 ※飲食代金別
DXシート Duo:20,000円(ペア販売)
Duoシート:18,900円(ペア販売)
DXシート カウンター:10,000円
S指定席:8,900円
R指定席:7,800-
カジュアル:7,300円(1ドリンク付)

※本公演はClub BBL会員、および一般販売をWEB受付のみ実施いたします
※法人会員は電話にてご予約承ります

■メンバー 
菊池ひみこ(ピアノ/キーボード)
市原康(ドラムス)
斎藤クジラ誠(ベース)
松本正嗣(ギター)
エリック・ミヤシロ(トランペット)
具志堅創(トランペット)
中川英二郎(トロンボーン)
本田雅人(アルトサックス)
小池修(テナーサックス)
竹村直哉(バリトンサックス)