小、並、大盛、特盛……つゆだく!?
書籍のデジタル化もすすみ、音楽に続き本の世界もどうやらオブジェとしての外形を失いつつある。あるのは薄っぺらなモニター画面だけということにどうやらなりそうだ。確かに前世紀末のニューヨークで建築家レム・コールハースの「S,M,L,XL」を書店で見つけたその時ばかりは、その庭石のようにマッシブな本の重量感と姿に恍惚としつつも、手に取って読む枠を超えた非機能的なサイズに怒りを感じ、この反社会的な本の存在感を呪いもした。もはやアンチ読者?あるいは持続的読書の否定?とも言える厚さ72mm、1,300ページを超えるこの本、辞典のように大きく、画集のように扱いにくい形状の本をなんとか鞄に詰め込み持ちかえったが、果たして購入から20年、読むこともできず、観る本として本棚に居座り続けた。
建築家であり「錯乱のニューヨーク」の著者であるコールハースとデザイナー、ブルース・マウのコラボレーションによる同書は、発売と同時に話題の書となり伝説の出版物となったが、原書のサイズを実現した邦訳版の可能性、ましてやそんな事を企んでいる人がいるなんて、「S,M,L,XL」の文庫版「S,M,L,XL+」をみつけ、あとがきを読むまで想像もしていなかった。原著から比べるとまさにチョーSサイズになって登場したわけだが、ようやくコールハースのエッセイを堪能する機会に恵まれたという原書の持ち腐れ組はけっこういるのではないだろうか。原書を手に入れた当時は、図版や、ターミノロジーに特化したかのように用語の再定義を試みる編集のアイディアに漠然と刺激されたにすぎなかったが、日本で初めての展覧会を企画し、滞在中にコールハースの感じ取った日本の面白さなどなど、拾い読みだけでは拾えなかったエッセイをようやく読むことができた。
文庫のサイズにちょっと見合わない値段にどきっとさせられたが、95年以降コールハースが発表したエッセイもいくつか収録され、お値段以上!に楽しめる。