東京・平和島からお届けする〈年末恒例〉のMikiki編集部ブログ、1年ぶり3度目の公開でございます――と昨年の本ブログの序文をコピペをしてみましたが、2016年は昨年を超える多くの方にMikikiを訪れていただき、本当にありがとうございました。日々の記事作りのみならず、11月~12月には自主企画ライヴ・イヴェントを3本開催と、スタッフは年がら年中ワチャワチャしておりましたが、少しでも楽しんでもらえていたら幸いです。ということで、今年も編集部スタッフが個人ベストを公開しますよ! 記事の最後に、われわれが選んだ盤からのプレイリストも付けましたので、よろしければどうぞ。 *Mikiki編集部

 

【加藤直子】

そもそも私が〈3枚で〉と言い出したとはいえ、やはり3枚だけ選ぶというのは結構苦痛ですね。特に今年はめちゃめちゃアルバム豊作イヤーだったので、ここしばらくウンウン頭を悩ませていましたが、最後は勢いで決めました。ここに紹介できなかったのは数知れず、1月のアンダーソン・パック『Malibu』に始まり、12月のチャイルディッシュ・ガンビーノ『Awaken, My Love!』まで……あ~、黒田卓也『Zigzagger』もすごい聴いたな……サンプリングもの好きとしてはアヴァランチーズ『Wildflower』も逃がせない、そうだ、ア・トライブ・コールド・クエストも、BJ・ザ・シカゴ・キッドもいた!……と言いはじめたらキリがない。けれど、もうちょっといろいろ聴いておきたかったなという後悔も。来年はもっと聴くぞ!

アヴァランチーズ『Wildflower』収録曲“Because I'm Me”。このMV、カッコ良すぎじゃないですか?

 

THE WEEKND Starboy Republic/ユニバーサル(2016)

いや~、これが出てくるまでは、この枠はアンダーソン・パック選手で確定でした。再生回数で言ったらパック選手が断然優位ですが、リリースされたてホヤホヤで興奮冷めやらぬなか……というタイミングの良さが奏功し、ウィークエンド選手が見事1/3枠を獲得です。個人的には前作『Beauty Behind The Madness』で彼ならではのダークで退廃的な世界観は完成して、これを超えるものは出ないと勝手に決めつけていました。だから今回の『Starboy』に関しては、〈こういうのはもういいわ〉と言うつもり満々で聴きはじめたのですが……なんなんだよ! アルバムの最初と最後を固めたダフト・パンクとのこれ以上ない好相性ぶりもさることながら、一層幅を広げたアプローチの妙とキャッチーなメロディーの強度に、“Rockin'”の2ステップに、ケンドリック・ラマーの〈セイセイセイ〉にヤラれました。限界超えてくるわ~。

 

WONK Sphere EPISTROPH(2016)

今年の日本勢も豊作で……かなり悩みましたよ。候補はSTUTS選手にCICADA選手、KANDYTOWN選手、CRCK/LCKS選手と 激戦。そのなかで今回は、初めて聴いた時の衝撃が群を抜いていたWONK選手をピックアップしました。ネオ・ソウル的なサウンドをビート・ミュージック以降の音像でアップデートした音源のエディット感覚と、それをバンド・サウンドで実演するライヴでの印象の違いを大いに楽しませてもらった次第。今年は何回かWONKのライヴを観ましたが、先日行われた〈Mikiki忘年会2016〉でのステージも最高でしたね! 来年以降、パフォーマンスはもっとイイ感じに成熟していきそうですので、未見の人はぜひ。このアルバムの前に配信限定でリリースされたEP『From The Inheritence』も◎ですよ。

★WONK 『Sphere』のインタヴューはこちら

 

SHINee 1 Of 1 S.M.(2016)

今回唯一、1秒も悩まずベスト入りしたもの。前作『Odd』でも聴けたUKガラージのフレイヴァーを取り込んだり、ニュー・ジャック・スウィングで〈レトロ〉とか言ってみたり(レトロって言うのなに?)、アイドル・ポップらしいゴチャ混ぜ感はありつつ、アルバム総体として過不足なく聴けるクォリティーは流石でした。スロウ・チューンはあるものの、クリシェ的なバラードを安易に入れていないところも好感度大。これは曲単位ではなくアルバム通して聴くことで素晴らしさを実感できる一枚ですね。移動中はなんやかんやでこれを聴いてしまう2016年でした。また、メンバーのジョンヒョンによる初フル作『좋아 (She is)』も負けず劣らず秀逸だったので、せひ聴いてほしいです。ちなみに、韓国人の親友に〈SHINeeほんと最高だからちゃんと聴いてみ〉と言ったところ、〈もうアイドルにしか見えないから無理〉と返され、いや私もアイドルだと思っているけれども……と、いろんな意味で越えられない壁を感じたのは切ない思い出です。

歌番組でのパフォーマンスなのでキャーキャーしていますが

 

【小熊俊哉】

M83のアンソニー・ゴンザレスに取材したとき、こんな話をしていたのが忘れられません。「いまはiTunesやSpotifyで簡単に曲を聴くことができるし、ちょっと気に入らなければ、すぐ次の曲に移ってしまう。僕らアーティストは、ゆくゆくは〈スペース・ジャンク〉になるという運命を辿ると思う。どれだけ素晴らしいクラシックの音楽家や著名なDJであろうと、最終的に同じ宿命を背負っているんだ」――こういったミュージシャン側からの問題提起は、いまこうして書いているテキストや記事にもあてはまる気がして。タイトルや見出しにフックがなければ、中身がどれだけ充実していようとスルーされてしまう。でもだからって、安易な釣り記事やパクリキュレーション(年末らしく時事ネタ)はやりたくないわけですよ。PVも重要だけど数値のみに惑わされず、読者の心に刺さるものを手間暇かけて作りたい。音楽も一緒で、独自の哲学とチャレンジ精神を持つ人たちを積極的にプッシュしていけたらと。安心と信頼の音楽メディア、Mikikiを来年もご愛顧いただけますようお願い申し上げます! 選挙演説みたいになりましたが、iTunesの再生回数が多かった順に3枚選びました。

5月に行われたM83の来日公演は素晴らしかった。僕は『Junk』大好きですよ!

 

KIRINJI ネオ ユニバーサル(2016)

〈ネオ〉と銘打って心機一転、ときめき隠せない会心のポップ・アルバム。退屈な街での暮らしから1日限りの旅に出る“日々是観光”は、シンプルな言葉で綴られるストーリーテリングの妙はもちろん、コトリンゴさんの淡い歌声もグッとくるものがあり、今年の個人的ベスト・トラックに選出です。それに、最近のKIRINJIはライヴが素晴らしいんですよ。ドラム・パッドやヴォコーダーなど楽器を自在に持ち替え、アメリカーナやエレクトロニカ、ポスト・ロックまで自然に溶け込んだ有機的なアンサンブルのなかで、ギターの弓木英梨乃さんが一気呵成に弾きまくる! RHYMESTERも登場した10月31日の全国ツアー千秋楽は断トツで今年のベスト・ライヴ。もちろんアルバムもベスト! 今年はとにかくKIRINJIが全部ベスト! 三冠王!!! そんな絶好すぎるタイミングで、堀込高樹さんとシャムキャッツの夏目くん&大塚くんの鼎談記事が実現できたのは感無量でした。耳童貞!

 

TAMTAM NEWPOESY Pヴァイン(2016)

1曲目の“アンブレラ”からビックリですよ。これを聴けば、彼らがバッドバッドノットグッドやブッチャー・ブラウンの影響を語るのも、マイルド・ハイ・クラブやソフト・ヘアをお気に入りに選ぶのも頷けるというか。現代ジャズ~サイケ~ラウンジなどを越境した音要素にレゲエのリズムが加わった摩訶不思議なアンサンブルのなかで、溶けたり踊ったりするようなクロちゃんのヴォーカルも◎(そのへんの話はこちらも参照)。正直に告白すると、このアルバムを聴いて真っ先に想起したのはステレオラブの99年作『Cobra And Phases Group Play Voltage In The Milky Night』。バンドの佇まいも通じるものがある気がするし、この『NEWPOESY』にも“星雲ヒッチハイク”“自転車ジェット”というミルキー・ナイトな名曲が収録されていたりと、なんとなーく重なるんですよね。告白ついでに、同作のアートワークや↓のMVを手掛けている川井田好應さんには、何年か前にとあるロゴを製作してもらったことがあります。素敵なデザイナーさんなので、ポートフォリオもぜひチェックしてみてください。

 

BIBIO A Mineral Love Warp/BEAT(2016)

個人的に今年たまらなかったのは、上述のマイルド・ハイ・クラブ“Skiptracing”ソフト・ヘア“Relaxed Lizard”ドラッグディーラーとワイズ・ブラッドのコラボ曲“Suddenly”といった、サイケとメロウ、宅録感のトライアングルで結べそうな楽曲群。それこそ、ケイトラナダ×アンダーソン・パックの“Glowed Up”ノーウォーリーズ『Yes Lawd!』もその文脈に連なる作品だと思うし、ラムチョップデヴェンドラ・バンハートといった中堅の最新作も共振するようなフィーリングがあって絶品でした。その流れでベストを選ぶなら、ここに来て最高傑作を届けてくれたビビオ。なかでも“C'est La Vie”は繰り返し聴きました。そういえば、Kan Sanoさんが七尾旅人さんとコラボした曲のタイトルも“C'est La Vie”でしたね。〈人生なんてこんなものさ〉という慣用句で、どちらの曲もロンリー&ロマンティックなムードに心奪われます。

 

【田中亮太】

世の中の〈ブラック・ミュージックとメインストリームがおもしろい!〉という流れには〈理解すれど心持っていかれず〉といった感じで、例年になく海外のインディー・ミュージックを熱心に聴いていた1年でした。特にハマったのがサイキック・イルズの最新作『Inner Journey Out』。次点はホープ・サンドヴァル&ザ・ウォーム・インヴェンションズモーガン・デルトトーマス・コーエンキャス・マコームスあたり。どれもメロウかつサイケデリックで、静かな内省へと導いてくれるサウンドばかりですね……。また、ピューマローザ(祝・HCWで来日!)やヤークといったロンドン産のパンキッシュで抜けの良いバンドの登場には、ようやくUKインディーが息を吹き返す気運を感じています。それには、イギリス国内のハードな社会情勢が反映されているんだと思いますが、ここに挙げた3枚を含む邦楽(と邦画)で起きているパラダイム・シフトを顧みると、ここ日本においても〈20世紀も今は昔〉が顕在化した年だったように思います。そうした視点からも、シングルではシャムキャッツ“マイガール”がダントツでした!

 サイキック・イルズの2016年作『Inner Journey Out』収録曲“Another Change”。DJでも毎回かけました

 

THE NOVEMBERS Hallelujah MAGNIPH/HOSTESS(2016)

日本に〈マーキュリー・プライズ〉があれば、間違いなく受賞するであろうエポックメイキングな傑作。細やかさとダイナミズムを併せ持つバンド・アンサンブル、攻撃的なノイズやサイケデリックな音色にエレガンスを吹き込むプロダクション、そしてフロントマン・小林祐介が鮮やかなコントラストで描く、光と闇のロマンティシズム――メンバー4人が並んだときの佇まいを含めて、いまもっとも格好良いロック・バンドだと思います。インディー・シーンでは特に数少ない、男の子も女の子もキャーキャー言えるバンドでしょう! 11月に東京・新木場STUDIO COASTで開催されたリリース・ツアーの最終公演でも圧巻のパフォーマンスを見せてくれて、もう大興奮でした。なので、↓の動画は同ライヴからアルバム表題曲の映像を。

 

GEZAN NEVER END ROLL 13月の甲虫(2016)

30代も半ばになり、自分よりも若い世代のミュージシャンやリスナーの感性を経由して〈いま最高にホットな音楽〉を発見する機会が多くなってきました。このGEZANも(いまさらながら)そうして出会えたバンド。NOT WONKが最新作『STAY』のリリースに合わせて行った東京公演で彼らを対バンに招いており、そこで初めてライヴを観たのですが、巨大かつ研ぎ澄まされた刃物が猛スピードで迫ってくるようなパフォーマンスに鳥肌が立ちまくりでした。まさか同公演の終盤でシャーク・安江の脱退と活動休止がアナウンスされるとは……。その4人編成での最終作である『NEVER END ROLL』は、澄み切ったノイズと焦燥感に溢れたビートが溶け合い、途轍もなく蒼い恍惚をもたらしてくれる一枚。〈今日も4人でここに立っている〉という言葉に涙腺が緩んでしまいます。

 

Homecomings SALE OF BROKEN DREAMS felicity/SECOND ROYAL(2016)

昨日公開した〈極私的〉お気に入り記事トップ5Homecomingsのインタヴューを入れなかったのは、こちらのベストに挙げるつもりだったから。ここ1~2年間の成長は本当に目を見張るものがありますが、この『SALE OF BROKEN DREAMS』はバンドが拡張していった可能性を見事に結実させたアルバム。グル―ヴと緻密さを増したリズム・アンサンブルと滑らかな軌道を持ったメロディーで描く、架空の街で暮らすさまざまな人々のストーリー。ソングライター・福富優樹のインスピレーション源の一つはダイベック「シカゴ育ち」だったそうですが、個人的にはカポーティ「誕生日の子どもたち」を思い出す瞬間も。リリカルな筆致に隠された裏テーマ=〈幽霊たち〉について、インタヴューでしっかりと炙り出せたことも良い思い出です。

 

【高見香那】

某CDショップ勤めから昨年末にMikikiに加入して丸1年、人生刺激ばかりではありますが、多くの人/モノとの出会いがあった良い1年でした。音楽の聴き方もここ数年はレコードが主流だったのが、転職を機に配信などもグッと身近になりましたよ。さて年間ベスト、お手柔らかにお願いします。今回は長く好きなアーティストが発表した待望の新作を並べてみましたが、自分内トピックでいうと、オール・ジャンルを扱うサイトと諸先輩方のお陰で未開の地へ踏み込む毎日で、特にヒップホップ勢との距離を縮めました。直近ではKOHH。話題になった先日の地元凱旋ライヴですっかりヤラれてしまい、今後どこかで想いのたけを吐き出したいです。いまのところは〈ブルーハーツに似ているから好き〉という説が有力。そのほかによく聴いたのは順不同でC.O.S.A.×KID FRESINO『Somewhere』、DJ KENSEI『IS PAAR』、Magic, Drums & Love『Love De Lux』、ミツメ『A Long Day』、塚本功『ARCHES』、ジョナサン・リッチマン『Ishkode! Ishkode!』、レモン・ツイッグス『Do Hollywood』など。また、2015年モノの取りこぼしの回収も精力的にやっていましたが、田我流とカイザーソゼなどstillichimiya周辺作品はやっぱりおもしろく、へヴィーに聴きました。

 

柴山一幸 Fly Fly Fly mao(2016)

いまの仕事に就いて、記事をやりたい!と真っ先に思ったのが柴山さんでした(インタヴューはこちら)。もっと広く聴かれるべき、というのはいつも思っているのですが、井出ちよの3776)とのディスコ・チューン“That's the way”は彼の代表曲と言えるくらいの名曲&名コラボで、これでブレイクスルーしちゃうんじゃないかな!?と思ったくらいです。ここしばらくは年に1度のペースでリリースしているので、来年もきっと新作がお目見えするはずですが、こういった路線のポップな内容になるような気もするので楽しみに待ちますよ。また、個人的には柴山さん作品がアナログで全然出ていないので、熱望!

 

坂本慎太郎 できれば愛を zelone(2016)

多くの音楽ファンと同じように、今年もっともリリースを待ち焦がれた新作のひとつでした。全体を通して脱力感や浮遊感より大きな緊張感が感じられて、2016年の日本に対するプロテスト・ソングとも言えそうな、地に足の着いた超現実的な作品だと思いました。“鬼退治”での氏の役者ぶり?などは素直に楽しみましたが。また、先日VIDEOTAPEMUSICと共作でリリースした映画「バンコクナイツ」のトリビュート・シングル“バンコクの夜”も目下堪能中。Mikikiでは同作品についての話を含む、映画にまつわる座談会も取材済みなので、公開をご期待ください。

 

ザ・クロマニヨンズ BIMBOROLL Ariola(2016)

年に1枚アルバムをリリースし、大規模なツアーに出て、終わって一休みしたらまた次の作品を作りはじめる――という様式美にも惹かれるんですが、ブルーハーツやTHE HIGH-LOWSが成し得なかった結成10年の壁を越えて、バンドがいますごくイイ感じなのがよくわかる内容。それが感慨深かったので挙げました。リリース公演が楽しみでしょうがないです。ローリング・ストーンズの新作『Blue & Lonsome』も最高でしたが(記事はこちら)、甲本氏や真島氏はどう聴いたでしょうか。