2021年における1991年、2022年における1992年と、2020年代に入ってから30年前のアーティストやシーン、アルバムや曲を振り返る企画が多い。Mikikiも、〈アーティストと音楽関係者が選ぶ「91年リリースの1曲」〉という企画をおこなった。90年代の音楽シーンがそれほど充実していたということだが、1993年の音楽シーンも端的に言ってすごかった。

というわけで、今回はMikikiの年末企画として、93年に発表された国外の名盤を47作、オールジャンルで紹介しよう。改めてリストアップしてみると、ジャンルを問わずポップミュージックの歴史を塗り替えた強力なレコードばかり。30年前の名作から今のシーンを透かして見ることも可能だろう(掲載はファーストネームのABC順)。

★2023年末特別企画の記事一覧はこちら


 

AEROSMITH 『Get A Grip』 Geffen(1993)

初の全米1位を獲得した大ヒット作。“Intro”では、ランDMCとの“Walk This Way”(86年)へのセルフオマージュでスティーヴン・タイラーのラップも聴ける。全体的にタイトで乾いたハードロックサウンドが清々しい音像で(〈スコン!〉と鳴り響くドラムの音がかなり独特)、力強いバラードや“Livin’ On The Edge”のような社会的なメッセージを込めた曲も聴き応えがある。オルタナ/グランジの全盛期に、一方で彼らはアリーナロックの王道を堂々と歩んでいた。

 

AUTECHRE 『Incunabula』 Warp(1993)

何にも似ないIDM、どこにも属さない実験的な電子音楽を作り続けている孤高のデュオの記念すべきデビュー作。“Bike”あたりがわかりやすいが、ルーツであるヒップホップ、アシッドハウス、テクノなどからの影響が全体的に感じられ、彼らのディスコグラフィの中では聴きやすく、わかりやすい作品かもしれない。それゆえ、この頃にしかない輝きとその後に繋がる要素の両方が聴き取れる。

 

BELLY 『Star』 Sire/Reprise/4AD(1993)

アメリカンオルタナ/ドリームポップバンドのデビューアルバムにして代表作。フロントのタニヤ・ドネリーは、スローイング・ミュージズやブリーダーズのメンバーだったことでも知られている。タニヤのウィスパーボイス、ジャングリーなギター、オルタナサウンドが魅力で、シングルカットされヒットした“Feed The Tree”に持ち味が詰まっている。バンドは95年に2作目『King』をリリースし、翌年に解散。2016年に復活した。

 

BIKINI KILL 『Pussy Whipped』 Kill Rock Stars(1993)

第三波フェミニズムとライオットガールを代表する、キャスリーン・ハンナなどからなる4人組のデビューアルバム(タイトルが強烈すぎる)。特に革命的な女王への憧れを歌う“Rebel Girl”(反抗する少女)は、レズビアンの関係を仄めかし、ヘテロセクシュアルな常識や規律に楯突いた、ライオットガールのマニフェスト的な名曲。粗削りで剥き出し、生々しいパンクサウンドも強烈だ。リンダ・リンダズのファンはマストリッスン。

 

BILL FRISELL 『Have A Little Faith』 Elektra Nonesuch(1993)

アバンギャルドジャズからアメリカーナまでを横断する異能のギタリストによる7作目。ドン・バイロン(クラリネット)、ガイ・クルセヴェク(アコーディオン)、カーミット・ドリスコル(ベース)、ジョーイ・バロン(ドラムス)という彼らしい独特の編成で、アメリカの原風景的な音楽を自由に、軽やかに、時にユーモラスに解釈する。アーロン・コープランドやチャールズ・アイヴズ、スティーヴン・フォスターといった自国の代表的なコンポーザーからボブ・ディラン、マドンナまで幅広い作曲家の曲を取り上げ、縦横無尽に演奏していく様はすさまじい。クラシック、チェンバーミュージック、マーチ、ジャズ、ポップを〈アメリカ音楽〉としてまとめあげてしまえることが可能なのは、彼くらいのもの。

 

BJÖRK 『Debut』 Polydor(1993)

今年、来日公演が評判になった唯一無二のシンガーの、タイトルどおりのデビュー作。言わずと知れた名盤だが、ポストパンク/オルタナバンドのシュガーキューブスでの活動を経て、ソロアーティストとして独自の音楽性を提示している。ソウル・II・ソウルで腕をふるったネリー・フーパーが共同プロデューサーとしてサウンドを作り上げており、ハウスや日本で言うところのグラウンドビートなどダンスミュージックに深く傾倒。とはいえ単なるポップ系のハウスやダンスポップになっていないのがさすがで、例えばティンパニが鳴り響く“Human Behaviour”、不思議なリズムを刻む“Venus As A Boy”(名曲!)、ハープや管楽器と歌い交わす“Like Someone In Love”“The Anchor Song”など、独創的で横断的かつ挑戦的なサウンドにクラシカルでわかりやすいポップさを難なく乗せてしまえる才覚は現在も変わっていない。

 

BLACK MOON 『Enta Da Stage』 Nervous(1993)

米ブルックリンのアンダーグラウンドなトリオのデビュー作。代表曲“Who Got Da Props”をまずは聴いてほしい。バックショットの暴力的かつリアルなリリック、DJイーヴィル・ディーやビートマイナーズらによるサンプリングをベースにしたダークでスモーキーでジャジーなビートの絡まり合いは、東海岸ヒップホップのクラシックに相応しい手触り。スミフン・ウェッスンやモブ・ディープのハヴォックらが参加。バックショットはスーパーグループ、ブート・キャンプ・クリックでも活動している。

 

BLUR 『Modern Life Is Rubbish』 Food(1993)

新作『The Ballad Of Darren』の発表とSUMMER SONICのヘッドライナーを務めたことが話題だった4人のセカンドアルバム。マネージャーの横領、アメリカツアーの失敗、シングル“Popscene”の不発(名曲なのに!)といった散々な目に遭い、バンドはレーベルからクビになりそうになった。そんななかデーモン・アルバーンは英国趣味に傾倒、ブラーがブラーになった瞬間だった。当初予定していたプロデューサー、XTCのアンディ・パートリッジとの制作がうまくいかなかったという裏話もあるが、大ヒットはせずとも彼ららしいロックサウンドと皮肉に満ちたリリックをレコードに封じ込めた名盤が生まれた。収録曲“Villa Rosie”は、サマソニでひさびさに披露された。

 

THE BREEDERS 『Last Splash』 4AD/Elektra(1993)

the pillowsの山中さわおが心酔するバンドの代表作で、今年30周年記念盤がリリースされた。ピクシーズのキム・ディール率いるカルテットは、この2作目でオルタナを代表する存在に。オルタナ/グランジ的なラフさと激しさがある一方で、ポップでキュートでユーモラスな魅力も同居しており、唯一無二のレコードだと言える。名曲“Cannonball”のミュージックビデオは、スパイク・ジョーンズとソニック・ユースのキム・ゴードンが監督。

 

CARCASS 『Heartwork』 Earache/Columbia(1993)

英リヴァプールのバンドの4作目にして、メロディックデスメタルの代表的名盤。90年に加入したギタリスト、マイケル・アモットが在籍した最後の作品になった(その後、2007年の復活時に再参加)。速さよりもブラック・サバス的に引きずるヘヴィネスが強調され、おどろおどろしくもあるが、一方で〈泣き〉や叙情性が印象に残るのは、やはりアモットの独特なプレイゆえ。ジャケットの彫刻は、あのH・R・ギーガーの作品。

 

CYNIC 『Focus』 Roadrunner(1993)

来日公演が盛り上がっていたプログレッシブメタル/テクニカルデスメタルバンドのファーストアルバムだが、バンドはリリース後に解散(2006年に復活)。それゆえ伝説的な存在の伝説的なアルバムでもあるわけだが、他のメタルバンドと比べても異質で特異な音楽性だったことは明らか。フレットレスベースやチャップマンスティック、叙情的なクリーントーンのギター、ギターシンセなどを縦横無尽に奏でる自由で独創的な演奏は、ジャズやフュージョンからの影響を多分に受けたもの。ボコーダーを用いたボーカルも独特だ。キング・クリムゾンからジャコ・パストリアスやウェザー・リポート、パット・メセニー、ティグラン・ハマシアンまで、様々なロックアーティストやジャズミュージシャンのファンに聴いてほしい。

 

DEATH 『Individual Thought Patterns』 Relativity(1993)

複雑性が増し、独自のテクニカルデスメタルを提示した『Human』(91年)に続いて発表された5作目。ギタリストのアンディ・ラ・ロック(キング・ダイアモンド)とドラマーのジーン・ホグラン(ダーク・エンジェル)が参加した唯一のアルバムになった。次々と展開し目まぐるしく変化していくリズム、見事なギターソロ、チャック・シュルディナーのシャウトを中心にした複雑な構造の曲を、高度な技術に裏打ちされた一糸乱れぬアンサンブルで奏でる様は圧倒的。実に創造的な名盤だ。次作『Symbolic』(95年)も傑作。

 

DIGABLE PLANETS 『Reachin’ (A New Refutation Of Time And Space)』 Pendulum/Elektra(1993)

米ブルックリン発のオルタナティブヒップホップトリオによるデビューアルバム。ジャズサンプルを中心にしたメロウなビート、時にポリティカルなテーマにも切り込むリリック、しかし耳心地はスムーズで甘い語り口のラップと、東海岸ヒップホップのマナーに則った部分とシーンから少し浮いた独自性が凝縮されている。アート・ブレイキーの“Stretching”のサンプリングが印象的なクラシック“Rebirth Of Slick (Cool Like Dat)”を収録。次作にして最終作『Blowout Comb』(94年)も重要だ。

 

DINOSAUR JR. 『Where You Been』 Blanco Y Negro(1993)

ニルヴァーナをはじめ、90年代のオルタナバンドの先輩格だったJ・マスキス率いるバンド。彼らの代表作といえば『You’re Living All Over Me』(87年)、『Bug』(88年)、『Green Mind』(91年)あたりだろうが、シングル“Start Choppin’”がヒットし商業的な成功を掴んだ本作も重要だ。マスキスの雄弁なギター、親しみやすいメロディ、ファットなサウンドなど、聴きやすさやポップさが成功の理由か。ちなみにルー・バーロウは89年に脱退しており、この時のベーシストはマーク・ラネガンのバンドなどで演奏しているマイク・ジョンソン。

 

EARTH 『Earth 2』 Sub Pop(1993)

ニルヴァーナのカート・コバーンとの友情でも知られたディラン・カールソン率いるバンドの、唯一無二の実験作。ドラムのビートはほぼなし。15分の“Seven Angels”、27分の“Teeth Of Lions Rule The Divine”、30分の“Like Gold And Faceted”という3幕構成で、遅く重たく引きずり、とぐろを巻くドローンメタルを延々と展開する。オルタナ/グランジの時代の表面がニルヴァーナなら、裏面に位置するバンドの怪作。

 

GURU 『Jazzmatazz Vol. 1』 EMI(1993)

イーストコーストヒップホップを象徴するギャング・スターでDJプレミアと活動していたMCがソロデビュー。タイトルどおり、ジャズのレガシーに敬意を払っていることはジャケットからも伝わる。いわゆるジャズラップ(日本で言うところのジャジーヒップホップ)を最もわかりやすい形で体現した名盤。ジャズのサンプリングによるビートを中心にした煙たいムードはもちろん、ドナルド・バード、ブランフォード・マルサリス、コートニー・パイン、ロニー・リストン・スミス、ロイ・エアーズら伝説的ジャズメンを召喚し、生演奏との融合を試みたことも重要だ。レコードで持っていたい一枚。

 

HARDFLOOR 『TB Resuscitation』 Harthouse/Moonshine(1993)

ドイツのテクノデュオによる最初の作品。贅肉が削ぎ落とされ、無駄がなく機械的なジャーマンテクノらしいサウンドで、めくるめくアシッドハウスやストイックなハードトランスがひたすら展開されていくトリップアルバムだ。代表曲“Acperience”こと“Acperience 1”を収録。

 

JAMIROQUAI 『Emergency On Planet Earth』 S2(1993)

誰もが知るアシッドジャズのプリンス、ジェイ・ケイ率いるバンドのデビュー作で、全英1位に輝いた。敬愛するスティーヴィー・ワンダーなどからそのまま受け継いだソウル/ファンクやフュージョンをアップテンポで英国的なダンスミュージックへと軽やかに磨き上げており、ジャミロクワイの音楽、あるいはアシッドジャズの完成形が早くも提示されている。冒頭のシングル2曲“When You Gonna Learn?”“Too Young To Die”がすべてを物語る。

 

JANET JACKSON 『Janet』 Virgin(1993)

〈マイケル・ジャクソンの妹〉という冠を脱ぎ捨て、80年代後半から90年代にかけてR&Bシーンを席巻し、黄金期を築いた才能がヴァージンと契約した5作目で、今年デラックス版で再発された。ジャム&ルイスとの前作『Rhythm Nation 1814』(89年)での力強いダンス路線やニュージャックスウィングへの取り組みを引き継ぎながら、90年代的洗練とスムーズさ、艶めかしくセクシーな表現を前面に押し出している。ヒットナンバー“That’s The Way Love Goes”を収録。同年には映画への初出演作にして2パックとの共演作「ポエティック・ジャスティス/愛するということ」も公開された。

 

JELLYFISH 『Spilt Milk』 Capitol(1993)

銀杏BOYZの峯田和伸など、国内にファンが多いパワーポップバンドの2作目にして最終作。“Joining A Fan Club”や“New Mistake”を聴けばわかるとおり、ビートルズ(特にポール・マッカートニー)、ビーチ・ボーイズ、クイーンなどの遺産を受け継ぎ、これでもかと趣向を凝らしたロックオーケストラ的なアンサンブルとコーラスワークで魅せる。めくるめくジェリーフィッシュ流のパワーポップ世界には、圧倒されるばかり。ちなみに名プロデューサー、ジョン・ブライオンがギターでさりげなく参加。邦題は『こぼれたミルクに泣かないで』。

 

JODECI 『Diary Of A Mad Band』 Uptown/MCA(1993)

ケイシー、ジョジョ、ミスター・ダルヴィン、ディヴァンテ・スウィングからなる、90年代のR&Bを代表するカルテット。彼らのセカンドアルバムは、前作『Forever My Lady』(91年)での成功の勢いを駆った傑作。シルキーでセンシュアス、伸びやかかつディープな4声の重なり合いがひたすら心地よく陶酔的で、特にヒット曲“Cry For You”“Feenin’”などのミドルで映える。自ら曲を書きプロデュースしている点も重要だが、注目すべきはティンバランドとミッシー・エリオットの参加。2人の最初期の仕事だ。2022年に拡大版がリリースされた。

 

LIZ PHAIR 『Exile In Guyville』 Matador(1993)

再評価著しいというか、今こそ聴くべき〈女のロック〉の傑作。ローリング・ストーンズの名盤をもじったタイトル(〈男村の流浪人〉)も痛快だが、ローファイでスカスカで粗野なロックアンサンブルに乗せて、女性主導のセックスや性欲を露骨に歌った歌詞が何よりも重要。PJハーヴェイと並んで〈オルタナクイーン〉とも呼ばれたが、彼女のぶっきらぼうな歌は女性の解放の歌でもあった。まずは“Never Said”や“Fuck And Run”を聴いてほしい。

 

MARIAH CAREY 『Music Box』 Columbia(1993)

不世出のシンガーが、3作目にして世界的な成功をものにした名作。超ハイトーンボイスとパワフルな中音域の歌唱の交差にぶっとばされる全米ナンバーワンヒット“Dreamlover”で、アルバムは開幕。続く“Hero”も大ヒット曲だが、こちらは名曲“Without You”と同様にマライアらしい見事なバラード。ちなみにハチロクのスロウジャム“Never Forget You”は、ベイビーフェイスが手がけている。30周年版のCDやレコードが2024年にリリースされることがアナウンスされたばかり。

 

MELVINS 『Houdini』 Atlantic(1993)

カート・コバーンが共同プロデューサーを務めた、スラッジ/ドゥームメタルとグランジの結節点のような傑作。バズ・オズボーンの憎々しく絞り出すような歌、3人がのたうち回るような暗く重い演奏、暴力的に乾いた刺々しい音像、悪意に満ちたジャケットと、どれを取っても強烈極まりない。キッスの“Goin’ Blind”のカバーすら彼らの色に染め上げられており、まるでブラック・サバスの演奏のように聞こえる。来日公演の開催が控えており、現役にして多作家のベテランバンドに再び注目が集まっている。

 

NEW ORDER 『Republic』 London(1993)

イビサ島のムードを封じ込めた名作『Technique』(89年)から4年、メンバーのソロ活動と古巣ファクトリーの破産を経て、ロンドンからリリースした6作目。経営危機にあったハシエンダの救済も関係していたそうだが、逆風もなんのその、シングル“Regret”のヒットもあり、UKチャートで首位を獲得した。ブレイクビートやアシッドハウス(93年はピークが過ぎ、リバイバルしていた)からユーロビートまでを取り込んだ、アッパーで享楽的なダンスミュージックが次々と繰り出される。懐かしさが2周くらい回って、かえってフレッシュに聞こえるアルバムだが、そんななかニューエイジっぽくて異質な終曲“Avalanche”がいま聴くとおもしろい。名曲“Regret”の発明的なギターリフ、切ないメロディは永遠。

 

NIRVANA 『In Utero』 DGC/Geffen(1993)

30周年版のリリースによって改めて振り返られている、バンドの3作目で最終作。ファンにとって真の傑作は『Nevermind』(91年)ではなく本作、とはよく言われること。実際、カートの希望で起用されたスティーヴ・アルビニによるドライで緊張感のあるサウンド、アンダーグラウンド的な(非商業的とも評される)志向性は前作と大きく異なり、これこそが彼らの本来の姿と言えよう。収録曲は“Heart-Shaped Box”“Rape Me”“Pennyroyal Tea”“All Apologies”などカートの才気走ったソングライティングによる名曲だらけだが、どこまでも暗く重い。本作を発表した翌年に自死してしまうカートのギリギリの精神状態、それが反映された詞とバンドのヘビーな演奏、アルビニのプロダクションといった要素が奇跡的に重なり合った唯一無二のマスターピースだ。

 

ORBITAL 『Orbital (Brown Album)』 Internal(1993)

90年代といえば、本稿でも複数の作品を紹介しているダンスミュージックがメジャー化した時代でもある。フィル&ポール・ハートノル兄弟のデュオは、当時のUKテクノを象徴する存在だった。エレクトロやパンクに影響され、レイヴやアシッドハウスに育てられた2人の名曲といえば、ファーストアルバム『Orbital』(通称『グリーン・アルバム』)にも収録された“Chime”(89年)。続くこの2作目、通称『ブラウン・アルバム』は、ヒット曲“Halcyon”(92年。アルバム版は“Halcyon + On + On”)を収録している。トランキライザー中毒の母に捧げたもので、切なさや儚さを携えながら上昇していくような、美しくユーフォリックなフィーリングの名曲だ。なおダンスミュージックはシングルが今も昔も中心なので、アルバム基準だと取りこぼすものが多いことを注記しておく。

 

PEARL JAM 『Vs.』 Epic(1993)

オルタナ/グランジの代表的なバンドが、デビュー作『Ten』(91年)での成功に続いて完成させた2作目。大ヒット作にしてバンドの勢いを封じ込めた充実のアルバムだが、カントリー/アメリカーナ的な“Daughter”のような曲も得意としているところが彼らの個性だ。ちなみにハードロックナンバー“Glorified G”は、ドラマーのデイヴ・アブラジーズの拳銃コレクション自慢をエディ・ヴェダーが皮肉った曲。共同プロデューサーは名匠ブレンダン・オブライエン。

 

PJ HARVEY 『Rid Of Me』 Island(1993)

独自のサウンドを作り上げるスティーヴ・アルビニがプロデュースや録音、ミキシングを担当した2作目にして代表作。ポーリーとロブ・エリス(ドラムス)とスティーヴ・ヴォーン(ベース)という最小限の3人で演奏したロックサウンドが、尖って乾いた、攻撃的でやさぐれた、刺々しい音で捉えられている。本人は否定するものの、フェミニスト的な態度が自然と滲んだ歌詞も重要。オルタナ/グランジの時代をまちがいなく象徴する名盤のひとつ。ポーリーは今年、新作『I Inside The Old Year Dying』を発表した。

 

PLASTIKMAN 『Sheet One』 NovaMute(1993)

ミニマルテクノのキング、リッチー・ホウティンがプラスティックマン名義でリリースした最初のアルバム。アシッドハウス的なTB-303のうねりやブレイクビートがサイケデリックですらある一方、音数が少なく削ぎ落とされたストイックなプログラミング、透徹した美学には、のちのクリックハウスの萌芽が感じられる。30周年記念再発盤がリリースされた。

 

POLYGON WINDOW 『Surfing On Sine Waves』 Warp(1993)

エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスがポリゴン・ウィンドウ名義で残した唯一のアルバムにして、リチャードのディスコグラフィの中でも屈指の名作。ダンスフロアから離れ、内省的でアンビエント的な質感、夢見心地で儚い感覚、インダストリアルな硬さが同居し、リチャード印のメランコリックな旋律が揺れる。その後のIDMやエレクトロニカのプロトタイプにも聴こえるが、似た作品がない非常に独創的なアルバムだ。名曲“Quoth”を収録。

 

RADIOHEAD 『Pablo Honey』 Parlophone(1993)

バンドがあれほどの変化を遂げていながらも、最大の人気曲が未だに“Creep”なのは幸運か呪いか。英オックスフォードの5人組による伝説的なデビューアルバム。若さ、青さ、やけっぱちな勢い、救いのない鬱屈としたフィーリングに満ちている。“Creep”ばかりがどうしても言及されがちな作品だが、英国的な美しい憂いを宿した“Stop Whispering”“Lurgee”“Blow Out”あたりは『In Rainbows』(2007年)にも通じる佳曲では。〈誰だってギターは弾ける〉と音でも語る、今となってはほとんど聴けない3人の分厚いギターの重なりも聴きどころ。

 

SALT ‘N’ PEPA 『Very Necessary』 Next Plateau/London(1993)

ポップラップ系のグループだったため過小評価されていた節があるが、女性ヒップホップアクトの先駆けとして近年再評価がかなり進んでいるトリオ。その4作目にして、最も成功した代表作だ。冒頭の“Groove Me”はいきなりレゲエ/ダンスホール、2曲目の“No One Does It Better”はニュージャックスウィング調のR&Bと、音楽的に多彩でとっちらかった印象も受けるが、グッドバイブスとポップさ、勢いやノリで蹴散らすように突き進む様が爽快。アルバムからのファーストシングル“Shoop”は、のちに映画「デッドプール」(2016年)で使用されたことでも話題に。30周年版がリリースされた。

 

SEEFEEL 『Quique』 Too Pure(1993)

シューゲイズやドリームポップやポストロックとアンビエントテクノやエレクトロニカなどを折衷させた、非常に先駆的かつ唯一無二のバンドによるファーストアルバム。深い残響、引き伸ばされた音、ミニマルな反復、揺蕩う美しいノイズを中心にした、極めて陶酔的な音の海が展開されている。ベースラインなどにはレゲエ/ダブの要素が感じられる点もおもしろい。年々、重要性が増しているように感じる傑作だ。

 

SLOWDIVE 『Souvlaki』 Creation/Cherry Red(1993)

英レディング出身、シューゲイズ/ドリームポップの代表的なバンドの最重要作。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』(91年)、ライドの『Nowhere』(90年)と並ぶ、シューゲイズ三種の神器と呼びたいクラシックだ。ブライアン・イーノにプロデュースを依頼したものの実現せず、彼はシンセサイザーの演奏で部分的に参加している。そんなエピソードからもわかるとおり、夢遊し浮遊する反復的な演奏とプロダクションはアンビエントにかなり接近したもの。ニール・ハルステッドとレイチェル・ゴスウェル、2人のボーカリストの個性の溶け合いも魅力的。2014年の再結成以降は新作やライブが注目されているが、同時に本作の影響力は年々強まっていると感じる。

 

SMASHING PUMPKINS 『Siamese Dream』 Virgin(1993)

新作『ATUM』が記憶に新しいオルタナバンドのセカンドアルバム。何と言っても名曲“Today”だろう。美しいメロディとシューゲイズ的なギターに乗せ、自殺を決行する〈今日〉を反語的に歌うこの曲に、バンドとビリー・コーガンの個性が詰まっている。音楽産業やメディアへの怒りを込めたヘビーなオープナー“Cherub Rock”(邦題は“天使のロック”)、親への憎しみを埋め込んだオーケストラルな“Disarm”といった名曲も収録。スマパンは若いアーティストへの影響力が近年強まっており、再評価が進んでいることも記しておく。

 

SNOOP DOGG 『Doggystyle』 Death Row(1993)

30周年版が話題になった、ウェストコーストヒップホップ/Gファンクを象徴する名盤で、彼にしか出せないスムーズで甘い声を持つラッパーのデビュー作(当時はスヌープ・ドギー・ドッグ名義)。ドクター・ドレーによるファットなビートやベース、Pファンク風のシンセなど、プロダクションが当然重要だが、それもスヌープのユニークなラップがあってこそ。ギャングスタライフ、アルコール、マリファナ、何よりもセックスを露骨に、ユーモラスかつリラクシンに語り、メロディアスにラップしていく。“Gin And Juice”を聴けばすべてがわかる。なお本作と並ぶGファンクのマスターピース、ドクター・ドレーの『The Chronic』は92年12月15日にリリースされているので、あのアルバムも実質的に〈93年の名盤〉。

 

SOULS OF MISCHIEF 『93 ’Til Infinity』 Jive(1993)

米カリフォルニア州オークランドの4人組、ヒエログリフィックスというクルーでも活動していたグループによるデビューアルバム。チリンなスタイルのライミングやフロウ、サンプリングをベースにしたビートが特徴だが、同時代のGファンクとは大きく異なる点が肝だろう。〈93年から無限まで〉とはこの企画にぴったりなタイトル。後世への影響は大きく、J・コールやジョーイ・バッドアスらが引用している。

 

SUEDE 『Suede』 Nude(1993)

マニック・ストリート・プリーチャーズとの来日公演が話題になった、ブリットポップを象徴するバンド。本作は記念すべきデビューアルバムで、全英1位を獲得した。“The Drowners”“Metal Mickey”“Animal Nitrate”といった代表曲を聴けばわかるとおり、70年代グラムロックのサウンドを自分たちのものにしながら、ブレット・アンダーソンの狂おしいボーカルとバーナード・バトラーのギターを中心にした演奏やソングライティングによって、バンドの個性はここで既に確立されている。30周年記念盤も手に入る。

 

TEENAGE FANCLUB 『Thirteen』 Creation/DGC(1993)

前作『Bandwagonesque』(91年)でブレイクした英グラスゴーのオルタナバンドによる4作目。1曲目“Hang On”は、T・レックスの“20th Century Boy”のギターリフを引用したイントロこそ笑えるが、ジェラルド・ラヴらしい切ないメロディが紡がれる名曲だ。同じくラヴ作、疾走するシングル“Radio”、ジョージ・ハリスンへのオマージュを感じるノーマン・ブレイクの“The Cabbage”、レイモンド・マッギンリーによるアメリカーナっぽい“120 Mins”など、各メンバーがいい曲を書いている。タイトルは彼らの最大の影響源のひとつ、ビッグ・スターの同名曲から。今年は新作『Nothing Lasts Forever』が届けられた。

 

TONY! TONI! TONÉ! 『Sons Of Soul』 Wing/Mercury(1993)

ラファエル・サディーク、ドゥエイン・ウィギンズ、ティモシー・クリスチャン・ライリーからなるR&Bグループのサードアルバムで、ダブルプラチナに認定されるほどヒットした。〈ソウルの息子たち〉というタイトルに自負と自信が滲んでいるが、自らのプロデュースでニュージャックスウィングやヒップホップなどの新しいスタイルを貪欲に取り入れながらも、古き良きソウルミュージックへの敬意を込めて遺産を継承した、野心作にして重要作。鬼才ラファエルの才能が爆発している一方、トリニダードでの制作の影響も顕著で、カリブ海的な楽天性が心地よい。

 

A TRIBE CALLED QUEST 『Midnight Marauders』 Jive(1993)

ゴールデンエイジやニュースクール、東海岸ヒップホップを象徴する、米クイーンズ出身のトリオによる3作目。クラシックとなった前作『The Low End Theory』(91年)の成功を受け、プラチナディスク認定されたほどヒットした。ジャズやソウルのサンプリングで構築されたビートとコンシャスなリリックのラップは洗練と先鋭化を極めている。以降のアルバムももちろん重要作ではあるが、賛否は分かれる。それゆえ、Q・ティップら3人のクリエイティビティやキレはここでひとつのピークに達した、と断言するのは暴論か。名曲“Award Tour”を収録。

 

UNCLE TUPELO 『Anodyne』 Sire(1993)

マンドリン、フィドル、ラップスティールギターなどを鳴らす土臭いカントリーロックやニール・ヤング的なフォークロックにオルタナ感覚を加えた、オルタナカントリーの最重要グループ。解散後にウィルコとサン・ヴォルトへと分裂した伝説的なバンドの最後のアルバムだが、完成度は極めて高い。99年に亡くなったテキサスのベテラン、ダグ・サームを招いて彼の曲をカバーしたところにも〈継承〉の心意気を感じる。改めて聴いたところ、今年ザック・ブライアンを聴き込んだ耳には馴染みすぎた。

 

U2 『Zooropa』 Island(1993)

今年、米ラスベガスのスフィアでの最新テクノロジーを駆使したレジデンシーコンサートが話題だった彼らの8作目。当初はジ・エッジのソロ作だったが、バンドのアルバムに発展した作品だという。名盤『Achtung Baby』(91年)の続編的な音楽性で、次の『Pop』(97年)とともにテクノロジーやメディアの飽和をテーマにした三部作をなす。最終曲“The Wanderer”にはジョニー・キャッシュが参加。ヒップホップやダンスミュージックに影響された電子サウンド、実験的で少々サイケデリックなムードは評価が分かれた。とはいえ、ヴィム・ヴェンダース監督の映画「時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!」の主題歌“Stay (Faraway, So Close!)”は名曲。

 

WU-TANG CLAN 『Enter The Wu-Tang (36 Chambers)』 Loud/RCA(1993)

説明不要、ヒップホップを志す者で聴いていない人はいないと言えるほど永遠のクラシックであり、ヒップホップ/ラップアートのレガシーの頂点に位置する作品。カンフー映画から影響を受けた世界観、個性豊かにキャラ立ちした9人のラッパーたち、ハードコアなストリートライフの描写、RZAのローファイで汚れた、ラフでありながらも緻密で独創的なビート……。発表当時は、何もかもが衝撃的だったはず。問答無用の名曲“C.R.E.A.M.”を収録。当時の邦題は『燃えよウータン』。

 

YO LA TENGO 『Painful』 Matador(1993)

日本での人気も高いベテランバンドの、初期の傑作。初期といっても、80年代から活動しているので6作目。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのドリーミーな側面を受け継ぎ、シューゲイズやドリームポップに通じる陶酔的で夢見心地な彼ららしいロックサウンドが確立されている。名盤『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』(2000年)や今年のアルバム『This Stupid World』にも繋がる重要作だ。

 

2PAC 『Strictly 4 My N.I.G.G.A.Z...』 TNT/Interscope(1993)

ヒップホップ東西抗争が激化する中、96年に殺害されてしまった伝説的ラッパーのセカンドアルバム。初のプラチナディスクになり、彼の存在をストリートから全米、そして世界に知らしめた出世作だ。ヒットシングルにして名曲“I Get Around”“Keep Ya Head Up”を収録。これがなければ、『Me Against The World』(95年)と『All Eyez On Me』(96年)という2つの名盤もなかった。今年、拡大版がリリースされた。