ドレイクが“Wu-Tang Forever”なんて曲の発表で後押し(?)し、〈Rock The Bells〉のステージでは故オール・ダーティ・バスタードのホログラム再現も話題となった2013年秋には登場が囁かれていたブツだが……毎度の不仲説などもあっただけに、まずは無事にリリースされたことを喜ぶべきだろう。 

WU-TANG CLAN A Better Tomorrow Asylum/Warner Bros./ワーナー(2014)

 実に7年ぶりというグループ史上最長のブランクを経てウータン・クランの新作『A Better Tomorrow』がお目見えとなった。もちろんその間にはメンバー個々のソロ・リリースや、RZAの野心的な監督作「アイアン・フィスト」の公開、メソッド・マンレイクォンゴーストフェイス・キラーという人気者トリオでの『Wu-Massacre』(2010年)などのトピックがあり、そのメソッド・マンの名作『Tical』の20周年記念盤も記憶に新しいなかではあるが、やはり過去ではなく現代に生きる集団としての存在感を常に証明せんとする姿にはワクワクさせられるというものだ。

 ODBの声も挿入して賑やかに幕を切って落とすのはRZAとリック・ルービンが共同で手掛けた(エイドリアン・ヤングも関与)先行シングル“Ruckus In B Minor”! 目が覚めるほど濃厚なソウルが薫り立つ一撃だが、総帥RZAがほぼ全編を司った以降の楽曲も、ひたすら濃密な路上感とウーの流儀でラフに塗り込められている。先述のシングルと同じく、何曲かはハイの総本山=メンフィスのロイヤル・スタジオに赴いてチャールズ・ホッジズレスター・スネルら伝説的なスタジオ・ミュージシャンによる円熟のプレイを下敷きにしたもの。そんなリアル・ヴィンテージなトラックに乗る総員のワサワサしたマイクリレーは圧倒的で、個々がそれぞれのエグさや荒くれやコクや匂いをソウルフルなトラックに染み込ませていく。そして、そんな贅沢にして猥雑な展開の果てに訪れるオージェイズ“Family Reunion”使いの“Wu-Tang Reunion”にはグッとくる他ないだろう。

 ちなみに、2015年にはレイクォン待望の新作『Fly International Luxurious Art』を筆頭に、GZAの『Dark Matter』、GFKの『Twelve Reasons To Die II』といったソロ作が続々と届き、さらにはメソッド・マン&レッドマンの『Blackout! 3』、そしてGFKとバッドバッドノットグッドによる『Sour Soul』といった大型コラボ作も登場してくる予定。この先に結集する機会がどれほどあるのかはわからないが、やはり〈Wu-Tang Forever〉は未来永劫変わらない事実なのだ、たぶん。

 

▼関連作品

左から、メソッド・マンの94年作の20周年記念盤『Tical: Deluxe Edition』(Def Jam)、U・ゴッドの2013年作『The Keynote Speaker』(Soul Temple)、2012年のサントラ『The Man With The Iron Fists』(Stax/Soul Temple
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GHOSTFACE KILLAH 36 Seasons Salvation/Tommy Boy/OCTAVE(2014)

メンバー内でもっとも精力的に動くGFKの新作は、往年のソウル作法を現代に甦らせるレヴェレーションズが全曲の演奏とプロデュースを担当! ウー関連作への関与も多い連中だけに相性の良さは言うまでもないが、主役不在でバンドのソウル・カヴァーなども交えた雑多さが全体を黒いヴァイブで包容している。ブルー・ノートの新人、キャンデス・スプリングスの出番にも注目!