“激しく闘う男”というパブリック・イメージからすると、今回のスタンダード集『あなたは恋を知らない』はかなり意外でして…と切り出した途端、キッパリ一言「俺はこのアルバムでも闘ってるつもりだよ」。隣に座る編集者やレコード会社担当者のヒヤ汗がたらりと流れる音…が聞こえた気がする。そんな緊迫した空気の中でインタヴューは始まったのだった。人(俺)呼んで“ラッパ極道”近藤等則。66歳になった今なお、眼光の鋭さがハンパじゃない。
「このアルバムを録音したのは2003年だけど、俺はその時、世界中の誰もやってないスタンダード・カヴァーをやったわけ。ジャズのスタンダード集は数えきれないほど出ているけど、その99%がアコースティック・アンサンブル。俺はエレクトリック/エレクトロニックでやった。〈地球を吹く〉プロジェクトを長年やってエレクトリックのサウンド・システムやヴァイブレイションのことがよくわかったので、普通の素材を自分だけの方法で料理できるなと思った」
《枯葉》や《サマータイム》などを奏でる近藤のエレキ・トランペットの硬質なトーンを未来的サウンドで際立たせるのはエラルド・ベルノッキ。90年代から共演してきたイタリア人トラックメイカーだ。
「国によってビートメイカーのテイストも違う。イタリア人は英人ほどハードコアなビートは作れないけど、逆に連中ならではのロマンティックなムードを持っている。だから今回は彼に声をかけた」
近藤は一昨年、約20年間暮らしたアムステルダムから東京に居を移した。本作以外にも、アムス時代に録音した未発表音源はアルバム40枚分ほどあり、それらも自身の〈Toshinori Kondo Recordings〉レーベルで最近ようやく販売されだした。月1枚ずつ、今年8月までに計12枚出す予定だという。イスラエルのネゲヴ砂漠だのアンデス山中だの、人前ではなく大自然の中でラッパを吹きたくなって18年ものめりこんだ〈地球を吹く〉も一区切りつき、彼は今新たなヴィジョンの実現に燃えている。
「21世紀の音楽を作るんだ。そのことばかり考えて、この20年間俺は一人でずっとトライ&エラーを続けてきた。これからは周りにも語りかけてゆきたい。ネイチャー、スピリット、テクノロジーという三位一体をベースにして新しい音楽を作ろうぜ、と。音楽が売れないだのなんだのと嘆いてる場合じゃないよ。音楽が売れなくなった本当の理由は、ミュージシャンひとりひとりが、自分に嘘をつくようになったからさ。本当に自分が出したい音、正直な音、自分が気持ちいい音楽をやれは、きっと売れるはずなんだ」
LIVE INFOMATION
近藤等則ライヴ~Toishinori Kondo plays Standards~あなたは恋を知らない
6/29(月)18:30開場/19:30開演
会場:渋谷クラブクアトロ
plankton.co.jp/kondo/
Toshinori Kondo Recordings▶tkrecordings.com/