2021年における1991年、2022年における1992年と、2020年代に入ってから30年前のアーティストやシーン、アルバムや曲を振り返る企画が多い。Mikikiも、〈アーティストと音楽関係者が選ぶ「91年リリースの1曲」〉という企画をおこなった。90年代の音楽シーンがそれほど充実していたということだが、1993年の音楽シーンも端的に言ってすごかった。

というわけで、今回はMikikiの年末企画として、93年に発表された国外の名盤を47作、オールジャンルで紹介しよう。改めてリストアップしてみると、ジャンルを問わずポップミュージックの歴史を塗り替えた強力なレコードばかり。30年前の名作から今のシーンを透かして見ることも可能だろう(掲載はファーストネームのABC順)。

★2023年末特別企画の記事一覧はこちら


 

AEROSMITH 『Get A Grip』 Geffen(1993)

初の全米1位を獲得した大ヒット作。“Intro”では、ランDMCとの“Walk This Way”(86年)へのセルフオマージュでスティーヴン・タイラーのラップも聴ける。全体的にタイトで乾いたハードロックサウンドが清々しい音像で(〈スコン!〉と鳴り響くドラムの音がかなり独特)、力強いバラードや“Livin’ On The Edge”のような社会的なメッセージを込めた曲も聴き応えがある。オルタナ/グランジの全盛期に、一方で彼らはアリーナロックの王道を堂々と歩んでいた。

 

AUTECHRE 『Incunabula』 Warp(1993)

何にも似ないIDM、どこにも属さない実験的な電子音楽を作り続けている孤高のデュオの記念すべきデビュー作。“Bike”あたりがわかりやすいが、ルーツであるヒップホップ、アシッドハウス、テクノなどからの影響が全体的に感じられ、彼らのディスコグラフィの中では聴きやすく、わかりやすい作品かもしれない。それゆえ、この頃にしかない輝きとその後に繋がる要素の両方が聴き取れる。

 

BELLY 『Star』 Sire/Reprise/4AD(1993)

アメリカンオルタナ/ドリームポップバンドのデビューアルバムにして代表作。フロントのタニヤ・ドネリーは、スローイング・ミュージズやブリーダーズのメンバーだったことでも知られている。タニヤのウィスパーボイス、ジャングリーなギター、オルタナサウンドが魅力で、シングルカットされヒットした“Feed The Tree”に持ち味が詰まっている。バンドは95年に2作目『King』をリリースし、翌年に解散。2016年に復活した。

 

BIKINI KILL 『Pussy Whipped』 Kill Rock Stars(1993)

第三波フェミニズムとライオットガールを代表する、キャスリーン・ハンナなどからなる4人組のデビューアルバム(タイトルが強烈すぎる)。特に革命的な女王への憧れを歌う“Rebel Girl”(反抗する少女)は、レズビアンの関係を仄めかし、ヘテロセクシュアルな常識や規律に楯突いた、ライオットガールのマニフェスト的な名曲。粗削りで剥き出し、生々しいパンクサウンドも強烈だ。リンダ・リンダズのファンはマストリッスン。

 

BILL FRISELL 『Have A Little Faith』 Elektra Nonesuch(1993)

アバンギャルドジャズからアメリカーナまでを横断する異能のギタリストによる7作目。ドン・バイロン(クラリネット)、ガイ・クルセヴェク(アコーディオン)、カーミット・ドリスコル(ベース)、ジョーイ・バロン(ドラムス)という彼らしい独特の編成で、アメリカの原風景的な音楽を自由に、軽やかに、時にユーモラスに解釈する。アーロン・コープランドやチャールズ・アイヴズ、スティーヴン・フォスターといった自国の代表的なコンポーザーからボブ・ディラン、マドンナまで幅広い作曲家の曲を取り上げ、縦横無尽に演奏していく様はすさまじい。クラシック、チェンバーミュージック、マーチ、ジャズ、ポップを〈アメリカ音楽〉としてまとめあげてしまえることが可能なのは、彼くらいのもの。

 

BJÖRK 『Debut』 Polydor(1993)

今年、来日公演が評判になった唯一無二のシンガーの、タイトルどおりのデビュー作。言わずと知れた名盤だが、ポストパンク/オルタナバンドのシュガーキューブスでの活動を経て、ソロアーティストとして独自の音楽性を提示している。ソウル・II・ソウルで腕をふるったネリー・フーパーが共同プロデューサーとしてサウンドを作り上げており、ハウスや日本で言うところのグラウンドビートなどダンスミュージックに深く傾倒。とはいえ単なるポップ系のハウスやダンスポップになっていないのがさすがで、例えばティンパニが鳴り響く“Human Behaviour”、不思議なリズムを刻む“Venus As A Boy”(名曲!)、ハープや管楽器と歌い交わす“Like Someone In Love”“The Anchor Song”など、独創的で横断的かつ挑戦的なサウンドにクラシカルでわかりやすいポップさを難なく乗せてしまえる才覚は現在も変わっていない。