薬箱のような歌
それを〈一つのドラマ〉と呼ぶのは、あまりにも安っぽいので訂正しよう。Akiko Togoの歌には〈一つの人生〉がそれぞれ歌い込まれている。例えば、生まれ来る子どもたちのために歌うゴスペル・バラード“Into the light”や、子どもたちのコーラスが入った“Sing”。例えば、90歳で健在の祖母に捧げる陽気なレゲエ“リリンリン”。例えば、がんばるあなたへの真心を込めたエールソング“約束 ~Yakusoku~”。
「“Into the light”は、妹に子どもが生まれた時に、感極まったあまりに書いてしまった曲です。“Sing”では喜界島の島唄教室の子どもたちに歌ってもらっています。可愛くて元気のいい声で、曲にパワーを注いでもらいました。“リリンリン”は、アルバムの中で1曲だけ、ちょっと間の抜けた曲ですけど(笑)。島にいる祖母が、今年ちょうど90歳になって、頭はしっかりしているけど、耳が遠いんですね。だけど電話が大好きだから、耳が遠いのにめっちゃ電話かけてきて、会話が通じなくて、そのたびにイライラしていたんですけど、ある時ふと考えたんです。話が通じる通じないはどうでもよくて、ばあちゃんがいて、私がいて、会話はとんちんかんでも、〈おーい、元気?〉と言い合って、〈またね〉と言えたらそれで幸せだなと思って、そんな思いで歌詞を書きました。“約束 ~Yakusoku~”は、いま生きることが辛いと思っている人がいたら、〈かっこ悪くてもいいから、生きることを選んでいこうよ〉という思いを込めて歌いました。私は子どもの頃から、辛い時や落ち込んだ時に、好きな歌手の歌に励まされてきたんですけど、いまでも元気のない時にふと聴きたくなるのはダニー・ハサウェイなんですね。彼の歌は、普段はあんまり聴かないんですけど、ちょっと辛い時にだけ開ける薬箱、みたいな感じです。そんなふうに、つらい時にはTogoの歌を聴きたいと思ってもらえたら、本望ですね」。
こうして、さまざまな思いを込めた歌を聴き、朗らかで笑顔の絶えない話を聞けば、アルバム・タイトルが『Pray』になった理由がよくわかる。病める時も、健やかなる時も、若さに満ち溢れる時も、老いの訪れを感じる時も、そこには歌があり、祈りがある。Akiko Togoにとって、歌と祈りはイコールだ。
「自分のアルバムですけど、〈この曲はいまの私に向けて歌ってるな〉とか、励まされるような感覚があるんです。自分はレコーディングの途中で父を亡くすという経験をしましたけど、同じようにつらい思いを一人で抱えている方の心の痛みに寄り添えるような、元気が出るようなアルバムになっていると思うので、そういう方に届いたらいいなと思います。『Pray』というタイトルは、私が音楽をしている原点を表していて、小さい頃から歌を聴いたり、歌を歌うなかで、元気を出したり、生きる希望を取り戻したり、そういう経験がたくさんあったので、私もそういうものを表現していきたいという思いを再確認できた、大切な一枚になりました」。
Akiko Togoの作品を一部紹介。
左から、2021年作『SUN』、2019年作『Voices』、2017年作『Friends』(すべてVillage Again)
左から、Akiko Togoが客演したDJ Mitsu the Beatsの2020年作『ALL THIS LOVE』(Jazzy Sport/Village Again)、ダニー・ハサウェイの70年作『Everything Is Everything』(Atco)