OTTAVA records第一弾は新時代の到来を感じさせる若手最強室内楽団!

 すでに作曲家として多数の作品を映画や舞台に提供している三枝伸太郎が満を持して世に放つリーダーアルバムは、いくつもの輝かしい旋律の糸で織りあげられたタペストリーのようでありながら、細部に狂気が潜んでいて、聴き返す度に興奮させられる。

三枝伸太郎 『三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza』 OTTAVA/カメラータ(2015)

 古典タンゴの名曲を思わせるようなエレガンスが香るオリジナル《瞳の中の海》から、唯一のカヴァー曲であるピアソラの《リベルタンゴ》への流れが象徴的だ。狭義の「タンゴ」はリズム形式を表す用語であり、その意味で《リベルタンゴ》はタンゴではない。むしろ 「タンゴから生まれた、タンゴではない何か」であることを明示するために「libertad」(自由)と「tango」を組み合わせた造語をタイトルとした、と解釈することも可能だろう。そして 「自由」とは決して、アドリブパートを入れてお茶を濁すことなんかではない。タンゴ本来のグルーヴを根底に維持しつつ、さまざまなアイディアを盛り込んで縦横無尽に展開していく。これこそが、ピアソラの目指した自由ではないか。表層的なスタイルの模倣や、有名曲を1つくらい入れておこう、なんていう安っぽい発想とは対極的なのだ。

 挾間美帆小田朋美に続く同世代(1985-86年生まれ)のピアニスト兼作曲家のCDデビューは、新たな時代の幕開けを感じさせずにはいられない。3人はそれぞれ国立音大、東京藝大、東京音大でアカデミックな作曲技法を学んでおり、弦楽器の多用は共通した特徴だが、中でも三枝は弦楽アンサンブルの美と快楽を徹底的に追求し、そこに北村聡のバンドネオンと相川瞳のマリンバ、小田朋美のボイスが煌めきを添えている。中核をなすセクステットは全員30代半ば以下で、若手最強集団と呼ぶに相応しい顔ぶれ。パブロ・シーグレルが惚れ込んだベーシスト、西嶋徹の参加も見逃せない。

 “la Esperanza”=希望という名のオルケスタ。それは果てしない夢ではなく、来るべき近未来の現実として、呈示された。