熊本出身の熊谷慶知、東京出身の市原諒、石川出身の川上遥。別の街で育った3人が東京で結成したバンドがcambelleだ。もともと交友関係はあったが、市原が熊谷の作った楽曲を聴き、距離を縮めたという。
「当時、僕はネオアコやソフト・ロック的な音楽をやりたいと思っていて、熊谷の曲は自分の抱いていたイメージとピッタリだったんです。そこで改めて連絡を取って、いろいろと喋ったり、一緒にレコードを聴いたりするなか、川上も含めて〈バンドやろうか?〉となって」(市原)。
当初は別のバンド名で活動しており、インディー・シーンのなかで認知度を高めていたが、音楽的な方向性が変わってきたことで、2024年に名前をcambelleに変更。ある作品が道標になった。
「バンド内で〈これからどうしていこうか?〉と話していたタイミングで、クレイロの『Charm』が出たんです。あれを聴いて、これだ!となって。あとはクレオ・ソル、メン・アイ・トラストなんかもインスピレーション源として大きいと思います」(市原)。
現在は下北沢を中心に東京のライヴハウスで精力的に活動中。そんな彼らの現在地を示すのが、このたびリリースされたファースト・アルバム『Magic Moments』である。
「下北沢にたくさんバンド仲間がいて、特に仲が良いのは、砂の壁、生活の設計、あと元Laura day romanceの川島(健太朗)さんがやっているpersimmon。みんなに共通してるのは〈レコード好き〉という点で、DJバーでパーティーしたり、コミュニティ感覚もあって、すごく良いんですよ。みんなで夜な夜な遊んでいる日々の感じをドキュメントとして残したい――それが『Magic Moments』のテーマでした」(市原)。
「僕らが友達と過ごす時間に流れていてほしい音楽というのは前提になっていると思います」(熊谷)。
cambelleの音楽制作は、いわゆるロック・バンドのそれとはだいぶ異なっているようだ。
「かなり特殊だと思います。まず僕がリファレンスとかも含めて〈こういう曲を作りたい〉ってアイデアを熊谷に伝えるんです。そこで、彼が曲を作ってくれて、そのデモをふまえて僕が意見を言ったり、川上がアレンジをしたり、3人でラリーしながら完成に近づける。僕はほとんど作曲や演奏はしてなくて、プロデューサーみたいな立ち位置。特に今回は、いろいろな人の力を使って良いものに仕上げる、集合知での制作に興味があった」(市原)。
その言葉通り、『Magic Moments』には前述の川島、CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINのサポートなどでも活躍するドラマーの山本直親、パーカッショニストの筋野優作ら多くのミュージシャンが参加。山本はミックスも担った。
「ミックスにいちばん時間が掛かりましたね。伝えたいムードが明確だったので、理屈的には正解でも違う……となることが多かった。今回はレトロ・モダンって感覚が大事でした。古い音楽の要素がありつつ、回顧主義ではなく、新しいものとして響かせたいんです」(市原)。
エレクトロニカ的な音響も耳を引く表題曲から始まるアルバムでは、ドラムとシンセのループ感が気持ち良い“Gloom / 親密さについて”、「ハイ・ラマズやステレオラブを意識した」(市原)というラウンジーな“Giddy Parades / 街場”、川上が作曲を担った穏やかなボッサ“Dream in Bossa / しずかなふたり”、12弦ギターのストロークがサイケなトリップ感を醸す“Our Suburban Friends / 火粉”など、さまざまな要素を織り込んだポップソングが丁寧に紡がれていく。その音楽的な多彩さは、いろいろな人々が集まる情景を描く歌詞にもシンクロ。『Magic Moments』の世界は広く、そして豊かだ。
「写真に撮るかのように美しい瞬間を描きつつ、透明な僕が街を俯瞰して見ているというアングルをめざしました。思っていた以上にシリアスなムードの作品になったとも感じているんですが、それはこの瞬間の東京の空気も反映しているんじゃないかな」(熊谷)。
cambelle
熊谷慶知(ヴォーカル/ギター/ピアノ・フォルテ/ヴァイオリン)、市原諒(プログラミング)、川上遥(キーボード/ヴォーカル/トランペット)から成る3人組バンド。前身バンドでの活動を経て、2024年に名前を変更。現在は東京を拠点に活動している。2025年10月に連続配信した2つのシングル“Gloom / 親密さについて”“Giddy Parades / 街場”が注目を集めるなか、このたびファースト・アルバム『Magic Moments』(OLD JOY)をリリースしたばかり。
