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石若駿がこの日のために結成したバンドで開催したライヴを映画化――
アイナ・ジ・エンド、上原ひろみ、大橋トリオ、田島貴男(Original Love)、PUNPEE、堀米泰行ら豪華ゲストと繰り広げるセッション、一夜限りのセッションを、もう一度!

 会場は、渋谷にあるNHKホール。その広いステージに強者ミュージシャンたちが出てきて、代わる代わるゲスト陣をサポートしていく。そして、彼らがステージを去って公演が終了するところまでを忠実に追う。劇場版「JAZZ NOT ONLY JAZZ」は昨年6月21日に行われた石若駿が導くめくるめく催しをWOWOWが番組用に撮影したものを、映画館公開作品としてヴァージョン・アップさせたものだ。

 石若は、今日本で一番忙しいドラム奏者だ。いや、ドラマーに限らず、あらゆる楽器奏者としてもいいのではないか。現在年間で関わるレコーディングやライヴの数は一体どれほどか。考えただけでも、気が遠くなる。それは、類稀な技量と音楽知識があってこそのヴァーサタイルさゆえ。と、説明することができるだろうか。ことジャズに限っても本格的なリアル・ジャズやアヴァンものから今様な複合性を持つジャズまで。そして、それだけでなく、ポップス(〈SONGBOOK PROJECT〉という歌ものに焦点を当てる単位も抱え続けている)、R&Bやヒップホップまで彼は関与する。そんな石若の幅広い総体を体現する際たるユニットであるAnswer to Rememberはジャズとポップ・ミュージックの交錯を十全に体現する。

 繰り返すが、石若の持つキャパシティは異常にでかい。とともに、同業者や受け手に対する訴求力も半端ない。それゆえ、彼は一つに収まりきれない自分の世界を届けようと多様なプロジェクトにあたらんとする。そして、NHKホールにおける「JAZZ NOT ONLY JAZZ」はかような彼の幅広い才覚/人心掌握能力をくっきりと映しだす。

 The Shun Ishiwaka Septetと名付けられたハウス・バンドをなすのは、〈SONGBOOK〉シリーズに関与し石若と共に君島大空のバンド・サポートにあたったりもする西田修大(ギター)、過激ジャズとシンガー・ソングライター両方の活動をする細井徳太郎(ギター)、石若ともっともリズム・セクションを組む機会の多いマーティ・ホロベック(ダブル・ベースも弾く彼だが、この晩は全曲でエレクトリック・ベースを弾く)、現ジャズ界のアルト・サックス奏者のファースト・コールである松丸契、石若とは少年期からの付き合いである山田丈造(トランペット)、石若から「名古屋が産んだ天才」とMCで紹介された渡辺翔太(ピアノ、キーボード)という面々だ。

 そんな演奏陣は冒頭の2曲と中盤でインストゥルメンタルを披露する。なんとそれらは“至上の愛”をはじめ、どれもジャズ最大級の存在であるリード奏者のジョン・コルトレーン曲の今様化ヴァージョン。石若はコルトレーンが大好きなのか。それともコルトレーンのカリスマ/アイコン性を介して、ジャズの言葉を超えた深淵を表出したかったのか。

 そして、石若セクステットの演奏でフィーチャーされるのは元KIRINJIでメロウなポップ・センスを誇る堀込泰行、千両役者的な存在感を出すOriginal Loveの田島貴男、しなやかさと機知を抱えるヒップホッパーのPUNPEE、エモーショナルな姿を存分に出すシンガー・ソングライターのアイナ・ジ・エンド、マルチ・プレイヤーながらここではギターを弾きながら飄々と歌う大橋トリオ、世界的売れっ子ピアニストの上原ひろみという面々。それら出演者たちを見ると、石若活動の中枢にあるAnswer to Rememberの顔ぶれとは使いわけを図っていると思わせる。双方に重なる奏者はホロベックだけであり、「JAZZ NOT ONLY JAZZ」は一期一会的な出会いを求めているとも指摘できるだろう。