©Gottlieb Bros

匠の筆捌きで幻想的な美世界を描出してきたレジェンド・バンドによる新作『Aurora』――夜空に揺れる光のカーテンは、その輝きを変えぬまま常に新しい色彩を帯びていく。

 「僕は、自分が参加してないものも含めてイエスの音楽が大好きなんだ」――元メンバーでありキーボーディストのリック・ウェイクマンが2002年のインタヴューで語った言葉である。歴代メンバーは20人前後、編成の変化は数十回という紆余曲折すぎるファミリー・ツリーを紡いできたイエス。それでも〈誰でも口ずさめるメロディー〉と〈テクニカルな技巧とシンフォニックなサウンドが織り成す複雑な構成の楽曲〉という一見矛盾するかのような特徴を併せ持つイエス・サウンドの魅力が色褪せることはなかった。ウェイクマンの言葉には、イエスというバンドの本質が詰まっているのではないだろうか。

 そんなイエスは68年にジョン・アンダーソン(ヴォーカル)、クリス・スクワイア(ベース)、ビル・ブルーフォード(ドラムス)を中心に結成された。70年のスティーヴ・ハウ(ギター)、71年のリック・ウェイクマン(キーボード)の加入で、黄金期のラインナップが揃い、『Fragile』(71年)、『Close To The Edge』(72年)とロック史における金字塔的な作品を相次いで発表。その後は、83年作『90125』に収録された“Owner Of A Lonely Heart”の大ヒットを挟みつつ、複雑なメンバー・チェンジを繰り返しながらも断続的に活動してきた。2015年に最長の在籍期間を持つクリス・スクワイアを亡くすという悲劇が起こるも、現在はスティーヴ・ハウ、ジョン・デイヴィソン(ヴォーカル)、ビリー・シャーウッド(ベース)、ジェフ・ダウンズ(キーボード)、ジェイ・シェレン(ドラムス)の5人体制で新しい歴史を刻み続けている。

YES 『Aurora』 Inside Out/ソニー(2026)

 これまで発表してきたどのアルバムにおいても、イエスは黄金期に形成されたサウンドを継承していると同時に、新しいサウンドを構築してきた。これは、このたびリリースされた通算24作目のニュー・アルバム『Aurora』でも変わらない。スティーヴ・ハウは本作について「私たちは過去をそのまま繰り返そうとしているわけではない。イエスのスピリットを前進させ、新しいものへと変貌させていくんだ」と語っているが、その言葉通りの作品といえるだろう。

 タイトル曲“Aurora”と“Turnaround Situation”の序盤2曲は〈ポップで親しみやすい〉という面でのイエス・サウンドを体現した楽曲。TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」のEDテーマとして彼らの名曲“Roundabout”(71年)が使用されたことから、このバンドを知ったリスナーには真っ先にオススメしたい。4曲目の“Countermovement”は、スティーヴ・ハウの多重録音が光る、特にギター・ファンは注目すべき組曲だ。続く中世古楽的なメロディーから始まる“Ariadne”では、シンフォニックなサウンドが壮大で神秘的な世界への旅に聴き手を連れて行く。さらに6曲目の“All Hands On Deck”は3分台の小品的な曲ながら、硬質なギター・リフと重心の低いベースというイエス流のハード・ロック・サウンドに、80sタッチのシンセを絡ませた、ここにきてバンドの新たな一面を見せてくれるナンバー。そこから、牧歌的なコーラスとジェフ・ダウンズの実験的なキーボードの対比がおもしろい“Outside The Box”、 カラフルな色彩とポップ感覚に溢れた“Jambustin’”と、オーセンティックな前半とは一転、バンドを更新するかのような挑戦的な後半へと流れていく構成は、スティーヴ・ハウの語りをそのまま表しているようである。

 また、ぜひこのアルバムはCDやアナログ盤を実際に手に取り、ジャケットを見つめながら体感してほしい。なぜなら、イエスの音楽はロジャー・ディーンによる美しくも幻想的なアートワークと結び付くことで、その世界観を完成させるからだ。地球から何千光年も離れた惑星で輝くオーロラを描いたかのようなイラストは、このアルバムの魅力をさらに引き上げている。

イエスの近作。
左から、2023年作『Mirror To The Sky』、2021年作『The Quest』(共にInside Out)、2019年のEPの拡張版『From A Page』(Mercury Studios)

イエスの作品を一部紹介。
左から、7月17日にリリースされるライヴ盤『Live At Roosevelt Stadium, Jersey City, 17 June 1976』(Rhino)、80年作『Drama』、72年作『Close To The Edge』(共にAtlantic)