ジェイムズ・チャンス&ザ・コントーションズの5年ぶりとなる来日公演が、1月22日(金)~24日(日)にブルーノート東京で開催される。トレードマークはサックスとリーゼント。70年代後半にNYのアンダーグラウンド・シーンで実験と混沌の一時代を築いたポスト・パンク期のムーヴメント〈ノーウェイヴ〉のアイコンとして知られ、ロックの既成概念を覆すように痙攣し、暴れ回るジャズ/ディスコ・ファンクは後進ミュージシャンへの影響も絶大だ。ここでは現代美術家の松蔭浩之氏、ミュージシャン/作家の中原昌也氏、音楽ライターの村尾泰郎氏の3人が、ジェイムズ・チャンスの魅力やライヴの見どころを語る鼎談記事をお届けする。 *Mikiki編集部
やけっぱちで生々しく、屈折した存在感
村尾泰郎「お2人はジェイムズ・チャンスの音楽と、どんなふうに出会われたんですか?」
松蔭浩之「大学生の頃にコントーションズの『Buy』(79年)を中古で買ったんですよ。その前に『No New York』(78年)は聴いていて、NYのアンダーグラウンドなシーンに興味を持ってたんです。当時はイギリスのニューウェイヴが盛り上がってたけど、『No New York』※の音はもっと乾いてて、生々しくて。そのなかで、ジェイムズ・チャンスとリディア・ランチに特に惹かれたんですよね」
※ノーウェイヴの先鋭性を記録した名コンピレーション。ジェイムズ・チャンス&ザ・コントーションズ、アート・リンゼイ率いるDNA、リディア・ランチ率いるティーンエイジ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークス、マーズの4組が参加。プロデューサーはブライアン・イーノ
中原昌也「僕も最初に聴いたのは『No New York』で高1の時に買ったんですけど、全部のバンドが型にはまってない感じがすごいしましたね。そのなかで、コントーションズは一番直球。しかも、一番最初に入ってるから、どうしてもやっぱりインパクトがあった」
松蔭「そう。針を落として1曲目からこのスピード感というかなんというか、ちょっとパンクにもないようなリズム感っていうんですかね」
中原「ゴミが満載した大八車が勝手に坂を転がって行くみたいな(笑)。なんかやけっぱちな感じ。ロックじゃないのは確かですね」
松蔭「そこはジャズの要素ってことなのかな」
村尾「フリージャズのアナーキーさとファンクの躍動感がカクテルされているというか。その雑多な感じが〈No New York〉っぽい」
中原「そうですね。僕は『No New York』の前にポップ・グループを聴いていて。 あっちもフリーキーでサックスが入ってたりして、ちょっとパンクとは違うネクストレベルのものがある。そこに繋がってる感じが僕のなかにはありましたね。 まあ、向こうのほうが楽器巧いですけど。ジェイムズ・チャンスってサックスのフレーズはほぼ同じじゃないですか(笑)」
松蔭「ずっとサックスのソロが続くのかと思ったら突然歌い出したりしてね(笑)。吹けるとか吹けないとか関係ないみたいな」
村尾「でも、ジェイムズは7歳くらいからピアノを学んでて、音楽学校にも通ってるんですよ。中退してますけど」
松蔭「そうなんだ!?」
村尾「ジャズは若い頃から聴いてて、10代の時にジョン・コルトレーンやアルバート・ アイラーを聴いてフリージャズに目覚めるんです。その後、ロック・バンドに入ってストゥージズみたいなガレージ・ロックみたいなのをやってたそうなんですが、ミルウォーキーじゃ埒があかないってことでNYに移って、リディア・ランチがやっていたティーンエイジ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークスに 〈俺を入れろ〉って無理やり加入するという」
中原「音楽学校に行ってたって意外ですね。サックスで同じフレーズしか吹かないのは狙いか(笑)」
松蔭「ティーンエイジ・ジーザスも好きなんだけど、ジェイムズ・チャンスがいる頃の音源は残ってないのかな。聴いたことないんだけど」
村尾「最近(2015年11月)、ティーンエイジ・ジーザスの『LIVE 1977-1979』っていうコンピが出たんですけど、そこにジェイムズとフリクションのレックさんがいた頃のライヴ音源が2曲入ってます」
村尾「コントーションズを結成する直前くらいだと思いますが、即興で好き勝手に吹きまくってますよ。僕も初めてジェイムズを聴いたのは『No New York』だったんですけど、得体が知れなくて不気味なアルバムだと思いましたね。特にDNAとかマーズとかB面が恐い(笑)」
中原「『No New York』って、なんかよくわかんないとこがあって。まだちゃんと読み取れてない気がする」
村尾「例えばイギリスのパンクってわかりやすいじゃないですか。労働者階級の怒れる若者達がパンク・ファッションに身を包んで体制に反抗するっていうパッケージ化されたところがあるんですけど、『No New York』の人達は存在自体が屈折してるというかニヒリスティックというか」
松蔭「その後、東京にも現れる倦怠とか憂鬱みたいなものを感じるね。(コントーションズの代表曲)“Contort Yourself”の〈Contort〉って〈歪ませる〉っていう意味じゃない? だからネジれてんだよ、連中は」
中原「そのネジじれ方が簡単には理解できないのかな。単なる反抗でもないし……」
村尾「そういうネジれ方って、イギリスだったらパンクというよりスロッビング・グリッスルとか、そういうノイズ系のグループに近い雰囲気もありますよね」
中原「アメリカだとジャンクとか、そういう流れにも繋がっていって」
松蔭「ソニック・ユースとかスワンズとかね」
ルックス/アートワークの魅力とライヴの見どころ
村尾「そんななかで、中原さんはジェイムズ・チャンスを初めて聴いた時、どんなところに惹かれました?」
中原「なんだろうなあ。勢いだけで良いんだなって(笑)。あと『Buy』のジャケがカッコ良かった」
松蔭「飾っておけるデザインだよね、おネエちゃんカッコつけてるけど胸が小さくて、それがまた良いというか(笑)」
中原「ピンクの〈BUY〉っていう文字も良いんですよ。このジャケってアーニャのデザインなんでしたっけ?」
村尾「そうです。当時、ジェイムズと付き合ってたアーニャ・フィリップス。81年に26歳で癌で亡くなっちゃうんですけど、彼女がジェイムズのファッションからアートワークまで、ヴィジュアル面をすべて取り仕切ってたんです」
松蔭「そう、ジェイムズってルックスが良いでしょ。そこにも惹かれたんだよね。一貫してリーゼントでネクタイ締めてさ」
村尾「あのリーゼントは彼がリスペクトするエルヴィス・プレスリーやジェイムズ・ブラウンへのオマージュなんでしょうね」
松蔭「だろうね。ニューウェイヴの時代にあのルックスは新鮮だった。俺は九州の小倉育ちだから、ルースターズとかチェッカーズとかロッカーを観てたんでジェイムズのルックスに親近感を感じたってのはあるね。美形っぽいイギリスのニュー・ウェイヴとは違うカッコ良さ」
村尾「『No New York』の裏ジャケの写真では目に痣をつけてたりして、そういう不良っぽいところもジェイムズの魅力というか」
松蔭「当時、ジェイムズ・チャンスって喧嘩っぱやくて、ライヴ中に客席に降りていって客を殴るっていう伝説があってさ。恐い人なんだって思ってた」
村尾「本当に殴ってたみたいですね。盛り上がってくると客を殴るっていうのが、JBのマントショウみたいなお決まりの演出で。もっぱら音楽評論家とか文化人っぽいヤツを見つけて殴ってたらしいですけど、中原さんは音楽評論家とか観客を殴ったことは?」
中原「ないですよ! そんなの(笑)」
村尾「よかった(笑)。ジェイムズは最近は穏やかになったみたいで、インタヴューを読むと〈俺はみんなが思ってるほど暴力的な人間じゃない〉とか言ってます」
中原「殴っといて、なに言ってんだって感じですよ(笑)。スーサイドとかライヴでムチを振り回してたけど、それは観客が暴動を起こすから、それを守るためにやったんだとか言ってて。言い訳でしょ!」
村尾「ジェイムズ、5年前に来日した時はさすがに殴ってませんでしたが、お2人はこれまでジェイムズのライヴを観たことは?」
松蔭「ないんですよ。だから今回すごく楽しみですね」
中原「僕も観たことなくて。2005年に来日した時にジェイムズ・チャンスの本(『NO WAVE―ジェームス・チャンスとポストNYパンク』)が出て、そこに原稿書いたんですけど貧乏なんでライヴには行けなかったんです」
松蔭「今回ブルーノートでやるっていうのもスゴいよね。ジェイムズみたいなキレキレのロック・ミュージシャンがブルーノートでやることにとやかく言う人がいるかもしれないけど。ハコの雰囲気が違うとかさ」
中原「そういう考え方が古いんですよ。僕はブルーノートが、ちゃんとこういう人を呼んでくれるのが嬉しいですね」
村尾「今回はオリジナル・メンバーではないけどコントーションズ名義ですからね。きっと『Buy』からの曲もやってくれるはず」
松蔭「やっぱり“Contort Yourself”とか“Sax Maniac”とか代表曲は聴きたいよね。僕はどちらかというと、ライヴでは新曲より名曲を聴きたい懐メロ愛好家だから(笑)」
中原「誰でもそういう部分はありますよ。昔のままを期待するのか、〈こんなんじゃなかったのに!〉という驚きを期待するのか。どっちにしても初めてだから楽しみですね」
松蔭「昔みたいに勢いがなかったとしても、山あり谷ありのなかでずっと音楽をやってて、いまもサックスを持ってステージに上がれるのであればそれはもう絶対観たいよね。この前来たスワンズもさ、若い時は勢いだけだったけど、今では演奏が達者な人が集まってて。成熟という言葉はあまり使いたくないけど、熟練した演奏を聴かせてくれたしさ」
中原「成熟は否定したいですけど、いつまでも同じだと飽きられるし。難しいんですよね、成長って。成長っていうか加齢の仕方が(笑)」
村尾「最近、ポップ・グループとかPILとかポスト・パンクのバンドが再結成して新作 出してますけど、彼らはストレートなロック・バンドが再結成する以上に風当たりが強いと思うんですよ。加齢による成熟が許されないバンドなので。それでも表現せずにはいられない業というか、それをジェイムズにも見せてもらいたいですね。〈生涯No New York〉な心意気。で、中原さんにはぜひジェイムズとコラボレートして欲しいし」
中原「嫌ですよ! そんな恐いこと。ヘタしたら殴られそうだし。遠目に見てるだけで大丈夫です」
松蔭「この前、アート・リンゼイがブルーノートでやった時、ジム・オルークさんと一緒にやったステージを見たけど、あそこに中原君が入ったらおもしろいなって思ったよ」
中原「まあ、やれって言われればやりますけど、殴られそうになったらすぐ逃げます(笑)」
ジェイムズ・チャンス&ザ・コントーションズ
日時/会場:2016年1月22日(金)~24日(日) ブルーノート東京
開場/開演:
1月22日(金)
1stショウ:17:30/19:00
2ndショウ:20:45/21:30
1月23日(土)~24日(日)
1stショウ:16:00/17:00
2ndショウ:19:00/20:00
料金:自由席 8,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★予約はこちら
Bar BACKYARD
SPECIAL DJs & PHOTO EXHIBTION
ジェイムズ・チャンス祝・来日! 彼の音楽を愛するDJたちが3夜連続登場。
彼の恋人でマネージャーだったアーニャ・フィリップスによる写真展も同時開催。
【SPECIAL DJs】
日時:1月22日(金)~24日(日)
会場:Bar BACKYARD(ブルーノート東京 B1フロア、バー)
出演:
1月22日(金)
北村信彦(HYSTERIC GLAMOUR)、高橋盾(UNDERCOVER)
1月23日(土)
中西俊夫 (ミュージシャン/音楽プロデューサー)、中原昌也 (ミュージシャン/作家)
1月24日(日)
伊藤桂司(イラストレーター/アート・ディレクター)、松蔭浩之(現代美術家)
【PORTRAITS OF JAMES CHANCE BY ANYA PHILLIPS】
日時:1月13日(水)~24日(日)
会場:Bar BACKYARD(ブルーノート東京 B1フロア、バー)
協力:VACANT
★〈SPECIAL DJs & PHOTO EXHIBTION〉詳細はこちら
PROFILE
松蔭浩之(まつかげ・ひろゆき)
現代美術家。90年にアート・ユニット〈コンプレッソ・プラスティコ〉でヴェネツィア・ビエンナーレ・アペルト部門に世界最年少で出展。以後個展を中心に国内外で活動。アート集団〈昭和40年会〉の活動でも知られる。
中原昌也(なかはら・まさや)
ミュージシャン・映画評論家・作家。新刊に「知的生き方教室」(文藝春秋)がある。
村尾泰郎(むらお・やすお)
音楽/映画ライター。監修/執筆を手掛けた書籍に、ノー・ニューヨークからポスト・ロックに至るアメリカのオルタナティヴなロック・シーンを年代別にまとめたディスクガイド「USオルタナティヴ・ロック 1978-1999」(シンコーミュージック)がある。