今年2月にハロー!プロジェクトの全楽曲がサブスク解禁された。モーニング娘。、スマイレージ、Juice=Juice、ハロプロ研修生らの作品が各種音楽ストリーミングサービスで聴けるようになり、これで全3,219曲ものハロプロ楽曲を気軽に楽しむことができるようになった。ここではハロプロの礎を築いたつんく♂が手がけた楽曲に注目し、ライターの伊豆原亮一にその魅力を考察してもらった。 *Mikiki編集部


 

〈分業体制〉から生まれたハロプロサウンド

モーニング娘。をはじめ数々のアイドルグループが所属するハロー!プロジェクト。始動から28年を迎えた歴史ある集合体だが、今年2月にはこれまで未配信だった作品を含むすべてのハロプロ楽曲の音源がサブスク解禁されたほか、Juice=Juice“盛れ!ミ・アモーレ”がSNSを中心に大きなバズを生むなど話題が尽きない。

モー娘。の結成当初からグループのプロデュース、および楽曲提供を行っていたのがつんく♂であった。1999年にモー娘。の“LOVEマシーン”がミリオンヒットして以降も、モー娘。のみならずほかのハロプログループの楽曲も手がけていった。

2014年まではハロプロ全体を統括する総合プロデューサーとして活躍していたが、同年後半にはその立場から勇退し、以降はモー娘。を中心にサウンドプロデュースのみに専念する形をとっている。そんなつんく♂の持つ音楽的個性が、ハロプロサウンドの形成に繋がっているのは間違いないだろう。

本稿では、これまでつんく♂が手がけてきた楽曲に焦点を当て、どのようにハロプロの音楽性が確立されてきたのかを概観していきたい。サブスク解禁によってアクセスしやすくなったハロプロ作品の広大な沃野を探索するひとつの手がかりになれば幸いである。

はじめに、アイドル音楽、ひいてはポップスの特性のひとつとして考えられる〈演者と楽曲制作者の分業体制〉について触れておきたい。それらが分業ではなくイコールな場合、つまりは演者による自作自演の場合だと、自身が信じる特定の音楽ジャンルを追求していくのが一般的だ。それが分業だと、ジャンルに縛られず様々な音楽性を柔軟に取り入れることが容易で、また演者や制作者が変われば自然と扱うジャンルや表現自体も変わっていくことが期待できる。

ここでいう演者、つまりは曲を歌うアイドルが魅力(可愛さや歌唱力)を備えてさえいれば、どんなジャンルの歌も歌えるといえるかもしれない。そういった意味でも、歌唱力の高い精鋭たちが集うハロプロは、分業体制の最大の強味が発揮できる環境にあるといえそうだ。

では、ここからはつんく♂の手がけたハロプロ楽曲を6つのセグメントに分類して、それぞれの特徴などを紹介していこう。

 

ハロプロの定番サウンドともいえるディスコ/ファンク系の楽曲

前述したとおり、モー娘。は1999年に“LOVEマシーン”でブレイクして国民的アイドルとなった。同楽曲は編曲にダンス☆マンを迎えたディスコ色の強いサウンドで、このディスコ/ファンク路線はその後のハロプロ楽曲における定番のサウンドのひとつとなっていく。モー娘。ではほかにも“恋のダンスサイト”や“恋愛レボリューション21”、2010年代では“この地球の平和を本気で願ってるんだよ!”や“The 摩天楼ショー”、令和以降は“青春Night”や”すっごいFEVER!”などがある。

モー娘。以外のグループでも、黄色5“黄色いお空でBOOM BOOM BOOM”、藤本美貴“Let’s Do 大発見!”、Berryz工房“流星ボーイ”“アジアン セレブレイション”、Juice=Juice“ロマンスの途中”、ハロプロ研修生“Say! Hello!”などが挙げられる。

ディスコを発展させたハウス的な要素が強い楽曲としては、モー娘。“笑顔YESヌード”やJuice=Juice“イジワルしないで 抱きしめてよ”、モーニング娘。’17“ジェラシー ジェラシー”が、ニュージャックスウィング色が濃いものではモー娘。“リゾナント ブルー”などがある。

こうしたディスコ/ファンク系の楽曲は、つんく♂以外の作家によるものでも名曲が多い。赤い公園の津野米咲が作詞作曲したモーニング娘。’16“泡沫サタデーナイト!”、林田健司作曲のアンジュルム“46億年LOVE”などはその代表的な楽曲といえる。これら良質な楽曲が生まれ続けている事実によって、〈ハロプロといえばディスコ/ファンク系〉という印象が定着したところはあるだろう。

 

ビートロック、ヘヴィメタルな要素を強く打ち出したハロプロナンバー

そもそもつんく♂自身、シャ乱Qの一員としてデビューしているだけに、彼の音楽性を語る上でロックは欠かせない要素のひとつでもある。精神性としてのロックスピリットは、ある意味すべてのハロプロ楽曲に通底しているような気もするが、サウンドフォルムとしてのロック系の楽曲は数多く存在する。

ハードロック的な疾走感がある楽曲としては、まずモー娘。“浪漫 ~MY DEAR BOY~”が挙げられるだろう。この曲ではバックトラックの演奏メンバーに川添智久(LINDBERG)、土橋安騎夫(レベッカ)、KONTA(BARBEE BOYS)を招き、80年代末~90年代初頭のバンドブームを想起させるビートロックサウンドを実現。近年ではモーニング娘。’19“I surrender 愛されど愛”などがある。

藤本美貴“涙GIRL”、Berryz工房“男の子”、ハロプロ研修生“ありがた迷惑物語”などの楽曲ではヘヴィメタルな要素が見られる。松浦亜弥“絶対解ける問題 X=♡”、メロン記念日“さあ、早速盛り上げて 行こか~!!”、Berryz工房“友情 純情 oh 青春”、℃-ute“ザ☆トレジャーボックス”などは、いずれもBPM早めのパンキッシュなサウンドで、コンサートでは盛り上げ曲の鉄板として機能してきた。

℃-ute“Danceでバコーン!”は、サウンド自体はファンキーなダンスミュージック寄りだが、Aメロの歌唱法がエルヴィス・プレスリー的だったり、ブリッジでは歌詞に〈ジャッジャッジャー〉とディープ・パープル“Smoke On The Water”のギターリフが引用されるなど、ロックオマージュが楽しい一曲だ。

一方、つんく♂が制作した楽曲にはブリティッシュロックな曲も多く、これは永井ルイ編曲によるタンポポの楽曲に多数見られる。“乙女 パスタに感動”“王子様と雪の夜”、そして“I & YOU & I & YOU & I”などがそれだ。

 

ユーロビートからEDMまで、今も受け継がれるクラブミュージック路線の名曲

70年代にディスコで鳴っていたダンスミュージックは、80年代以降には打ち込みによるプログラミングサウンドの流れを受けて、ハウスやテクノに代表されるようなクラブミュージックへと変化していった。1968年生まれのつんく♂は、10代の頃にニューロマンティックなど80年代のエレクトロサウンドを浴びており、その影響はハロプロ楽曲にも色濃く反映されている。

例えば、後藤真希“やる気! IT’S EASY”は完全に80年代のダンスポップサウンドを踏襲した曲だ。2010年代には、モー娘。の道重さゆみと譜久村聖のユニット曲“哀愁ロマンティック”や、道重、譜久村、生田衣梨奈、飯窪春菜、石田亜佑美が歌う“トキメクトキメケ”などユーロポップなテイストの楽曲も生まれている。

クラブミュージックにおいて楽天的かつ狂騒的な面をデフォルメしたユーロビートというジャンルがあるが、つんく♂の作るハッピーかつちょっとフーリッシュな楽曲には、このユーロビートがよく似合う。カントリー娘。に紺野と藤本(モーニング娘。)“浮気なハニーパイ”、モー娘。“Go Girl ~恋のヴィクトリー~”、スマイレージ“有頂天LOVE”などはユーロビート味が特に強い。最近では、OCHA NORMA“Hello! 生まれた意味がきっとある(OCHA NORMA Ver.)”がこの路線を久々に感じさせてくれた。

2012年のモー娘。“One・Two・Three”以降、当時世界的にトレンドとなっていたEDMの要素を導入した楽曲が立て続けにリリースされたことも印象深い。“Help me!!”“君さえ居れば何も要らない”“わがまま 気のまま 愛のジョーク”“愛の軍団”など、この時期のシングル曲はいずれもこの路線が採用されている。

さらに、これらEDM路線の楽曲は〈フォーメーションダンス〉と呼ばれた複雑な振り付けとの組み合わせにより、その後のモー娘。を象徴するひとつの雛形となった。この時期は大久保薫や平田祥一郎といったアレンジャーによるシンセワークがつんく♂の楽曲を支え、その影響はモーニング娘。’20“KOKORO&KARADA”など、現在のハロプロ楽曲にも連綿と受け継がれている。

 

ゴスペル、ドゥワップ、ジャズ……つんく♂のチャレンジ精神が表れた楽曲

現代のロックやポップスの源流ともなった60年代以前のアメリカ音楽の数々。これらを参照したハロプロ楽曲も数多い。

モー娘。“LOVEマシーン”のカップリング曲“21世紀”、“ザ☆ピ~ス!”のカップリング曲“でっかい宇宙に愛がある”、シングル曲では“I WISH”“愛あらばIT’S ALL RIGHT”など、ハロプロ初期にはゴスペル要素を感じさせる楽曲もある。

さらに、Berryz工房“笑っちゃおうよ BOYFRIEND”ではドゥワップ、藤本美貴“ブギートレイン’03”やモー娘。“ボン キュッ!ボン キュッ!BOMB GIRL”ではブギウギ、タンポポ“わかってないじゃない”や松浦亜弥“オリジナル人生”ではジャズなど、グループやソロを問わず、つんく♂が様々なジャンルに挑戦していることがうかがえる。モー娘。“青空がいつまでも続くような未来であれ!”では、ニューオーリンズジャズの構成要素であるセカンドラインの影響などが感じられる。

 

レゲエ、スカコア、ボサノバとかけ合わせた独創的なつんく♂曲

欧米以外の地域で発展してきた音楽ジャンルにも様々なものがあり、それらと結びついたハロプロ楽曲も実に魅力的だ。

最近話題のJuice=Juice“盛れ!ミ・アモーレ”は山崎あおいが手がけたラテン調の楽曲だが、つんく♂も松浦亜弥“The 美学”、安倍なつみ“だって 生きてかなくちゃ”、℃-ute“涙の色”といったラテンナンバーを制作している。

7人祭“サマーれげぇ!レインボー”を筆頭に、Berryz工房“小遣いUP大作戦”、スマイレージ“踊ろうよ”、モー娘。“ピョコピョコ ウルトラ”などはレゲエから出発して、さらに別の音楽へ進化したような独創的なサウンドを展開している。

モー娘。“ここにいるぜぇ!”や“まじですかスカ!”、11WATER“BE ALL RIGHT!”などはどれもスカコア的な勢いのある曲で、ライブでの人気も高い曲だ。

そのほか、モー娘。“ちょっとイカした PURE BOY”や℃-ute“That’s the POWER”などはサンバ、タンポポ“時間よ止まれ”、中澤裕子“クラクション”、℃-ute“あったかい腕で包んで”では落ち着いたボサノバ調の曲を披露している。

 

モー娘。“シャボン玉”など歌謡曲のエッセンスを含む楽曲群

つんく♂が手がけた楽曲には、我が国で独自の発展を遂げた歌謡曲のエッセンスが散りばめられたものもある。

例えば、女の情念を歌うムード歌謡的なテイストに現代的サウンドを組み合わせたモー娘。“シャボン玉”は、2003年の発表当時はかなり攻めた楽曲だと感じたが、今ではハロプロを代表する人気曲として歌い継がれている。スマイレージ“嗚呼 すすきの”、モーニング娘。’18“フラリ銀座”など曲名に地名を入れ込むのもムード歌謡のお約束。Juice=Juice“背伸び”は歌謡コーラスとEDMを合体させた魔改造のような趣きのあるナンバーだ。

Berryz工房“スッペシャル ジェネレ〜ション”には、レトロでグルーヴィーな70年代の歌謡曲のテイストが感じられる。

今回はつんく♂の手がけた作品に絞り、ハロプロサウンドの豊かさを考察してみた。当然ここで触れなかったジャンルの作品も、ハロプロを形成する上で重要なものだ。もしあなたが、そこまでハロプロの楽曲を聴いてこなかったという人なら、サブスク解禁を機に、そしてこの記事を参考にこれからどんどん深く堀っていってみてほしい。ハロプロという名の底なしのエンタメ沼へようこそ!