富士山麓にこだまする近藤等則の〈白鳥の歌〉

 3月にリリースされたホッピー神山のニュー・アルバム『The Mantra Session In Mt.FUJI』は、ゴッド・マウンテン・レーベルからなんと16年ぶりに出た新作であり、また、近藤等則の生前最後の演奏を収録した作品である。つまり……訊きたいことが山ほどある。八丈島に暮らすホッピーと久しぶりに長話をしてみた。

 まずはゴッド・マウンテンについて。メジャー・シーンで80年代から大活躍してきたホッピーが、より自由な音楽活動を目指して93年に自ら設立し運営してきたゴッド・マウンテンは、これまでにたくさんの話題作を送り出してきた。オプティカル8、グラウンド・ゼロ、ティポグラフィカ、デミ・セミ・クエーバー、高円寺百景、キリヒト等々。2000年には、レーベル史上最大のヒット作、戸川純『20th Jun Togawa』も出た。が、2005年の大文字(ホッピー、吉田達也、ナスノミツル)『Into A Blind Alley』を最後にリリースは途絶えた。

 「あの頃から、CDがますます売れなくなってゆき、作っても赤字が膨らむばかりで……」と彼は語るが、一人での宅録作品ならいざ知らず、ちゃんとしたスタジオで作った作品が多いゴッド・マウンテンの場合は、やむを得ない判断だったのだろう。そして、コロナ時代の今、状況はますます悪化している。

Mantra Session in Mt.Fuji 『Mantra Session in Mt.Fuji』 God Mountain(2021)

 だからこそ、今回16年ぶりにゴッド・マウンテンからリリースした本作は彼にとって、ことのほか思い入れの強い作品になったようだ。これは、富士山麓にある河口湖円形ホールで一発録りされた完全即興作品である。演奏者はホッピー(生ピアノ、エレクトロニクス)、岡部洋一(パーカッション)、そして前述どおり近藤等則(トランペット)の3人。録音日は2020年10月15日。つまり、近藤が急逝するわずか2日前である。

※記事の初出時、『Mantra Session in Mt.Fuji』の録音日に誤りがございました。お詫びして訂正いたします(2021年6月2日)

 「近藤さんとは一応面識はあったけど、なぜか共演の機会に恵まれず、今回が初めて。彼はこの10年ほどは一人でやることが多かったし、なにしろあの強面な人柄だから、なかなか声もかけにくく(笑)。でも、常に社会情勢や政治についても注視している人であり、ずっと共感を抱いていた。今回近藤さんに声をかけたのは、まったくの直感だけど、彼の方でも近年ずっと〈ホッピーとやれば面白いのでは?〉と周囲のスタッフから言われていたらしい」

近藤等則

岡部洋一

 当初は、録音現場をそのまま撮った映像作品(ネットで一部視聴可能)だけを発表するつもりだったようだが、「CDも出さなきゃダメだ!」という強い言葉でホッピーの背中を押したのも近藤だった。

 本作でホッピーが特にこだわったのは、河口湖円形ホールという場所である。

 「富士山は日本で一番エネルギーが強い場所だし、河口湖円形ホールは天井が高く、響きが素晴らしい。

 ピアノもベーゼンドルファーだし。私はいつも、次はこういう作品を作ろうという事前構想は持たない。場所も相手も、常に直感的に選ぶ。今、ここでやれば、いいエネルギーの詰まった作品を作れる……そう思った相手が、今回は近藤さんと岡部さんだった」

 アルバム・タイトルにある〈マントラ・セッション〉なる文言も富士山麓ならではか。

 「そう。富士山の霊気が、ある意味マントラだと思ってて。でも、その言葉に引っ張られてやったセッションではない。近藤さんは開始前に〈富士山の霊気を感じながらやるんだからな!〉と岡部さんに檄を飛ばしていたけど(笑)」

 セッション順に編集/ダビングなしでそのまま収録された4曲は、①がホッピーのソロ、②③がホッピー&岡部のデュオ、④がトリオ。〈ピアノ・バー〉というモーグ社製電子機材(ピアノの鍵盤の動きと連動して電子音を出す)や、様々なノイズ/コラージュ音が入った②台のカセット・テープも駆使するホッピーの演奏は、とても単独即興とは思えないほど多彩かつドラマティックだ。そして、それを更にイマジネイティヴに膨らませてくれる岡部のカラフルな打楽器群。近年は打ち込みをバックにした演奏が大半だった近藤のトランペットも、生々しく変容し続ける二人の演奏に刺激されたかのように、終始強い緊張感で貫かれている。「終わった瞬間に、左手の親指を挙げて微笑んでいた」という近藤にとっても、会心のセッションだったはずだ。誰も予想だにしなかった〈白鳥の歌〉である。

 


PROFILE: ホッピー神山 (ホッピーかみやま)
83年プログレ・ポップ・ユニット〈PINK〉に参加。80年代を代表する音楽プロデューサー、キーボーディストとしての評判を確立。90、91年に東芝EMIよりソロ・アルバム『音楽王・1』『音楽王・2』をリリース。93年〈God Mountain〉レーベルを立ち上げる。94年、宮本亜門のミュージカル作品の音楽を担当。99年にはフランスのレーベルSonoreより『Juice And Tremolo』を発表。世界中のネットワークを築き上げ、多数のバンドにボーダレスなパフォーマーとして参加している。