(左から)樺山太地、伊藤暁里、大堀晃生、こばやしのぞみ

Taiko Super Kicks(以下、タイコ)のニュー・アルバム『波』。2021年6月8日、予告もなく突如配信でリリースされた本作(伊藤暁里の歌詞になぞらえて言えば、〈通知されずに訪れるもの〉だろうか)は、前作『Fragment』(2018年)からおよそ3年ぶりの新作になった。

けれども、タイコというバンドはこの3年間、けっして歩みを止めていたわけではなくて、彼らなりのペースと実験的な姿勢でゆっくりと、だが着実に、新しいなにかに取り組んでいたようだ。その結晶として、まず『波』が届けられた。さらに8月10日、連作のようなアルバム『石』もリリースされ両作を2枚組にしたCDの発売もアナウンスされた

9曲で約26分間、不思議なサイズのアルバム『波』には、バンドの変化の兆しがそこここにある。それは、岡田拓郎がミキシングとプロダクションを、Klan Aileenの澁谷亮がエンジニアリングを担い、また元シャムキャッツのメンバーたちが運営するTETRA RECORDSからのリリース、といった本作の体制からもあきらかだ。

ここでは、そんな『波』をめぐる対話をお届けしよう。タイコの伊藤暁里(ヴォーカル/ギター)、こばやしのぞみ(ドラムス)の2人に、北沢夏音が聞き手としてインタビューをおこなった。また、もう一人の聞き手として、私、天野龍太郎も、ところどころで質問を投げかけている。

話題は、制作に至るまでの背景から文学的なリファレンスまで、多岐におよんだ。奇妙な〈手触り〉と〈可笑しさ〉にみちた『波』をより深く聴くための、あるいはあなたが『波』に触れて得た感覚や質感を拡張するためのテキストになっていればと思う。

 

アボカドの固さ、ほうかごソングス、ワンマン・ライブ

――ニュー・アルバム『波』は、1曲目のドラムの一拍目から最後の9曲目の意外なキャスティングまで、全体を通して劇的と言っていいほどの変化を感じて、それはうれしい驚きでした。〈劇的な変化〉といっても、これまでのタイコの持ち味を捨ててしまったわけではなく、個性の核心をさらに研ぎ澄ませたエッジーな感触がありつつ、ストレスで凝り固まった身体と心を揉みほぐしてくれるような心地よさもある。刺激と寛ぎの配置が絶妙で素晴らしいなと。〈こういう音楽が聴きたかった!〉と快哉を叫びたいくらい気に入っています。まず初めに、セカンド・アルバム『Fragment』のリリース以降、バンドを取り巻く環境が変わったのではないかと想像しているんです。現に、暁里くんは福岡に帰郷されているわけですし。そのあたりの事情からお伺いできればと思います。

伊藤暁里「『Fragment』を2018年の2月に出して、そのあとすぐ、11月にシングル(『感性の網目/bones』)をリリースしました。それは、『アボカドの固さ』という映画(城真也監督、2019年)の主題歌をお願いされて、その事情があったからスパンが短いリリースだったんです。

それから、2019年にNHKのEテレから楽曲の制作依頼があって。NHKが保有してるアーカイヴ映像に音楽をつけて子どもたちに見せようという、〈ほうかごソングス〉という企画で、僕たちはウミウシの映像に合わせる90秒の曲を作ったんですね。ワン・テーマでさらっと作るわけですけど、やってみたらおもしろくて、手ごたえがありました」

こばやしのぞみ「意外といけるし、楽しいねって。いままでは、曲が長くなりがちだったので」

伊藤「それで、ちょうど三鷹SCOOLでのワンマン・ライブに向けて準備をしていたので、短い曲をいっぱい作ろうという話になって」

※2019年12月22日に開催された〈Taiko Super Kicks SOLO SHOW “talkback”〉

こばやし「SCOOLでのライブは、前半はいままでに発表した曲、後半は新曲だけ、という2部構成でした」

伊藤「その新曲を2020年にリリースしようと制作を続けていたんですけど、コロナ禍になってしまって。そこで、この状況で即応性のあることをやったほうがいいんじゃないかという思いが強くなったので、『ありあけ』というカセットテープ作品に、アルバムよりも先に着手しました。

カセットを作ったあと、東京という場所を使わないのなら、高い家賃を払うのが馬鹿らしいと感じられて、僕は実家がある福岡に戻ったんです。次のアルバムを作るうえで、環境を変えることがドキュメント的な要素になるんじゃないかと思いましたし、なにかの打開策になるかもしれない、制限があるなかで作るのもおもしろいかもしれない、という気持ちもありました」