ゴンサロ・ルバルカバ ©Yasuhisa Yoneda
小曽根真 ©Yow Kobayashi

〈キューバの至宝〉ゴンサロが、バルトークの“2台のピアノ、打楽器と管弦楽のための協奏曲”を小曽根真と共演!

 2013年に始まった〈“Jazz meets Classic” with 東京都交響楽団〉は、小曽根真と東京都交響楽団が、海外からジャズとクラシックの両方に通じたジャズミュージシャンをゲストにクラシックに新しい風を呼び込むプログラムとして、注目を集めてきた。第1回のクラリネット・サックス奏者パキート・デリベラ、第2回のトランペット奏者のアルトゥーロ・サンドヴァル、昨年は、サックス奏者、ブランフォード・マルサリスが招かれた。

 今年はキューバ出身のピアニスト、ゴンサロ・ルバルカバがゲストに選ばれた。第4回目にして、同じ楽器、ピアノが2台、舞台に並ぶ企画となった。しかも同じ楽器の演奏家の共演というだけでなく、ほぼ同年代である彼らの経歴を振り返ってみると若くしてその才能を開花させ、彼らにとっては異国の音楽であったジャズを自在にドライヴさせてきた国際的に活躍するジャズ音楽家という共通点も見えて来る。

 今回のゲスト、ゴンサロは母国で9歳の時からクラシックのピアニストとして英才教育を受け、ハバナの芸術大学では作曲の学位を20歳で取得している。音楽一家の家庭に育ち、キューバの有名ミュージシャンに囲まれ、ルンバを始めとするキューバの伝統音楽を聴いて育った。そして当時からジャズは、ルバルカバ家にはなくてはならない音楽だった。1986年のハバナ・ジャズ・フェスティヴァルに来演したベーシスト、チャーリー・ヘイデンにその才能を見出され、ブルーノートからデビューする。1990年7月には、モントルー・ジャズ・フェスティヴァルでチャーリーのグループにスペシャル・ゲストとして登場し、世界への扉を開けた。この時の録音はVerveから『The Montreal Tapes』としてリリースされているが、一曲目から徐々に盛り上がり、終曲の“Solar”で会場が沸騰する異様な様子が手に取るように聴こえて来る。このとき世界はこのキューバの至宝の出現に沸いた。

チャーリー・ヘイデン、ゴンサロ・ルバルカバ&ポール・モーションの98年作『The Montreal Tapes』収録曲“Solar”

 一方、ホストである小曽根真も神童と謳われ、ジャズ・オルガニスト、ピアニストである父の英才教育を受けて育ち、バークリーに入学して間もなくゲイリー・バートンがその才能を高く評価し、国内外で注目を集めた。以来、ジャズ界での彼の活躍ぶりはいうまでもないし、ジャズを超えてクラシックの技術を習得するために彼が何を行ってきたかは、周知の通りだろう。ジャズ・ピアニストであると同時にコンサート・ピアニストでもある小曽根自身の“今”のあり方は、今、数多くのジャズ・ピアニストの目指すところではないだろうか。

 今回、この二人が取り組む作品としてまず選ばれたのは、ベラ・バルトークの“2台のピアノ、打楽器と管弦楽のための協奏曲”(1940年)だ。西洋音楽言語の標準化が進む中、自国の伝統音楽を収集、分析し自作品に取り入れたことで知られるバルトークの晩年の作品だ。特に一楽章は、バルトーク作品ではおなじみの9/8で書かれ、様々なフィギュアのリズムが次から次へと登場する。ゴンサロは、近年、キューバを中心にカリブ海に広がる伝統音楽を精力的に研究し、自作品に取り入れている。昨年リリースされた『Suite Caminos』は、ヨルバのリズムをテーマに作曲された組曲だった。そんな彼がこのバルトークのリズムをどのように再解釈するのか非常に興味深いし、この企画では繊細な耳をもつもう一人の指揮者でもあろう小曽根真が、ゴンサロのピアノにどんな風に反応し、オーケストラを巻き込みながら、クラシックのコンチェルトをどんなジャズに創り上げるのだろう。

 伝統は決して不自由な足かせではない。それどころか、むしろいたずらに新しいことを追求しすぎて袋小路に追い込まれるというのが、今の音楽の現状ではないだろうか。人生の大半をジャズ、音楽に費やした素晴らしい身体をもつ二人が、一体何を成し遂げるのか、想像の音は、すでにファンの頭の中でもなり始めているんじゃないだろうか。新しい音の風景がまた、東京文化会館のステージに広がる今年の秋が楽しみだ。

ゴンサロ・ルバルカバの2015年のライヴ映像

 


LIVE INFORMATION
Music Program TOKYO / Music Festival TOKYO
小曽根 真 & ゴンサロ・ルバルカバ “Jazz meets Classic” with 東京都交響楽団

2016年10月1日(土)東京・上野 東京文化会館 大ホール
開演:17:00

2016年10月2日(日)東京・オリンパスホール八王子
開演:15:00
出演:小曽根 真/ゴンサロ・ルバルカバ(ピアノ)/角田鋼亮(指揮-第1部のみ)/東京都交響楽団(第1部のみ)

■曲目
【第1部】バルトーク:2台のピアノと打楽器のための協奏曲 他
【第2部】ジャズ・セッション 小曽根 真 × ゴンサロ・ルバルカバ

Music Program TOKYO / Music Festival TOKYO
プラチナ・シリーズ第3回 ゴンサロ・ルバルカバ ~キューバが誇る世界的ジャズ・ピアニスト

2016年10月6日(木)東京・上野 東京文化会館 小ホール
開演:19:00

■曲目
当日発表

https://www.t-bunka.jp/