BRING THE NOISE
彼らを沈黙させようとした者に対しての熟考された回答……アイルランドはベルファストのトリオ、ニーキャップが待望の新作を完成した! 熱狂と挑発に満ちた音楽はどこへ向かう?
今年の1月に初来日して〈rockin'on sonic〉出演とワンマン開催を敢行したことも記憶に新しいニーキャップ。トドラTがプロデュースした2024年のファースト・アルバム『Fine Art』が高い評価を得て日本でも知られるようになった彼らだが、その完成前から撮影していた半自伝的映画「KNEECAP/ニーキャップ」が同年のうちに公開されたタイミングの良さも手伝って、彼ら3人――モ・カラ、モウグリ・バップ、DJプロヴィはより広い世界に向けて一躍名を知らしめることになった。が、それよりも彼らの名を広めることになったのは、2025年4月の〈コーチェラ〉出演時のステージにてガザ虐殺に関するメッセージを掲示したことだろう。結果的に彼らは北米ツアーをキャンセルせざるを得なくなった。〈グラストンベリー〉出演を控えていた6月にはスターマー英首相らが運営にニーキャップ出演をキャンセルするよう求めるという異例の事態にも発展している。その間にも彼らはスタジオに向けてもエネルギーを注ぎ、モジーとの“Recap”、ポール・ハートノル(オービタル)との“Sayonara”を発表。さらにモ・カラがヒズボラの旗を振ったとしてテロ関連の容疑で起訴(後に棄却)された時期にはアルバム制作を開始し、さらにサブフォーカスとの“No Comment”もリリース……と精力的に動いていった。つまり、このたび登場するニュー・アルバム『FENIAN』はそんな時期に練り上げられていた作品ということになるのだ。
今回のプロデュースを担ったのは、フォンテインズDCやウェット・レッグなどバンド・アクトの仕事を数多くを手掛ける名匠ダン・キャリー。フォンテインズD.C.のグリアン・チャッテンを『Fine Art』収録の“Better Way To Live”に招いた縁もあったが、もともと『Fine Art』の続編を作ろうとしていたニーキャップの3人は、作品が前作と似すぎる恐れからそちらを中止し、より成熟した音楽的な作品を望んでキャリーにプロデュースを依頼したのだった。結果としてダークなテイストを増しつつ、彼らに期待されるタイプの振り幅は失われていない。UKベース・ミュージック的な側面は後退したものの、よりアタックの強いダンス・トラックが現在のニーキャップの勢いを駆り立てるかのようだ。
アルバムは 〈アイルランドよ永遠に〉を意味するアトモスフェリックな“Éire Go Deo”で幕を開ける。それに往年のルイス・レストのようなヒップホップの“Smugglers & Scholars”が続き、“Carnival”はモ・カラの裁判をめぐるメディアの騒ぎを取り上げたトライバルなダウンテンポ。パレスチナのラッパーであるファウジを招いた“Palestine”ではガザでの戦争について語られる。さらにスターマー首相の〈ジェノサイド〉に対する姿勢を非難する“Liars Tale”はレイヴ仕様のインダストリアル・ビートで襲いかかり、続く表題曲“FENIAN”でも盛り上がりが選択される。そこからスピードを緩めることなくアシッドの“Big Mad Mo”やプリミティヴなドリルンベース“Headcase”が続き、アルバムの勾配がいい感じに設計されていることもわかるだろう。ラディ・ピートを迎えたアブストラクトな“Cocaine Hill”を経てケイ・テンペストを招いたラストの“Irish Goodbye”は、鬱を患って自死したモウグリの母親を追悼する曲だという。
なお、アルバム・タイトルの〈フェニアン〉とは中世アイルランドの〈戦士〉を示す言葉に由来し、後にアイルランド共和主義のために戦う革命家をさしても使われた言葉だそうだ。モウグリによればそれは〈立ち上がって抵抗し、自分の信じるものを決して諦めない人〉のことだという。ニーキャップは屈しない。
