東京文化会館で聴く至福のピアノ・ソロ~ゴンサロ・ルバルカバの世界
1993年1月6日、ディジー・ガレスピーが生涯を閉じた。ガレスピーはいうまでもなくチャーリー・パーカーとともにモダン・ジャズの父として敬愛されたトランペット奏者。彼はまたアフロ・キューバ音楽をこよなく愛し、キューバでの演奏が許された稀有な存在だが、ゴンサロ・ルバルカバを見出して以来ピアニストを帯同しなかった。そのガレスピーの葬儀で、米国務省はキューバとは国交断絶中だったが、ルバルカバが棺の介添人となることを例外的に認めた。
今日、キース・ジャレットを継ぐピアニストはゴンサロ・ルバルカバをおいてない。その彼が真に私淑したミュージシャンは2人だけだ。1人はガレスピー、もう1人がベースのチャーリー・ヘイデンだ。2005年3月のブルーノート東京におけるライヴ盤『Tokyo Adagio』。誤解を恐れずにいえば、冥界を2人で散策するかのような単なるデュエットを超えた語らいに、私は知らず落涙しそうになった。彼が西側デビューとなるモントルー・ジャズ祭出演を推薦したのもヘイデンだ。両国関係が断絶中の1993年5月14日、彼がリンカーン・センターのアリス・トゥリー・ホールに登場した特別演奏会で共演したのもヘイデンだった。
私が彼と初めて会ったのは、日本では彼が無名に等しかった四半世紀前の90年12月。ハバナのARTEX社の1室で過ぐる2月のジャズ祭のヴィデオを見ながら彼と話した。父親はキューバ屈指のティピカ・チャランガ演奏楽団を率いるギジェルモ・ルバルカバ。「キューバ唯一のマヌエル・サウメルという音楽学校に入り、8歳でピアノを、5年生のとき打楽器を正式に勉強した。打楽器の方が好きだった」。
私は父親のティピカ・チャランガ楽団の演奏が好きで、ハバナ滞在中に何度か聴きに出かけた。休憩の合間に、彼は息子の話をしてくれた。ハバナでは彼はゴンサリートと愛称される。「ゴンサリートは6歳で打楽器に興味を持ち、7歳で叩いた。学校じゃこの年齢では叩けない。だからピアノを弾くようになった。精をだすようになったのは大学に入ってから。ガレスピーがね、息子の才能を認めて米国へ連れて行こうとしたけど、ビザがおりなかったんだ」。
彼はハバナ交響楽団から打楽器奏者の口がかかるほどの腕前だった。だが、ガレスピーと共演し、ヘイデンと親しい対話を持続させる中で、彼はピアニストとして押しも押されぬ存在となった。そのさ中、成熟の頂点にいる小曽根真とゴンサロの共演がついに実現。その上、豊かな音響で定評のある東京文化会館でのゴンサロのソロ・ピアノが決まった。間違いなく最高の聴きものとなるだろう。
LIVE INFORMATION
Music Program TOKYO/Music Festival TOKYO
小曽根 真&ゴンサロ・ルバルカバ“Jazz meets Classic”with東京都交響楽団
○10/1(土) 17:00 開演 会場:東京文化会館 大ホール
○10/2(日) 15:00 開演 会場:オリンパスホール八王子
出演:小曽根 真/ゴンサロ・ルバルカバ(p)
安藤芳広/小林巨明(perc-第1部のみ)
角田鋼亮(指揮-第1部のみ)
東京都交響楽団(第1部のみ)
曲目:【第1部】バルトーク:2台のピアノと打楽器のための協奏曲 他
【第2部】ジャズ・セッション 小曽根 真×ゴンサロ・ルバルカバ
Music Program TOKYO/Music Festival TOKYO
プラチナ・シリーズ第3回 ゴンサロ・ルバルカバ~キューバが誇る世界的ジャズ・ピアニスト
○10/6(木) 19:00 開演
会場:東京文化会館 小ホール
曲目:当日発表
www.t-bunka.jp/