〈SUMMER SONIC〉出演をきっかけに、ニューカマーが大出世――といえば、近年では2年前のロイヤル・コンセプトが真っ先に思い出されるが、同じように今年大ブレイクを果たしたのがLAを拠点とするシンセ・ポップ4人組、スモールプールズだ。キラキラ×ハッピー×ドリーミー×ダンサブル……と、ポップのエッセンスを反則的なまでに掛け合わせた曲の数々で、早朝の出番ながら大観衆をノックアウト。その後、8月18日に都内某所で開催されたプレミアム・ミニ・ライヴでも熱烈歓迎っぷりを受けるなど、日本人リスナーの心をすっかり鷲掴みにしてしまった。12月1日(火)には早くも再来日公演が決定しており(詳細はこちら)、サクセス・ストーリーは加速する一方。しかし、バイオグラフィーを振り返るとメンバーは苦労を重ねた時期も長く、キャッチーな曲調やポジティヴな歌詞の裏にあるエモさと哀愁に気づくと、彼らの音楽が余計に沁みてくる。そういったバンドの歩みやファースト・アルバム『Lovetap!』について、さらに曲作りやルーツに至るまで、ショーン・スキャンロン(ヴォーカル/キーボード)、マイク・カマーマン(ギター)、ジョー・インティル(ベース)、ボー・クーサー(ドラムス)の4人に話を訊いた。
★「bounce」に掲載されたスモールプールズのインタヴューはこちら
――ライヴは大盛り上がりでしたね。日本での歓迎っぷりにビックリしちゃったんじゃないですか。
ショーン・スキャンロン「ああ、とってもクレイジーな状態だよね(笑)。自分たちでもまったく予想してなかったし驚いてるよ」
――“Killer Whales”の曲名どおり、シャチの風船が客席を飛び交う演出も素敵でした。誰のアイディアなのでしょう?
ボー・クーサー「僕だね。夢のなかで思いついたんだよ(笑)」
――あれいいですよね。
ボー「サンキュー。いつか、あの風船が何千個と落ちてくるような状況にしたいんだ。いまはまだ予算がなくてね」
――今回が初来日ということで、改めてバンド結成の経緯を教えてください。
ショーン「みんなほかのバンドにいたんだけど、なかなかうまくいかなかったんだよね。でもそれは、いまとなっては自分たちのなかでもいい経験だったと思ってるんだけどさ。この4人が部屋に集まったとき、これまでのバンドでは感じられなかったケミストリーが生まれていることに気づいてね。一緒に曲を書き始めたらいいものがたくさん出来あがったし、それでこのバンドはいけるって手応えを掴んだのさ」
――メンバー間で仲の良さそうな感じも伝わってきますが、4人は音楽の趣味と個々人の性格のどちらで通じあっているんですか。
マイク・カマーマン「ショーンと僕はもともと友達だったんだ。それでお互いのバンドのライヴを観ていたし、その頃から注目していた」
――そうらしいですね。まだ東海岸からLAに渡る前、2007年頃からの知り合いだったとか。
マイク「でも性格的には、当然違うところもある。お互いにないものをそれぞれ持ってるし、一緒にいることでポテンシャルを引き出すこともできるしね」
――なるほど。
マイク「それで僕らはみんな結成当初、さっき話したような辛い現実から逃れたくて仕方がなかったんだ。その逃げ場を音楽に求めていた。だから、音楽を凄く必要としていたのさ。それがメンバー4人の共通点だといえるね」
――そこから信頼関係が生まれたというわけですよね。辛い現実から逃れるために音楽を聴くというのは、僕だってそうだし、とてもよく理解できます。では、いま仰ったような経験を通じて、バンドの音楽性が物凄くハッピーになったのはどうしてなのでしょう?
ショーン「LAのヴァイブスが大きいと思う。実は、昔作った曲のなかにはもう少しダウンテンポで暗いものも多かったんだよ。だからこそ変化が必要だと思っていた」
マイク「バンドを始めた頃はみんな暗い気持ちを抱えていたんだけど、一緒にプレイしたら、エキサイティングでハッピーな気持ちになれた」
ショーン「そう。だから、メンバー同士で一緒に部屋にいるときも楽しかったんだよね。生活面は苦労したけれど」
――そこからバンドが転機を迎えるうえで重要な存在となったのが、キャプテン・カッツ(※)だったわけですよね。彼らとはどのようにして知り合ったんですか?
ショーン「LAにグレッグという、当時とあるレーベルで働いていた友人がいてね。僕らのデモを彼に聴かせたら、とても気に入ってくれたんだ。それで、〈キャプテン・カッツと一緒にやってみたらどうだろう?〉と提案してくれた。グレッグの同僚がキャプテン・カッツとルームメイトだったんだよ。それでバンド内でアイディアを出し合って、彼らにプレゼンしたら一緒に仕事することになったんだ。ラッキーだったよ」
※キャプテン・カッツ(Captain Cuts)
ベン・バーガー、ライアン・マクマホンとライアン・ラビン(グループラヴのドラマー/イエスのトレヴァー・ラビンの息子)の3人によるプロダクション・チーム。ウォーク・ザ・ムーン、マリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズ、グループラヴ等のプロデュース/作曲/リミックスを手掛けている。
――キャプテン・カッツが関与すると、どの曲もシンガロングしたくなる超キャッチーな仕上がりになるじゃないですか。彼らを交えての制作プロセスってどんなかんじなんですか?
ショーン「スタジオのなかでも雰囲気がよくて、みんな楽しく作業が出来てたと思う。まずは核となる曲を僕らが先に用意して、自分たちのアイデアを彼らに説明するんだ。それでアドバイスをもらって、曲のパーツを足したり取り除いたりしていく。そのあとレコーディングに移るんだけど、そこでもコードが変わったり、いろいろとサウンドの試行錯誤するんだよね」
ジョー・インティル「キャプテン・カッツは、キャッチーにするためのノウハウを心得ているのさ」
――あなたたちの代表曲ともいえる“Dreaming”も、ポップでキャッチーで最高です。この曲はどのようにして生まれたのでしょう?
ショーン「最初の頃に書いた曲で、これもキャプテン・カッツにプロデュースしてもらった。僕が自宅で思いついたキーボードのパートがあって、そのアイディアを元にジャム・セッションがスタートして。そこにマイクがギターのパートを付け加えた。ビートは結構いろいろ変わっていったよね」
ボー「そうそう、いまの形になるまで試行錯誤があった」
ショーン「だから彫刻みたいなものだよ。自分たちが気に入る形に辿りつくまで、じっくり作り込んでいったのさ」
――そういう曲作りのノウハウや試行錯誤には、ライヴを通じて培った経験も反映されているのでしょうか?
ショーン「『Lovetap!』でいうと、制作の後半のほうで書いた曲は割とそうかな。(“Dreaming”も含めて)最初の頃に書いた曲については、まだライヴもそんなにしてなかったし、バンドを結成する以前の経験値によるところが大きかったと思う」
ジョー「でもたしかに、ツアーに費やした時間が僕らに与えた影響は大きかったよ。ウォーク・ザ・ムーンやグループラヴ、トゥー・ドア・シネマ・クラブ、トゥエンティ・ワン・パイロッツといった素晴らしいバンドとツアーを共にして、彼らのステージを連日観たりすることで、いろんなことを吸収することもできたしね」
――そこでトゥー・ドア・シネマ・クラブの名前が挙がるのは、皆さんの音楽性を考えるとピンとくるものがありますね。あとはパッション・ピットとか。
――ちなみに、もともと皆さんはどういう音楽が好きなんですか?
ボー「僕らはみんな80年代の曲が好きなんだ。僕だったらポリスやTOTO、フィル・コリンズ……要するに、家族と一緒にドライヴしてたときにかかってた曲だね」
――おー、そういう世代ですよね。
ボー「グランジも好きだよ。ニルヴァーナやパール・ジャムとか。最近のだって聴くし」
――最近のってたとえば?
ショーン「実は、僕らの“Dreaming”が日本のチャートにランクインしたと聞いたから、〈ちなみに1位はどんな曲なんだろう?〉と気になってさ。調べてみたら、Superflyの“Beautiful”という曲だった。試聴してみたらすっかり気に入っちゃったよ」
――思わぬ名前が(笑)。
ショーン「コード進行がどんどん変わっていくよね、ディズニー映画のスコアみたいに。最近のヒット・ソングって、少ないコードで進行していくシンプルな曲が多いでしょ? だから“Beautiful”は音楽的だと思ったんだよね」
――なるほど。日本のメインストリームは、逆に複雑な展開を見せるポップ・ソングのほうが最近は主流といえるかもしれないです。
ショーン「そうなんだ、もっと聴いてみたいね。僕らも、自分たちの脳のポテンシャルを越えない範囲で複雑な曲を作ってるつもりだけど(笑)」
――先ほど80年代ポップスの話も出ましたけど、“Karaoke”のMVが〈70's〉と〈80's〉の2つヴァージョンがあるのも印象的でした。
ショーン「ヴィジュアル面で、僕らのファンを楽しませようと思って作ったんだ」
ジョー「〈80's〉ヴァージョンは、自分たちがビーチに行ってはしゃいでいる様子を撮影したもので」
ショーン「〈70's〉のほうは奇妙なかんじがすると思う」
ジョー「ディレクターのアイディアで、人間の代わりにマネキンが登場したり、ストップモーションを多用したりしてるしね」
ボー「両親に70年代のヴァージョンを見せたら〈何をやってるかわからない〉と言われちゃったんだけど(笑)、僕らは結構気に入ってるよ」
――カラオケにはよく行くんですか?
ジョー「前はよく行ってたんだけど、最近はなかなかね」
ボー「日本の人はよく行くみたいだから、そのうち日本で大規模なカラオケ・パーティーを企画したいな(笑)」
――ショーンはLAに引っ越したばかりの頃、ニュー・ラディカルズの“You Get What You Give”をよくカラオケで歌ってたそうじゃないですか。そのエピソードを踏まえて、“Karaoke”の少し現実逃避チックでもある歌詞を聴き直すとグッとくるところもあるというか。
ショーン「僕とマイクは音楽の趣味はそこまで一緒ってわけでもないんだけど、ニュー・ラディカルズのあの曲が入っているアルバム(98年作『Maybe You've Been Brainwashed Too』)はお互い大好きでね。(バンド結成前に)東海岸からLAまでドライヴしているあいだにも聴いていた。“You Get What You Give”は子供のころにお父さんとレイクハウスにいたときによくかかっていた曲で、当時はどこがいいのか全然わからなかったけど、あとで聴き直したら自分が間違っていたことに気づいたよ(笑)」
――優れたポップ・ソングは現実逃避させてくれる優しさと、人生を肯定してくれる力強さを持ち合わせていますよね。スモールプールズの曲を聴いて、そういったことも再認識したんですけど、今後はどんな曲を書いていきたいですか。
ショーン「とにかく、スモールプールズらしい曲を書いていきたいね。そのためにベストを尽くしたい。これから作るものは、アップテンポでハッピーな曲になるかもしれないし、もっとスローダウンしたものになるかもしれない。どういう方向性になるかはまだ何も言えないけど、自分たちのフィルターを通して生まれた曲が、きっと素晴らしい曲になるだろうという確信はいつも持っているよ」
LIVE INFORMATION
日時/会場:12月1日(火) 東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE
開場/開演:18:00/19:00
チケット代:5,500円(税込/1ドリンク別)
http://www.creativeman.co.jp/artist/2015/12smallpools/