よみがえるラテンのソウル
キューバを代表する作曲家/ピアニスト、エルネスト・レクオーナの作品集である。以前本人が演奏した作品集がRCAからリリースされていたが、これは生誕120周年を記念して制作されたカヴァー集であり、ドキュメンタリー映画のサントラとしてリリースされるアルバムだ。
キューバを代表し世界的な作曲家といっても、今やとても古い音楽だから若い音楽ファンがどうレクオーナの作品を感じるのか興味深い。かつて、洋楽=ラテン、あるいはタンゴだった時代もあり、少なからずレクオーナの作品、あるいは彼の作法は初期の昭和歌謡曲に影響を与えた。結果今も非常に深いレベルで日本の音楽とつながっているかもしれない。
以前、ニューヨークで、フォート・アパッチ、コンフント・リブレなどなどニューヨーク、ラテンジャズ、サルサ界のリズムを支えたベーシスト、アンディー・ゴンザレスのアパートにお邪魔したことがある。彼は、ラテン音楽のコレクターとしても有名なのだが、そのとき戦前、世界で流行したボレロを集めたアルバムを制作したいと相談を受けた。資料としていくつか集めたふるいレコーディングを聴かせながら、世界中に溢れた素晴らしいボレロの数々がある時期を境に忘れ去られてしまったその経緯を話してくれた。
あらためて、音楽史を遡り、そこからまた新しい可能性を拾いだすということも、音楽家にとって抗しがたい魅力に満ちた作業だろう。生誕120年という周年の今年、レクオーナの作品をキューバ、ドミニカの今を代表する音楽家達が取り上げて彼の音楽の魅力を世界中にふたたび乱反射させる年になるのだろうか。ゴンサロ・ルバルカバ、ミシェル・カミロ、チューチョ・バルデスといったピアニストの素晴らしい演奏を聴きながら、ここにブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの故ルベーン・ゴンザレスがいたら、と懐かしく彼の音楽を思い出した。