コラム

東京インディー・シーンの注目株、Taiko Super Kicksがオルタナ・ロックながら上品なアンサンブル光る初アルバム完成

東京インディー・シーンの注目株、Taiko Super Kicksがオルタナ・ロックながら上品なアンサンブル光る初アルバム完成

 NY州ロングアイランドから届いた1通のメールが、すべての始まりだった。2011年の冬、米国に留学していた早稲田大学の学生・伊藤暁里は、ありあまるモラトリアムをギターの練習と音楽を聴くことに費やしていた。モントーク岬灯台の灯りを揺らすみぞれ混じりの風から身を隠し、暖かな自室で一人彼が聴いていたのは、サンフランシスコ出身のインディー・ガールズ・バンド、グラス・ウィドウだった。「帰ったらバンドをやろうと思う、だから手伝ってほしいんだ」――深く静かに折り重なるイースト・サイドの季節の中で聴くには少しだけ眩しい、遊び心に富んだガレージ・ポップが彼の心にかすかな火を燈した。

 東京は高田馬場で、その突然の静かな意思表明をそれぞれ受け取った樺山太地大堀晃生小林希の3人は、まず驚いた。伊藤が楽曲を作っているということ、そして自分たちと演奏したいと思っているということ――それは彼らの知っている伊藤のシャイで物静かなキャラクターとはうまくリンクしなかった。2012年、ギターを担いだ伊藤が〈のそっ〉と米国から帰国するのを待って、彼らはスタジオに入った。演奏したのはEP『霊感』に収録されている“Ringo no Shitsukan”。共に〈Modern Music Troop〉という音楽サークルに所属しながらも特に親しかったわけではない4人は、この時、Taiko Super Kicksというひとつのバンドになった。

 「自分なんかが、音楽をやる資格はないと思っていた」――音楽は選ばれた芸術家のためのもの、という意識に取り憑かれていたという伊藤。だが、留学中の一人きりの時間の中で、有名無名を問わず多種多様な音楽に触れていくうちに「夜になれば灯りがそれぞれの窓辺に灯るように、自分自身も音楽をやっていいと思えた」のだという。ゆえに結成こそ2012年だが、Taiko Super Kicksはその〈道のり〉を急いでこなかった。と、いうよりも、彼らには〈道のり〉がない(あるいは〈道のり〉しかない)。なぜならば、音楽を鳴らしていること、それ自体が彼らの到達地点でありゴールだからだ。

Taiko Super Kicks Many Shapes Pヴァイン(2015)

 彼らの初アルバム『Many Shapes』は、不器用にしか生きられない優しい人のための、脆く美しい作品である。〈居場所〉と言い換えてもいいかもしれない。イデオロギーの対立の中で見落とされてしまう〈それぞれの形〉に目を向け、それらを何とか彫り出そうとする4人の試みは途轍もなく切実で、どこまでも真摯だ。

 簡単に言えば、ここで彼らが描き出そうとしているのは、一人ぼっちで部屋にいる、あるいは雑踏の中で立ちすくんでいる、あなたのことだ。表題曲“メニイシェイプス”や自己の不確かさを対象化した“流れる”、そして彼らにとっても意義深く大切な曲だという“低い午後”は、まさにそのステートメントとなっている。

 オルナタティヴ・ロックというジャンルにありながらも、バンド・アンサンブルは上品で、静かである。時折、現れ出でる轟音は激情や破壊を意味せず、感情の揺らめきを丹念に表現する。歌詞にある〈愛おしい〉という感情を自分なりに表現しようとしたという“夏を枯らして”の樺山の後半のギター・ソロは、この作品の聴きどころでもある。

 ユーモアも忘れていないのが、このバンドのクレヴァーな美点でもある。腰の折れた悲しいダンス・ミュージック“シート”や、J-Popが香るポップソング“釘が抜けたなら”、そして“Ringo no Shitsukan”を思わせる気の抜けたコーラスが印象的な“ラフ”には、批評的な視点を感じさせ、思わず笑みがこぼれる。

 どうしたって、僕らは大きなものや強い力に身を任せたくなってしまう。善や悪などの概念で物事を判断したがる。しかし、生きるということは、あるいは、その発露である芸術というものは分類ができるものではない。結局のところ、我々は戸惑いながらそれぞれささやかに生きていくことしかできない。人はそれを諦観と呼ぶのかもしれない、しかし諦めの極地には必ず光がある。その光にそっと手を翳し、それが〈愛〉だったと気付き、驚き抱く人、それがTaiko Super Kicksなのだ。〈愛だけが同じさ それ以外全て〉(“別れ”より)。

 


Taiko Super Kicks
伊藤暁里(ギター/ヴォーカル)、樺山太地(ギター)、大堀晃生(ベース/コーラス)、小林希(ドラムス)で構成される、東京を拠点とする4人組バンド。SoundCloudに公開した“S.E.A.T”“Ringo no Shitsukan”が口コミで話題となり、のちにライヴ活動を開始。2014年8月には一部店舗/会場限定で自主制作EP『霊感』を発表し、以降は企画イヴェントを重ねて行うなど、動きが活発化していく。2015年は7月に〈FUJI ROCK FESTIVAL〉の〈ROOKIE A GO-GO〉へ出演し、10月には入手困難となっていた前年のEPがリマスタリング/パッケージも新装のうえで全国流通される。このたびファースト・アルバム『Many Shapes』(Pヴァイン)をリリースしたばかり。

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