東京・平和島からお届けする〈年末恒例〉のMikiki編集部ブログ、1年ぶり2度目の公開でございます。Mikiki立ち上げから1年8か月余りが経過し、なんやかんやで今年ジョインしたスタッフに牛耳られている今日この頃ですが、オリジナル・メンバーだって肩身が狭いながらもしぶとくやっております……って何の話でしょうか。ということで、今回も昨年に続いてこの1年、音楽趣味が見事にバラバラな編集部スタッフ(の一部)が個人的によく聴いた2015年リリースの作品、ベスト3を発表いたします。本当ならば5日くらい前にさっさと仕事を納めるつもりだったのに、なんやかんやで今年最後の日が目前に迫ったいまも絶賛記事作りに明け暮れているという安定した作業状況に身を震わせつつ、2015年のラスト記事という記念すべき1本がこのゆるふわなブログ――お正月の特番に飽きたら……でもいいので、ぜひチェックしてください!

 


 

【加藤直子】

2015年は、すごくエキサイティングなこともあった一方で、とてつもなく悔しくて大泣きすることもあり……と個人的には悲喜こもごもな1年でした。2016年はこの1年の経験をバネに、いっそうMikikiをプログレスさせたいと強く思っております! ということで、今年も本当に良い作品が盛りだくさん。ざっくばらんに3枚選ぶのは無理!なので、ここでは邦楽に絞って3枚選びました。しかし邦楽で3枚、というのもなかなかに難しいもので、以下に挙げたもの以外にもOMSBKID FRESINOcero星野源、さらにはCDになっていないものも含めて愛聴していたものは数知れず。なかでもソウル/ファンクな匂いのするものは洋邦問わずよく聴いたなという印象です――ここらへんについて書くと、なんかいろいろ言われそうなので割愛しますが(笑)、単純にいろいろ楽しみましたよ。

番外編……星野源の2015年作『YELLOW DANCER』収録曲“Snow Men”。大好きです

 

Suchmos THE BAY SPACE SHOWER(2015)

これはリリースされて以来、本当によく聴きました。CD代の元は十分に取っていますね。おそらく今年1、2を争う注目ニューカマーであります。正直、CDデビュー作となったEP『Essence』ではイイな~と思いながらもそこまでピンときていなかったのですが、この初フル作のリリースに先駆けて公開された“YMM”のMVをきっかけに完全にロックオンされた次第。先のEPでは見えていなかった彼らの音の引き出しがアルバムではババババと開けられ、Suchmosなりのアーバンなフィーリングでブルーアイドなソウル/ファンク、ヒップホップ、ロックを横断したサウンド、程良いポピュラリティーに完敗です。来年早々にリリースされる新EP『LOVE & VICE』もとっても良いので、お楽しみに! 先日、EPについてのインタヴューをさせてもらったのですが、あまりにも好きすぎて、取材中は無駄に〈イイですよね~〉をしみじみと連発してしまって恥ずかしい……とはいえ作品についてはちゃんと訊いてきましたので(笑)、乞うご期待。2016年1月に公開します~。

 

ペトロールズ Renaissance enn(2015)

以前からペトロールズのスムースで洗練されたブラック・ミュージック解釈が大好きでしたが、結成10年目にして初フル作となるこのアルバムも期待を上回る素晴らしさ! 今年話題となったタキシードも“Do It”で聴かせたザップロジャーのオマージュ(たぶん)など、端々に窺えるユーモア(?)溢れるアプローチもニクイし、長岡亮介氏の飄々としていて優男(良い意味です)風情のヴォーカルは本当に色っぽいな……と。ミュージック・ビデオ/試聴音源がないので何も貼れないのは残念ですが、買って聴く勝ちは十分にあるのでぜひ。

 

DALLJUB STEP CLUB We Love You 術ノ穴(2015)

D.J.Fulltonoさんの連載を担当したことを契機にいっそうジューク/フットワークを聴くようになり、日本でのオリジナルな進化にも大いに心躍っている今日この頃。インタヴューもさせてもらった七尾旅人×Boogie Mannの“Future Running”のようなフットワークがJ-Popとして成立した他に類を見ない好ナンバーが登場しつつ、このDALLJUB STEP CLUBが鳴らす人力ベース・ミュージックも非常に刺激的な一枚でした。ジュークやダブステップを軸にしたわかってらっしゃるリズム・ワークを軸に、アイデア満載のプロダクションと何よりキャッチーなサウンドが本当に楽しくて、こんなバンドが日本にはいるんだよ!と世界中に自慢したいくらいです。生音至上主義というわけではないですが、こういうフレッシュな発想、チャレンジングな姿勢で作られたカッコイイ音楽にはシンプルに惹かれますね。そういえばトラックスマンの来日公演で披露されたという、DSCによる“Blow Your Whistle”のカヴァーを聴き逃したことは大変後悔しております――海外でも受け入れらるはず!とも思うけど、まずは日本の人たちに知ってほしいんだ、私は。

 

 

【小熊俊哉】

今年4月よりMikiki編集部に加入。前職が出版系でしたので、紙とウェブの違いに悩み苦しみ毎晩枕を濡らしながら、ノビノビと記事を作らせていただきました。これもひとえに、理解あるアーティストやレーベル、素晴らしい書き手と寛容なMikiki編集部スタッフ、そして読者のみなさまのおかげ。感謝感激です。そんな1年間のハイライトを挙げると、仕事が長引いてアメリカン・フットボールの来日公演に大遅刻してしまい、渋谷スクランブル交差点を走っていたら、そこになんとカーリー・レイ・ジェプセンの姿が! まさかのミラクルロマンスに思考回路はショート寸前。ドキドキして息が止まりそうでしたが、どうやら後日アップされた“Run Away With Me”のビデオを撮影していたようです。カーリーと共に〈サマソニ〉で最高のパフォーマンスを披露してくれたザ・ドーも、先日アップされた“Trustful Hands”のMVで東京中を練り歩く光景をフィーチャーしていましたが、こういうのって嬉しいものですよね。

カーリーの『Emotion』も超聴きました

 

CHRISTIAN SCOTT Stretch Music Ropeadope/AGATE(2015)

THE NOVEMBERS小林祐介×土屋昌巳両氏の対談で、土屋さんが〈(プロデューサーとして)2015年の空気を記録したかった〉と語っていたのが特に印象的でした。そこで自分にとっての〈2015年の音〉を選ぼうとしたとき真っ先に浮かんだのが、このアルバムのオープニングを飾る“Sunrise In Beijing”。コーリー・フォンヴィルジョー・ダイソンJrという2人の超絶ドラマーが、ステレオの両サイドで刻まれる蝉の羽音みたいな高速リズム。その上で奏でられる、トランペットとフルートの勇壮でドラマティックな旋律。音楽が拡張していく瞬間を真空パックしたような演奏はノックアウト必至でしょう。クリスチャン・スコットは、若く有望なミュージシャンを揃えた来日公演もすごかったです。

 

加藤りま faintly lit flau(2015)

来日公演といえば、キリスト品川教会のチャペルで開催されたヴァシュティ・バニヤンも素晴らしかった。老いてなおファンタジーの住人みたいな佇まいに、やさしく灯ったロウソクのような歌声。粉雪が積もるように心の奥まで響き渡る演奏は、〈聖なる夜〉と呼ぶのが相応しいものでした。そんなヴァシュティの過去作や、イノセンス・ミッションの新作『Hello I Feel The Same』(及びコンピ盤『The Innocence Mission For Quiet Corner』)とも重ねてしまう作風に心奪われ、愛聴したのがこの一枚。淡い空気感と繊細なヴォーカルが織りなす、やさしくドリーミーなサウンドは就寝前のお供にもぴったり。三宅瑠人氏によるアートワークも素敵です。

 

TRAMPAULINE Marginal Pastel Music(2015)

アジカン後藤正文&高橋健太郎&金子厚武各氏のトーク・イヴェントも実現した「ポスト・ロック・ディスク・ガイド」を編集するに当たって、ポスト・ロックエレクトロニカの旧譜をたくさん聴き返した一年でもありました。その最中の2月に、懐かしのラリ・プナと一緒に東京・代官山UNITのステージに立ったトランポリンは、個人的な思い入れの強い韓国のシンセ・ユニット。公演の数か月後にリリースされたこの新作では、先にライヴでも披露していたロック色の強い演奏も交えて、日本では2012年にリリースされた前作『This Is Why We Are Falling For Each Other』よりも鋭利でスリリングなサウンドを展開しています。チャーチズメトロノミーあたりとの同時代性を感じさせる意欲的なアレンジと共に、歌メロに滲むアジアンな情緒も好き。  

 

 

【田中亮太】

今年の9月1日にMikikiへ加入と、まだまだペーペーの僕ですが、温かい先輩たちに囲まれ、元気いっぱいで仕事させていただいております……というのは半分リアル・半分フェイクで、上記お二方からの超スパルタなご指導と、原稿が血染めの如く真っ赤っかになって戻ってくる鬼の校正に身も心もノックアウト!されることもしばしば。でも、ありがたいことに校正で文章は良くなっていくんですなあ。手前味噌ですが、〈編集者ってすげえ〉と痛感した4か月でした。2016年は一刻も早く一人前のエディターとなれるよう精進しつつ、これまで書き手として主戦場にしていた日本のインディーをいっそう細かくMikikiでも取り上げていきたいです。だって、あまりに伝わってないことが多すぎる!……と謎の憤りモードですが、いま本当におもしろいミュージシャンや作品、ライヴの場などをエモく発信してきたい所存であります。というわけで以下の3枚もそうした観点からチョイスしてみました~。

 

SEVENTEEN AGAiN 少数の脅威 KiliKiliVilla(2015)

大きな反響のあったKiliKiliVillaを主宰する安孫子真哉のロング・インタヴューのなかでもたびたび言及され、安孫子と若い世代のパンク・バンドとのパイプになったというSEVENTEEN AGAiN。大変遅まきながらですが、今年から自分もすっかり心酔してしまい、足繁くライヴに通っておりました。溢れんばかりの熱量ながら、もはや美しさの域に達しているパフォーマンスが引き起こす感動に加え、偉ぶりのない社会的ステイトメントの発し方にもたくさんヒントをもらっています。世界と対話するためのパンクであることと、私的な幸福のあり方としてバンドであることの間で、彼らは常に揺れているようにも見えていて、その挟間で瞬く残像に強烈に惹かれています。

 

東京スーパースターズ 告白 P-VINE(2015)

30代半ばを迎え、良くも悪くもいまだルーキーの気持ちが抜けないけれど、確実に大人になりきっていて、そこでやれることを考えてみる。そんな悩み多きプレ・ミドル・エイジにつき、2015年は同世代で活動を続けているミュージシャンやオーガナイザーの姿に勇気付けられることの多い年でした。東京の4人組バンド、東京スーパースターズはもっとも直近で自分に火を点けてくれた存在。4月に発表された初作『告白』においても、上品なセンチメンタリズムが込められたギター・サウンドに、歳を重ねてきたからこその瑞々しさを感じます。そう言えば、彼らがHello HawkT.V. not januaryShipyardsと主催した先日のイヴェントは〈BUT LIFE GOES ON〉と名付けられていました。

 

ラッキーオールドサン ラッキーオールドサン kiti(2015)

上の2組とは異なりまだ20代前半の男女デュオ、ラッキーオールドサンはその年齢がゆえの眩い青さを持った視線で、聖蹟桜ヶ丘をモデルとした一つの街を舞台に、移ろう人々の姿を描きました。〈大人になっていくこと〉をテーマにした“ミッドナイトバス”は映画「インサイド・ヘッド」とも見事なシンクロニシティーを示した名曲。というかほとんど主題歌のようで、聴くだに映画のあのシーンが蘇って涙腺が決壊してしまいます。初作『ラッキーオールドサン』は否応なしに動いていく時代のなかで、確かに生きる市井の人々の息遣いを閉じ込めた9編の物語――なお、同テーマをSF的な想像力を駆使して表現したROTH BART BARONの『ATOM』も今年を代表する作品でしょう。