©Erik Bardin

カッサ・オーバーオールがジャズで再構築するヒップホップ名曲の世界

 ワープ移籍作『ANIMALS』(2023年)が高い評価を得たドラマーのカッサ・オーヴァーオール。同作はバンドの即興演奏をプロデューサー/トラックメイカーとして解体・再構築し、ドラムマシーンやエレクトロニクスを加え、ゲストMCを招くのみならず自身でもマイクを握った意欲作で、物凄く大雑把に言ってしまうと、自演のジャズをサンプリング源としてヒップホップ〜ビート・ミュージックを再構築した内容だった。では、その逆を彼自身が手掛けるとしたらどうなる? そんな問いに答えるのが2年ぶりのニュー・アルバム『CREAM』である。これは逆にジャズ・バンドの編成でアプローチしたヒップホップ曲のカヴァー集ということになるわけだが、そんな大雑把な言い方では片付けられないほど、そこにはカッサのアイデアとセンスが埋め込まれている。

KASSA OVERALL 『CREAM』 Warp/BEAT(2025)

 今回の演奏曲に選ばれたのは、問答無用のヒップホップ・クラシックたち。アルバム表題の元になっていると思しきウータン・クランの〈C.R.E.A.M.〉をはじめ、別掲のように90年代の名曲たちが揃っていて、82年生まれのカッサらしい素直なチョイスと言える。そうでなくても、半分ほどの曲はかつてヒドゥン・ビーチのカヴァー企画〈Unwrapped〉シリーズで取り上げられていた、それぐらいの正典だ。

 これらをカッサは、緻密に編み上げた『ANIMALS』とは真逆の方法で、つまりはクラシカルなジャズの録音技術に則って一発録りでレコーディングしている。ミュージシャンは同じ部屋で演奏し、クリックはなし、オーヴァーダブもなし。そうした条件の下だからこそ演奏のスリリングな妙味が生まれている。注目なのは、エディ・ハリス“Freedom Jazz Dance”(65年)をあえてオープニングに置いていることで、これは本作がどんな解釈を披露していくアルバムなのかという意思表示でもあるのだろう。ネタ人気も高いジャズ名曲からリファレンスを広げていく演奏の縦横無尽さは、他の曲においても例外ではないということだ。

 ドラムを叩くカッサと共に演奏したのは、2曲で共同アレンジも担当したマット・ウォン(ピアノ)、ジェレマイア・ケイラブ(ベース)、M.E.B.でも知られるエミリオ・モデスト(サックス)、カッサ作品ではお馴染みのベンジ・アロンス(コンガ)らが曲ごとに編成を変えながらスリリングな熱を注いでいる。

 このようにして野心的な新作を完成させたカッサは、10月8〜10日の3日間にわたってブルーノート東京で来日公演を開催する。同会場でのライヴは2020年2月に初の単独公演を行なって以来の〈凱旋〉となるそうで、今回はアルバムでも演奏した先述のメンバーたちと生『CREAM』の世界を展開してくれるに違いない。

カッサ・オーヴァーオールが参加した近作。
左から、エマ・ジーン・サックレイの2025年作『Weirdo』(Brownswood)、ジェラルド・クレイトンの2025年作『Ones & Twos』(Blue Note)、セオ・クロッカーの2025年作『Dream Manifest』(SPN)