
瞬く間に2025年の代表曲となったアイナ・ジ・エンド“革命道中 - On The Way”(以下、“革命道中”)。アニメ「ダンダダン」の新たなオープニング主題歌としてグローバルヒットし、今も国内外で様々なチャートの記録を塗り替えている。今年の大晦日に放送される「第76回NHK紅白歌合戦」への出場も決まったこのタイミングで、ライターの蜂須賀ちなみに“革命道中”の核心に迫ってもらった。 *Mikiki編集部
〈ダンダダン〉という魅力的な響きを持つ言葉
アイナ・ジ・エンド“革命道中”が国内外でロングヒットを記録している。
2025年7月の配信リリースから約4ヶ月強で、ストリーミング累計再生数は1億回を突破し、Billboard JAPANの総合ソングチャート〈JAPAN Hot 100〉では21週連続、〈Global Japan Songs Excl. Japan〉でも20週連続でそれぞれチャートイン。さらに米Billboardの〈Global 200〉にも6週連続でチャートインしたほか、ソロとしては初となる「NHK紅白歌合戦」への出場も決定するなど、楽曲のヒットとともに、アイナ・ジ・エンドはソロアーティストとしての飛躍を果たした。
“革命道中”は、アニメ「ダンダダン」の第2期オープニングテーマとして書き下ろされ、アイナの音楽活動における長年のパートナーShin Sakiuraとのセッションで骨格が作られた。2人がアイデアを交わしながら生み出したこの曲は、YOASOBI“アイドル”などと同様、2010年代以降のJ-POPで脈々と築かれてきた多展開型の構成を武器としている。
トラックには、近年リバイバルしたドラムンベースが取り入れられており、Aメロではアニメのタイトルを引用した〈ダンダンダダダン〉というフレーズが、Cメロでも〈ダンダダン〉というフレーズがパーカッションのように機能している。振り返ればCreepy Nuts、ずっと真夜中でいいのに。、WurtSら「ダンダダン」の主題歌を担当した他アーティストもこの言葉のリズムを楽曲に取り入れていた。それだけミュージシャンにとって魅力的な響きを持つ言葉なのだろう。
なお、アイナは“革命道中”のインタビューで、第1期オープニングテーマのCreepy Nuts“オトノケ”にインスパイアされ、このフレーズを入れたことを公言している。
セクションごとに演じ分けるボーカル表現
調性に目を向けると、近親調の間を滑らかに行き来する構成になっている。劇的な場面転換ではなく、じわりと景色が変わっていくような転調を繰り返す構成だ。加えて、ビートの変化や音色の選択、音域の配置によって曲の重心がセクションごとに移動し、リスナーは楽曲の全体像が掴めぬまま、様々な場所へと連れて行かれるような体験をすることとなる。〈次はどこへ向かうのだろう?〉――曲を聴いている間ずっと続く底の見えなさが、ミステリアスな吸引力を生んでいる。
こういった楽曲の構造は、「ダンダダン」の物語の構造と酷似している。ラブコメかと思えばオカルト。シリアスかと思えばコメディ。作品のジャンルが確定しないまま進んでいく感覚を楽曲が体現しているのだ。そうした感覚は、〈血泥ついたって守りたい〉に代表される生臭いイメージと、〈センチメンタルな恋〉に代表される甘酸っぱいイメージが共存する歌詞にも表れている。アニメのファンにとっては、曲を聴くだけで様々なシーンが想起されるに違いない。
そして各セクションを巧みに演じ分けるボーカルとアイナ固有のハスキーボイスが、楽曲をより忘れがたいものにしている。アイナは力強く歌ったり、かわいらしく歌ったり、囁くように歌ったり……積極的に演じ分けるようなボーカル表現で、各セクションの落差を強調している。
ハスキーな歌声には、基音に加えて息の成分(ノイズ)や倍音が多く含まれる。息の混ぜ方、ザラつきの強弱によって同じメロディでもガラッと表情が変わるが、アイナはその振れ幅を見事にコントロールしながら、楽曲に人間味を与え、聴き手の感情を揺さぶっている。
そもそもアイナの歌声が持つ歪みやザラつきは、なぜ人の心を惹きつけるのか。彼女は傷ついた人なのか、強い人なのか、怒っているのか、悲しんでいるのか――この歌に至るまでにどんな人生経験を積んできたのか――そうした複数の感情が同時に聴こえる声だからこそ、聴き手は物語を想像し、その〈来歴〉を自ずと読み込みたくなるのではないだろうか。
