M!LKは〈曲がいい〉
冒頭から至極当たり前なことを述べて申し訳ないが、改めて〈曲がいい〉って大事なんだと思った。それがバンドでもシンガーソングライターでも、当然アイドルやガールズ/ボーイズグループでもだ。
2026年も3分の1が過ぎようとしているが、M!LKの勢いが止まらない。スターダストプロモーション所属の5人組ダンスボーカルグループであるM!LKは、2025年に“イイじゃん”がSNSを中心にバイラルヒットを記録し、最終的には「第76回NHK紅白歌合戦」の切符を掴むまでに至った。そのまま追い風に乗った彼らは、“好きすぎて滅!”“爆裂愛してる”も立て続けにヒットさせ、もはや確変状態に突入していると言ってもいいだろう。
彼らを語る際、佐野勇斗の俳優面での活躍や、長い下積みを経た苦労人たちであることがよく挙げられる。もちろん、そうした側面や過程が今のM!LKの成功に繋がっているのは間違いない。だが、個人的に彼らがここまで大きく飛躍できた要因は、先に述べた通り〈曲がいい〉ことに尽きると思っている。一聴するとトンチキソングかと思える曲もM!LKならではの独自性を打ち出していたり、正統派なアイドルポップスではメンバー個々のポテンシャルを活かしていたりと、至るところに今の飛躍へと繋がる創意工夫がみられるのだ。
ここではブレイクのきっかけとなった“イイじゃん”以前の作品から、M!LKの音楽面の豊かさを感じられる楽曲をいくつかピックアップしていく。インディーズ時代のフレッシュなナンバーからメジャー進出後の洗練された楽曲まで、M!LKというグループの音楽的な変遷も感じながら各楽曲をチェックしてみてほしい。
まずは2014年のデビューからちょうど3年後にリリースされた1stアルバム『王様の牛乳』(2017年)の収録曲から。初デートで背伸びをして飲めないブラックコーヒーを注文する、そんな初々しい描写が眩しいデビューシングル“コーヒーが飲めません”や、生後1年以下の雄の子牛を指すスペイン語の〈テルネロ〉を連呼するライブ人気も高いトンチキ曲“テルネロファイター”もいいが、個人的には“Milky Snow”を推したい。
“Milky Snow”はキラキラした王道のアイドルソングで、音楽的なギミックはそこまで詰まっている曲ではないが、メンバーと共に成長していく楽曲だ。音源ではメンバー全員(現在とはメンバーが異なる)がまだ10代とあって声のキーも高く、大味なシンセサウンドも実に平成を感じさせる。そうした音源のピュアさとは別に、20代の今のM!LKが“Milky Snow”を歌うと実にダンディな雰囲気が漂う。多くのアイドルたちと同じく、デビュー時の楽曲というのは年を重ねていくたびに深みが増していく。きっと30代のM!LKが歌う“Milky Snow”は、今以上に趣のある曲になっているはずだ。
王道な曲がM!LKにとってはチャレンジングな一手
メンバーの入れ替わりもあり、2018年の夏に7人体制となったM!LK。翌2019年リリースの2ndアルバム『Time Capsule』は全体的にトンチキ感が後退し、嵐のような王道のボーイズグループ然としたサウンドや歌詞が目立つ楽曲が収録された。特に“ハロー!”はそうしたグループの変化を象徴する曲で、アコギがジャキジャキと鳴るバンドサウンドに、迷いや不安を抱えながらも前進し続けるポジティブなリリックが乗った青春ソングだ。この曲を制作した渡辺拓也は、その後もM!LKのディスコグラフィにおいてJ-POPの普遍性を纏った王道なポップチューンをいくつも手がけていく。
『Time Capsule』のリリース後に発表されたシングル“かすかに、君だった。”も、引き続きアルバムの流れを汲んだ爽やかなロックチューン。リリース当時のインタビューで「こういう曲をシングル曲として出すのは勝負だと思った」(佐野)、「攻めてる」(吉田仁人)と当人たちが語っているように、一般的には王道とも言える曲がM!LKにとってはチャレンジングな一手だったというわけだ。こうした意外性を信じることができた経験が、“イイじゃん”のような突飛な楽曲を迷いなく歌える自信を育んでいったのではないだろうか。
“かすかに、君だった。”も収録された3rdアルバム『Juvenilizm-青春主義-』(2020年)は、現在まで続く5人体制(佐野、吉田、塩﨑太智、山中柔太朗、曽野舜太)での初の作品となった。また、本作は〈シネマティックアルバム〉と謳われ、俳優としての5人をフィーチャーしたショートフィルムと収録曲が連動していたりと、M!LKの特性を活かしながら落ち着いたテイストの作風となった点もポイントだ。
同アルバムからは“ERA”と“last moment”を挙げたい。ピアノロック調の“ERA”はグループ結成5周年のアニバーサリーソングで、み!るきーず(M!LKファンの呼称)やメンバーからも重要な楽曲として位置付けられている。〈諦めの悪い 僕達のこと/「まだやってる」って誰か笑っても/長い人生の中の一瞬を/全力で駆け抜けてみたいんだ〉とメンバー自身の体験や胸の内が反映された冒頭のリリックを聴くと、思わず胸が熱くなる。自分の選んだ道が正しいかどうかではなく、選んだ道が正解だったと言えるように生きる。袂を分かつ者たちがそれぞれの健闘を讃える姿が想起されるエモーショナルなナンバーである。
山中柔太朗が主演を務めたショートフィルムで用いられた“last moment”は、別れを歌った切ないバラード。バラード調の曲自体はそれまでもグループのレパートリーにあったが、よりJ-POPの定石に則ったコード進行と曲構成が新鮮に感じる1曲で、哀愁が漂う山中のやるせない歌声も聴きどころだ。
“好きすぎて滅!”とも繋がる、侮れないカップリング曲
少し時間を進めて2021年、M!LKはついにメジャーデビューを果たす。2023年リリースのメジャー1stアルバム『Jewel』は、いずれの楽曲もサウンドの厚みや奥行きが増し、作品全体のクオリティも格段に上がった。反面、飛び道具的なトンチキソングが見当たらないのが寂しいが、それを補うようにM!LK自身がプロデュースした“ジブンエール”が収められているのが嬉しいところ。M!LKの5人が作詞を務めた底抜けにポジティブなポップチューンは、塩﨑が書いた〈ちょちょちょもーいっちょ〉というラインが聴く者の肩の力を抜いてくれる。誰か他人ではなく、まずは自分にエールを送ろうという発想がM!LKらしい。
そして、“イイじゃん”も収録されたメジャー2作目のアルバム『M!X』(2025年)で、M!LKは音楽性を拡張する。特に中盤の“Buffalo Shuffle”“Kiss Plan”“Diary”の流れは秀逸だ。BTS“IDOL”を連想させるアフリカンビートなダンスチューン“Buffalo Shuffle”はまさに新基軸で、欅坂46“二人セゾン”も手がけたSoichiroKとNozomu.Sが作曲した“Kiss Plan”ではアダルトでシックなM!LKを披露し、5人のウィスパーな歌声を堪能できるチルなスロージャム“Diary”へと続く。この3曲のセクションはぜひ通しで聴いてもらいたい。
『M!X』以降から“好きすぎて滅!”までの間に発表されたシングル“アオノオト”のカップリング曲“チラチLOVE”も、実は侮れない曲だ。音楽性の幅が広がった『M!X』には“好きすぎて滅!”の布石と言える楽曲は見当たらないが(“イイじゃん”も乱高下するメロディと目まぐるしく転調する“好きすぎて滅!”との共通点はあまりない)、KAWAII LAB.や電波ソングのエッセンスを感じる“チラチLOVE”のギミックの多さは、そのまま“好きすぎて滅!”にも採用されているような気がする。
“イイじゃん”のような驚天動地の1曲が生まれてしまうと、何かしらその弊害が出てくるものだ。例えば一発屋のカテゴリーに入れられてしまったり、その後にリリースした曲がどれだけ良くとも最も人気のある曲と比較され続けることにもなる。だが、M!LKは“イイじゃん”以前から1曲1曲と真摯に向き合い、どうすれば自分たちの歩む道が正しいものになるのか試行錯誤を繰り返してきた。自分たちの思う〈いい曲〉が、大勢のリスナーが抱く〈いい曲〉とイコールで結ばれた今、M!LKが歩んできた道はやはり正しかったのだ。





