クラウトロックの先鋭性とニューウェイヴなパンク精神が人肌のノイズと出会ったら? オルタナティヴな獣道を突き進んできた3人が向き合った〈現代〉と、その先で見い出した〈信じられる音楽〉
いちばん信じられるもの
全米で先行リリースされたファースト・アルバム『Captain Vapour Athletes』が大きな話題を呼んで以来、オルタナティヴな荒野を走り続けて来たバンド、Buffalo Daughter。多彩なゲストを迎えた前作『Konjac-tion』から実に7年ぶりの新作『We Are The Times』が完成した。アルバム制作のきっかけとなったのは、2017年に配信番組で中原昌也と共演したセッション。その時のことをメンバーはこんなふうに振り返る。
「当時、ムーグさん(メンバーの山本ムーグ)の体調が良くなくて、バンド活動をお休みしていたんです。一人欠けたことでライヴではみんな手一杯になって、創造的な広がりが生まれにくくなっていた。そんな時に中原くんと即興セッションをやることになって」(大野由美子、ベース/ヴォーカル/キーボード)。
「中原くんのことは90年代からよく知っていたけど、一緒に演奏したことがなかったんですよね。やってみたら、中原くんのノイズがすごくハートウォーミングに感じた。ちょうどその頃、次のアルバムのことを考えはじめていたので、また中原くんとセッションしてみたら次のアルバムのインスピレーションになるかも、と思って。それでアルバムを作りはじめる日にスタジオに彼を呼んで、1日中インプロ(即興)をしたんです」(シュガー吉永、ギター/ヴォーカル)。
Buffalo Daughter 『We Are The Times』 ミュージックマイン(2021)
そうしてスタートした新作のレコーディング。しかし、ムーグは体調不良で不参加、大野はバンド・メンバーとして参加しているCorneliusのツアーが入ったりと、それぞれに忙しい3人はなかなか集まることができなかった。
「それで、とにかく1か月に1回は集まろう、ということにしたんです。ただ集まるだけでは手応えがないので、その様子を〈Monthly Buffalo Daughter〉という形でネットにあげることにした。そうやって外に出していくことで集中力が高まるし、アルバムの制作過程を公開するというのも実験的でおもしろいんじゃないかと思って」(シュガー)。
そうやってセッションを重ねて音源を録り溜め、新作のリリースの準備が整った時にパンデミックが勃発した。
「それまで毎年、〈新作を出す!〉と言いながら最後のダッシュができなかったんです。それが2年続いて3年目にパンデミックになった。おかげでライヴができなくなって、ここは本気でダッシュするしかない、と思って新作に集中したんです。それが去年の暮れ頃で、そのタイミングで作った曲もあるし、なかなかまとまらなかった曲を仕上げることができたりもした。そして、最後の2週間にムーグが初めてスタジオに来て一緒にやったんです。パンデミックの影響で新作を完成させることができたと言えるかもしれないですね」(シュガー)。
逆境をプラスに変えたBuffalo Daughter。冒頭に収録された“Music”はパンデミックの最中に作られた曲で、〈Music is the vitamin/Take some everyday(音楽はビタミン/毎日摂取しよう)〉という歌詞からは音楽を愛するストレートな気持ちが伝わってくる。美しいメロディーを3人で一緒に歌っているのも印象的だ。
「この曲はいちばん最後に作った曲なんです。アルバムをまとめ上げる強い何かが欲しいと思っている時にパンデミックが起こって。暗い世の中だし、この先、どうなるかわからないけど、自分たちがいちばん信じられるのは音楽。音楽があるから今の自分たちがいる、ということを歌っておこうと思ったんです」(シュガー)。
バンドのアンセムみたいな曲ですね、と感想を伝えると、シュガーは「アンセムって言うほどのものじゃないですけどね」と笑った。
「世の中、良いことなんてひとつもないけど、音楽だけは楽しいな、っていう曲です。実際、レコーディングの時もすごく楽しくて、その時の気持ちが曲に出ているんじゃないかな?」(シュガー)。