Photo:Kaupo Kikkas/ECM Records

祝! 生誕90年、時間を超越した土地の音楽

 来たる10月21日、東京オペラシティコンサートホール、スウェーデン放送合唱団のコンサートは〈レターズ・オブ・ラブ〉と題されている。合唱団は1925年に結成され、今年、2025年には100周年を迎える。プログラムの冒頭に予定されているのはアルヴォ・ペルト、1989年から2007年のあいだに作曲された4つ――“マニフィカト”“ヌンク・ディミティス”“石膏の壷を持つ女”“鹿の叫び”――の合唱作品。ペルトはといえば、1935年生まれで9月11日(!)に90歳を迎えたばかり。つまりこのコンサートは、意図的であるかどうかはわからぬが、両者の〈アニヴァーサリー〉がかさなったもの、とみえる。

 このほぼ10年、年に1-2作、コンスタントに作品を発表しているペルト。そのうちかなりの割合が声に、合唱にかかわっている。残念ながら、この列島では数年遅れでアルバムがリリースされる程度。コンサートではどうなのか、怠惰な身には、なかなか目に耳に情報がはいってこない。アルヴォ・ペルト・センターのサイトにアクセスして、ようやく知れるありさま。

 ペルトの名がこの列島に届き、すこしずつ浸透してきたさまは記憶にある。最近のこと、とおもっていたが、すでに随分経っている……。

 はじめは『アルヴォ・ペルトの世界~タブラ・ラサ』だった。LPではなかったか。1969年、ジャズのインディーズ・レーベルとして発足したECMが、〈ECM New Series〉を立ちあげる。1978年からスティーヴ・ライヒ、81年からはメレディス・モンクがそれぞれ複数枚、さらにトーマス・デメンガ、ハラルド・ヴァイスが1枚ずつリリースされた後、1984年、ペルトの『タブラ・ラサ』があらわれる(時を経ずしてジョン・アダムス『ハルモニーレーレ』も)。見慣れぬ名前。ただタイトルと演奏家だけのシンプルなジャケット。未知の作曲家の地味なアルバムが注目を浴びたのは、演奏家として、ギドン・クレーメルが、キース・ジャレットがくわわっていたことも大きかった。しかも2人がともに演奏を! キースはといえば、『スタンダーズ Vol. 1』をリリースして間もなくでもあった。

 小田実が一家でベルリンに滞在中、そばにペルトが住んでいて、という文章を読んだ記憶がある。作家の滞在は1985年から87年はじめだったから、『タブラ・ラサ』が広まりつつある時期。ネットなどないから口コミかもしれない。作家は、レコードを手にしただろうか?