今秋からスタートしたNHK連続テレビ小説「ばけばけ」は、松江の没落士族の娘・小泉セツと外国人の夫・小泉八雲ことラフカディオ・ハーンをモデルに、〈怪談〉を愛する夫婦の何気ない日常を描き出す一作だ。主演の髙石あかりとイギリス出身の俳優トミー・バストウがのちに夫婦となるその男女、松野トキとレフカダ・ヘブンを演じている。国際結婚が珍しかった時代に、全く出自の異なる2人が一体どのようにして結ばれ、どのような人生を歩んでいくのか、今後の展開が注目される。

そんな「ばけばけ」の放送に伴い、モデルである八雲とセツにまつわる書籍が数多く刊行されている。この記事では、ドラマをより一層楽しむことができる関連作品を紹介していこう。

まずは、NHK出版から発売された「ドラマ人物伝 小泉八雲とセツ 「怪談」が結んだ運命のふたり」。ギリシャで生まれ、数々の地を流浪しながら日本へと辿り着いた八雲と、没落した武家の娘であるセツ。ともに生きることを決め、やがて八雲は作家として怪談にまつわる数々の名作を生み出した。そんな2人の数奇な人生をはじめ、2人に影響を与えた国内外の交友録や、出雲、隠岐、焼津、熊本などゆかりの地、八雲文学の魅力などが、豊富な図版とともにコンパクトにまとめられている。朝ドラをきっかけに小泉八雲・セツ夫妻に関心を持った人にとって取っ掛かりとなるガイドブックだろう。

NHK出版 『ドラマ人物伝 小泉八雲とセツ 「怪談」が結んだ運命のふたり』 NHK出版(2025)

また、「ばけばけ」の制作にあたり、根幹を成す資料の一冊として使用されている注目の書籍が「八雲の妻 小泉セツの生涯」だ。八雲とともに困難な人生を歩み、支え合いながら生き抜いたセツの生涯を描いた唯一無二の評伝として名高い同書。セツが八雲との生活や思い出を綴った回顧録「思ひ出の記」や、セツによる「英語覚え書帳」が収録されているのもポイントだ。

長谷川洋二 『八雲の妻 小泉セツの生涯』 潮出版社(2025)

そして、小泉八雲の曾孫であり、小泉八雲記念館館長の小泉凡が執筆した書籍も見逃せない。「怪談四代記 八雲のいたずら」は、世界各地に暮らし日本に流れ着いた八雲のその旅多き人生と、奇妙な縁で繋がった4代の100年にわたる歴史を、曾孫である著者が辿る特別な家族エッセイだ。さらに、「小泉八雲と水木しげるに学ぶ 異界の歩き方」は、幽霊や妖怪など〈異界〉との繋がりを描いた2人の巨匠、小泉八雲と水木しげるの共通点を浮かび上がらせながら、自分たちの知る世界とは違う〈異界〉の歩き方を解説するというユニークな内容となっている。

小泉凡 『怪談四代記 八雲のいたずら』 講談社(2016)

小泉凡, 水木しげる 『小泉八雲と水木しげるに学ぶ 異界の歩き方』 マイクロマガジン社(2025)

そんな八雲の作家としての代表作と言えば、1904年に出版された「怪談」だ。「耳無芳一の話」「ろくろ首」「雪女」など日本の伝説や怪談を文学作品に昇華した世界的名著は、「道化師の蝶」で第146回芥川龍之介賞、「文字渦」で第43回川端康成文学賞、第39回日本SF大賞などに輝いた作家・円城塔による翻訳が実現している。

ラフカディオ・ハーン, 円城塔 『怪談』 KADOKAWA(2025)

また、オカルト漫画の第一人者・つのだじろうが八雲の著作のなかから必読の15篇を厳選して描いたコミックス「怪談」や、小林正樹監督が「耳無芳一の話」「雪女」を含む4作品をオムニバス映画化し、第18回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど高い評価を得た「怪談」(1965年)も必見だろう。後者には、新珠三千代、三國連太郎、仲代達矢、岸惠子、中村賀津雄、丹波哲郎、志村喬、中村翫右衛門、滝沢修、杉村春子など錚々たる顔ぶれが出演しているが、三國連太郎が凄絶に朽ちていく姿に息をのまざるを得ない第1話「黒髪」からして狂おしいほど幻想的な映像美が展開する傑作だ。

つのだじろう, 小泉八雲 『怪談』 中央公論新社(2025)

小林正樹, 三國連太郎 『怪談』 東宝(2016)

小林正樹, 三國連太郎, 新珠三千代, 仲代達矢 『Kwaidan (怪談)(Criterion Collection)』 Criterion Collection(2015)