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〈不動の鐘〉が鳴る理由

――深川、隅田川、門前仲町、洲崎、不動など、土地にちなんだ名前がたくさん出てくるところもいいですよね。

「桑田さんが〈門前仲町って、地名がいいよね。歌になった時に素敵な響きだね〉って褒めてくださいました。桑田さんの前で初めて歌った2年前は、〈辰巳新道〉という飲み屋街の小さな通りの名前を入れていたんですが、〈地名に既視感があったほうがいいんじゃないか〉とアドバイスをいただき変更しました」

――〈洲崎〉は、ひょっとして川島雄三の映画ですか?

「そうなんです! 『洲崎パラダイス 赤信号』ですね。桑田さんもあの映画を3回ぐらい見ていらっしゃるそうで、最高の映画なんですよ。新珠三千代さんが主演で、赤線で働いていた女性がヒモの男と暮らしているのですが、彼女が赤線に戻ってしまうかどうか、人情がせめぎ合う物語なんですよね。

あと、〈『不動』の鐘が優しく鳴る〉も最初は〈波音がまた優しくなる〉でした。でも、桑田さんが〈深川には海がないよね。何か他に鳴るものはないの?〉とご指摘いただいて、深川には深川不動というお寺があるから、鐘が鳴ることにしたらどうだろうとひらめきました。一度も鐘の音を聞いたことがありませんでしたが、この際だから歌の中で鳴らしてしまおうと(笑)。

その後、調べたところ、実際に深川不動堂に鐘があって、しかもその鐘は東京大空襲の時に落とされた爆弾の破片を溶かして作った平和の鐘で、平和の式典があると鳴るそうなんですよ。戦争が終わって平和が訪れて、昭和30年代、40年代には、男女が自由に恋愛できるようになり、その鐘が町の人々を見守っていると考えると、偶然ですが、不動の鐘にして良かったなと思います。桑田さんにその話をしたら、うれしそうに聞いてくれました」

 

〈I miss you〉だなんて、恥ずかしいヤツだな

――〈この町で待っている馬鹿がいるよ〉のあとの〈Oh baby〉のところもいいですよね。

「最初は入ってなかったんですが、レコーディングの時に桑田さんが、〈洵也くん、ここ、Oh baby入れようか〉と提案してくださって入れました。最後の〈アッコちゃん/I miss you〉というセリフも最初はなかったんですよ。桑田さんが加山雄三さんの“君といつまでも”の〈幸せだなァ〉のようなセリフを入れようと提案してくださいました」

――〈I miss you〉は〈幸せだなァ〉とは真逆の内容ですね。セリフを入れる時の心境は?

「人生で一度もセリフを言ったことがないですし、とても緊張しました(笑)。ビクタースタジオでプロフェッショナルの皆様が固唾を飲んで見守る中、桑田さんから〈じゃあ、洵也くん、いこうか〉と言われて、やったものの、〈もっとI miss youな感じで〉とのディレクションがあり、試行錯誤しながらもなんとかやりました」

――真っ直ぐな声が素敵です。

「宝田明さんのような昭和の役者さんが映画の中でセリフを言うイメージで入れたら、桑田さんが〈オッケー、いい感じだよ〉と褒めてくださいました。でも、その後、サウンドチェックで何度も流れている時に、桑田さんに〈こんなセリフを言うなんて、恥ずかしいヤツだな〉とからかわれました(笑)」

――元の曲もいい曲ですが、細部にわたってさまざまな角度からブラッシュアップされて、さらに完成度の高い作品になったんですね。

「自分だったら絶対に思いつかないアイデアをたくさん提案していただいて、桑田さんと一緒に仕事をさせていただいたことは、大きな財産になりました」

――レコーディングの歌入れの時は、桑田さんからどんなディレクションがありましたか?

「たくさんディレクションしてくださるので、歌いまくって歌いまくって、10何テイクぐらいは録りました。桑田さんが実際に歌ってお手本を示してくれることもありましたし、ボーカルブース越しにいろいろと話されているのを聞いていると、ついにやにやしてしまいました。とても幸せでとても大変なレコーディングでした」

――曲が完成した時、桑田さんからの言葉はありましたか?

「〈この数日間、頑張ってくれてありがとう〉という労いの言葉をかけていただきました。いやいや、お礼を言うのはこちらですと思いました」