ひび割れて、やがて欠けてしまった不完全な何かは、痕を隠すことなく修復することでいっそうの美しさを纏う。地下の髑髏も震えた演奏を経て、未踏の地平に向かう5人が新作『Perfecth』で叫んだ〈愛〉の真実とは?
完璧なものなんて存在しない
いまもっとも色気のあるロック・バンドは?と問われたら、筆者は真っ先にクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(以下QOTSA)を挙げるだろう。砂塵を舞い上げ、重心の低いギター・リフで酩酊・爆走する――そんなストーナー/ヘヴィー・ロックのカリスマとして君臨し続けるQOTSAも今年で30周年。最近は、フロントマンのジョシュ・ホーミがシャナイア・トゥエインやマストドンと相次いでコラボするなど話題に事欠かない彼らから、通算9作目となるアルバム『Perfecth』が届いた。その不思議なタイトルについて、ジョシュはこう振り返る。
「〈Perfect(パーフェクト)〉という言葉は、そもそも正直じゃない。だから俺はその言葉を壊して、〈Perfecth(パーフェクス)〉にした。自分が本来しっくりきたことなんて一度もない言葉には、そのほうがふさわしい綴りだと思ったんだ。この世界に完璧なものなんて存在しない。でも、あらゆるものが〈Perfecth〉ではあるように思えるんだ。バンドみたいな集団の中にいると、このタイトルはどこかユーモラスに感じられるよ。ひとりでいるときには、まったく笑えないんだけどな」。
完璧を求めすぎないこと、余白や偶発的なアクシデントさえも受け入れる器のデカさは、オープナーの“It’s Only Love”を聴けば明らかだ。鳥のさえずりに始まり、寝ぐせ頭のまま手に取ったであろうヨレたギターと、まだ酒が抜けてない歌声。それらを消し去る騒々しい電車の音。気づけばバンドと電子音とストリングスが渾然一体となった、万華鏡のようなサウンドスケープに引きずり込まれる。〈たかが愛/俺がしがみつくこの捻れた希望のよう〉――ふたたび電車が横切ると、チッチッと刻むハイハットに導かれるがまま、いつの間にやら“Insignificant Other”の世界へ。なんとムーディーな幕開けか。
特筆すべきは、ジョシュとはおよそ20年来の付き合いであるバンドの屋台骨、マイケル・シューマン(ベース)が初めて共同プロデューサーとしてジョシュと共にクレジットされている点だ。2017年の『Villains』ではヒットメイカーのマーク・ロンソンを迎え、ブギーでダンサブルな新機軸を提示し、ジョシュみずからもMVで軽快なダンスを披露するなど、常にこちらの予想を裏切ってきたQOTSA。だが、メンバー構成としては2013年にジョン・セオドア(ドラムス:マーズ・ヴォルタほか)が加入してからは不動の5人組として活動している。13年の時を経て、バンドの絆はかつてなく強固であるに違いない。とりわけ、数百万体の遺骨に囲まれるパリの地下墓地=カタコンブでの生々しい演奏(2025年にライヴ盤『Alive In The Catacombs』としてリリース)はジョシュにとっても忘れがたい経験だったようで⋯⋯。
「〈カタコンブ〉は俺たちを永遠に変えてしまった。削ぎ落としていくことに価値があるとわかったんだ。そうすることで、最後に残ったものがとても大きな意味を持つようになる。だからいま、俺たちがまだ試していないことのひとつは、もっと演劇的な要素と、カタコンブにあった静寂さを併せ持つショーを作ることなんだと思う。演劇性やヴォードヴィル的な要素、それにあの静寂を、これまで俺たちが見せてきたサイケデリックな部分や、大音量で激しい部分と組み合わせてみたいね」。
痛みを伴う愛を受け入れること
粘っこいグルーヴに乗せてゴスな女の子たちに想いを馳せる“Where The Goth Girls At?”、絹のようなファルセットとアコギ/メロトロンの調べに息を呑む“From The Cliff”、カントリー歌手のニッキー・レーンを迎えた恍惚のアンセム“Easy Street”(ジョシュ考案の血みどろでトリッピーなMVは必見)と名曲揃いの本作。なかでもハイライトのひとつが、QOTSAによるトーキング・ヘッズ再解釈とも呼びたくなるサイコなギター・リフと野性的なドラムが鳴り響く“Sunday”だ。実はこの曲、ジョシュがプロデュースを務めたイギー・ポップの17作目『Post Pop Depression』(2016年)に収録された同名曲のQOTSAヴァージョンなのである。
「メロディーや歌の部分を思い付いたのは、ジョシュア・ツリーでイギーと夜遅くにセッションしていたときのこと。すごく気に入ってしまって、これは自分のために取っておこう⋯⋯と思ったんだよね。ところが、翌朝の朝食のときにイギーに会って、〈昨夜この曲を書いたときに、こんなふうに自分勝手な気持ちになってしまったんだ〉と彼に打ち明けた(笑)。〈でも、俺がどれだけあなたを愛しているか、そして俺が与えられるものはすべてあなたに捧げたいと思っていることを知ってほしい。だからこの曲は2人のものにしよう〉って。イギーも、デヴィッド・ボウイと一緒にやった“China Girl”でそういう経験をしていたしね」。
ロックの聖地、サウンド・シティをはじめ、本作では世界中で録音した素材をパッチワークのように融合。最終曲“Run Away From The Mob”に至っては、2012年に録ったデイヴ・グロールのドラムがフィーチャーされているのだから驚きだ。「もし曲がまだ完成したように感じられないとしても、曲が悪いという意味じゃない。その曲をバッグの中に入れて持ち歩いて、いつか自分がそれを完成させられるくらい賢くなったとき、あるいは感情的に十分成熟したとき⋯⋯または十分な技術を身につけたときまで待てばいい」とはジョシュの言葉だが、アルバム屈指のバラード“Mono”は、日本での滞在をきっかけに生まれたのだとか。
「東京で金継ぎの展示を観に行ったんだ。そのとき、目や耳を開いて答えを探しているなら、その答えはちゃんと現れるんだと感じた。金継ぎの背後にある美しさが、自分にこれほど大きな意味を持つことになるとは思っていなかったよ。“Mono”は愛によって打ちのめされて、愛のせいで正気を失ってしまうような感覚についての曲。愛という美しいものによって壊れてしまうことを歌った曲なら、音として、その感覚に人間が可能な限り近づくにはどうすればいいのか?と考えた。壊れていることを気にするのではなくて、どうやって直すのか、どうやってもう一度繋ぎ合わせるのか……そのプロセスに惹かれて夢中になったんだ」。
失った愛を幻肢(事故などで手足を失った人が、いまもそこに手足があるかのように感じること)に喩えた“Phantom Limb”が象徴的だが、『Perfecth』に収録された全9曲の通奏低音は〈愛〉だという。たかが愛、されど愛。人を打ちのめし、立ち上がれなくするのが愛なら、砕けた心を金継ぎのように繋ぎ合わせるのもまた、愛なのだ。狂おしいほどの轟音に包まれる“Run Away From The Mob”のラストで、ジョシュは何度もこう叫ぶ――〈お前がどこにいようと俺はそこにいる〉。
「前作は音の面ではすごく苛烈で残酷なレコードだった。まるでヤマアラシを抱きしめるような感じというか。それに対して、このアルバムが語っているのは、どんな形であれ愛を受け入れるということなんだ。たとえ、それがどんなに痛みを伴うものだったとしてもね」。 *上野功平
ジョシュ・ホーミの参加作を一部紹介。
左から、マストドンの2026年作『Marrow Deep』(Concord)、シャナイア・トゥエインの2026年作『Little Miss Twain』(Republic)、ニッキー・レーンの2022年作『Denim & Diamonds』(New West)、イギー・ポップの2016年作『Post Pop Depression』(Loma Vista)
トロイ・ヴァン・リューウェンの近年の参加作を一部紹介。
左から、チェルシー・ウルフの2026年作『The Dark』(Concord)、スノウ・パトロールの2024年作『The Forest Is The Path』(Polydor)、ジ・アームドの2023年作『Perfect Saviors』(Sargent House)
マイケル・シューマンの参加作を一部紹介。
左から、ベイビー・クイーンの2026年作『I Hope You Don’t Remember Me』(Insanity)、ニール・フランシスの2025年作『Return To Zero』(ATO)、GLUの2025年のEP『Boogie Man EP』(Universal UK)
石器時代の女王さまたちが闊歩してきた、真っ赤な目をした30年間!!
ストーナー・ロックの伝説的なバンド、カイアスが解散したのは、4作目『...And The Circus Leaves Town』をリリースした直後の95年夏。同バンドのギタリストだったジョシュ・ホーミは、マーク・ラネガンを擁するスクリーミング・トゥリーズのツアーに参加したのち、ガンマ・レイを結成した。そして97年、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジに改名し、98年にファースト・アルバム『Queens Of The Stone Age』を発表。獰猛なギターと快楽的に反復するリズムを重ねた独自のスタイルを提示した。この時期は、制作後に加入したニック・オリヴェリ(ベース)らカイアス近辺のメンバーが中心となっている。
2000年の2作目『Rated R』では、ドラッグの名前を連呼する“Feel Good Hit Of The Summer”など、サイケな感覚をよりポップに表現。ラネガン(ヴォーカル)が加入し、デイヴ・グロールが制作とツアーに参加した2002年の『Songs For The Deaf』は、全米で初のゴールド・ディスクを獲得するなどブレイク作となった。その後、オリヴェリとラネガンが離れ、トロイ・ヴァン・リューウェン(ギター/キーボード)とジョーイ・カスティージョ(ドラムス)が加わって2005年に4作目『Lullabies To Paralyze』を発表。続く『Era Vulgaris』(2007年)はインダストリアルな音作りが印象深い。同作のツアーからマイケル・シューマン(ベース)とディーン・フェルティタ(ギター/キーボード)が参加し、現在に続くバンドの骨格が固まった。
それから数年は各人の課外活動が目立ったものの、2013年にマタドールへ移籍し、6年ぶりの6作目『...Like Clockwork』を完成させる。カスティージョが制作中に脱退するもグロールがふたたびドラムを叩き、エルトン・ジョンやトレント・レズナーら豪華ゲストも参加した同作は、風通しの良いサウンドが高く評価され、初の(かつ現在では唯一の)全米1位を記録。制作後にはジョン・セオドア(ドラムス)が加入し、現在の5人体制に仕上がった。
以降、マーク・ロンソン制作の『Villains』(2017年)、妖艶なガレージ・ロックを鳴らした『In Times New Roman...』(2023年)とリリースを重ね、2025年にはパリの地下墓地でのライヴ盤『Alive In The Catacombs』を発表。ストーナー・ロックの血脈を保ちつつ、作品ごとに新たなサウンドを提示するQOTSAは、今後もリスナーを新しい感覚へと導いてくれるだろう。 *田中亮太
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジの作品と関連作。
左から、カイアスの95年作『...And The Circus Leaves Town』(Elektra)、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジの98年作『Queens Of The Stone Age』(Loosegroove)、2000年作『Rated R』、2002年作『Songs For The Deaf』、2005年作『Lullabies To Paralyze』、2007年作『Era Vulgaris』(すべてInterscope)、2013年作『...Like Clockwork』、2017年作『Villains』、2023年作『In Times New Roman...』、2025年のライヴ盤『Alive In The Catacombs』(すべてMatador)
