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「チャイコフスキーピアノ独奏曲はとても誠実で繊細な作品です」

 ロシア出身で米国在住のピアニスト、ダニール・トリフォノフ(1991年生まれ)が日本のオーケストラと7年振りにピアノ協奏曲を演奏した。音楽監督クリスティアン・アルミンク指揮の広島交響楽団が2025年8月に広島(5日)と大阪(7日)、東京(8日)で行った〈2025「平和の夕べ」コンサート〉。病気で来日を中止したマリア・ジョアン・ピリス(ベートーヴェン“ピアノ協奏曲第4番”を予定)に代わってラフマニノフ“ピアノ協奏曲第2番”のソロを担い、イタリア製のピアノ〈ファツィオリ〉の性能を極限まで引き出す超絶の名演奏で客席を圧倒した。東京オペラシティ コンサートホール公演の開演前、「滅多に受けない」というインタヴューが実現した。

 トリフォノフは8月初めに来日、広島市内のリハーサルを終えた後にアルミンク、広響楽員ともども平和公園を訪れ、慰霊碑に献花した。世界中から引っ張りだこの演奏家が何故こんな長期間、しかも急な代役で日本に滞在することができたのだろうか? 「毎年8月はザルツブルク音楽祭出演を除いて1か月のオフに充て、自宅で新しいレパートリーを学びます。目下はプロコフィエフの“束の間の幻影”、ミャスコフスキーやシューマンのピアノ・ソナタなどを研究中です。今回の日本にも一家で訪れ、宮島への家族旅行も実現しました」

 ラフマニノフのピアノ協奏曲全曲(第1~4番)と“パガニーニの主題による狂詩曲”はヤニック・ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団とのライヴ録音でドイツ・グラモフォン(DG)からリリース済み。「フィラデルフィア管にはラフマニノフと10年以上の共演歴があり、世代を超えて受け継がれたサウンドが健在です」
広響とは初共演だったが、アルミンクとは米アスペン音楽祭で共演済み。「リハーサルの最初から非常に建設的で、3つの異なるホールでの共演を心から楽しむことができました」

DANIIL TRIFONOV 『チャイコフスキー』 Deutsche Grammophon(2025)

 DGとの契約は「年1タイトル」。最新盤はチャイコフスキーの“6つの小品”“ピアノ・ソナタ”“子どものアルバム”とプレトニョフ編曲“演奏会用組曲《眠れる森の美女》”を組み合わせたディスク2枚組だ。「嬰ハ短調ソナタは学生時代の作品ですが、後年の交響曲に発展する素材を多く含みます。チャイコフスキーのピアノ・ソロ曲は、どれも誠実で繊細です」。プレトニョフの譜面には「編曲以上のマジックがある」というから楽しみだ。