
ボウイは音楽に寄り添ったまま死んでいく様を見せてくれた(土屋)
――『★』が最後の作品とわかっていて、そういうアルバムを作るのが凄いところですね。
浅井「死を覚悟して作ったアルバムってことだよね。アルバムを作ったら、できれば売れてほしい、ヒットしたらいいな、という思いが絶対あるじゃないですか、根底に」
土屋「うんうん」
浅井「もちろんそれを前面には出さないで、純粋に歌おうと思って歌っているんだけど、ボウイは自分の死がわかってるから〈このアルバムが売れたらいいな〉なんて、ひとかけらも思ってなかったと思う。ただ単純に歌ってアルバムを作って。何の欲望もない声、何の欲望もない人の声なんだなって、(『★』を)聴きながら思ったけどね」
土屋「そうだね」
浅井「ただ、歌う。100%の思いを込めて。自分が死ぬってわかってるからさ。そういう状態の歌声なんだと思うと、より一層歌が入ってきますけどね」
土屋「『The Next Day』やその前から、僕らみたいにずっと聴いてきた人なら、衰えがわかると思うのね。年齢的なものもあるし、肉体的な衰えも。でも、それでちょうどいいバランスになった。アスリートの人たちもそうなんだけど、60~70パーセントの力でやれるのが理想なんですよね。でもどうしても力んじゃう。70年代や80年代のボウイって、体力があるから120パーセントの力を出して、半ば唸っちゃうみたいな歌い方になっていた部分があると思うのね。でも新作ではもう物理的にできないし、しようとも思わなかっただろうし。ただ〈あっ〉と声を出した時に素直に音楽として溶けていったというかね」
――力みも作為もない声。
土屋「うん。絶頂期のボウイを知らない人が聴いても別の感動があるはずで。どっちから聴いても凄いアルバムだと思いますね」
――スポーツ選手が加齢で筋力などあちこちが衰えて、でも多くは若い頃の自分のままのつもりでプレイするから、そのギャップが解消できないで壁に当たる。その一方で、衰えた自分の身体に合ったフォームを工夫すれば選手寿命も延びる。同じように、ボウイも声などいろんな衰えをカヴァーするような歌い方ややり方を身に着けていったということでしょうね。
土屋「でしょうね。そういうところはとっくに気付いていたというか」
――『The Next Day』の前に10年間のブランクがありました。もしかしたら、最初はあのまま引退するつもりだったんでしょうか。
土屋「(そういう考えも)あったでしょうね。心臓の病気だからどうにもならない部分もあったでしょうし。だからこそ『The Next Day』ではがんばったんじゃないかな。やれる、とわかった時に。だから……語弊のある言い方だけど、たぶん〈意味のなさ〉に気付いたんだと思うね」
――意味のなさ?
土屋「つまり作品を作っても、それは自分の世界でしかない。一度作って世に送り出した作品が人にどんな影響を及ぼそうが、音楽を変革しようが、そんなことはどうでもいい。僕ですら、絶対に過去を振り返ったり懐かしがったり、あの時は良かったとか、そんな思い返すことはしないしね。一度作り上げた作品は、しょせん過去でしかない。その意味のなさに気付いた。歌詞にも出てくるんですよ。〈It’s nothing to me, It’s nothing to see〉と(『★』収録曲“Dollar Days”)。〈どうってことはない、見るほどのものじゃないよ〉、っていう」
――〈もし俺が英国の古き緑を二度と見ることがなくても〉という言葉を受けての一節ですね。
土屋「この2行を見た時、ああこの人は〈人生の意味のなさ〉に気付いているんだなと思いました。そこにかつて自分は確かに存在していたけど、それはもう意味のないものだという」
――一種の諦めというか達観というか。
土屋「物凄く達観してますね。『The Next Day』の時に、すでにそれはあったと思う。ただあの時はまだ別のサーヴィス精神があった。ロック然としたボウイというか、これやったら喜んでくれるんじゃないか、という曲が何曲もあったしね。でも『★』には、そういう曲はないわけ。わかろうとしないと、わからない」
――アルバム全体にいろんな謎が配置してありますね。
土屋「そう。それは選ぶ側の自由だしね。興味ない人はまったく興味のないまま通りすぎていくだろうし。僕みたいにそれで感動をもらえる人は、山ほどもらえるし」
――ボウイはアルバムごとに音楽性ががらりと変わる人で、むしろ変わることを期待してわれわれは聴いていたところもあったと思います。そのように変わっていく中で共通するボウイらしさのようなものがあるとすれば、それはなんでしょうか。
土屋「そういう意味でのボウイの音楽的価値観って、ある意味で〈Ziggy Stardust〉で確立されていると思います。あとは上に乗っけるものの変化。いままで手で弾いてたやつをシーケンサーにやらせる、生楽器だったのをシンセで弾くとか。ボウイはビートルズが大好きだったけど、ビートルズ的なものを除外して、軽い意味でのポップスというものも除外して構築していった。ボウイらしさという意味では、一番わかりやすいのはコード進行だと思う。今回もいっぱいあるし。このコード進行でこのメロディー、〈ああ、ボウイだな〉という」
――それは音楽的な特徴として変わらない。
土屋「そう。だからヴィスコンティが言ってた〈昔のアイデアがどんどん忍び込んできた〉っていうのは、そこなんじゃないかな。たぶん自分でもそれが好きだったんでしょうね。“Ashes To Ashes”って曲があるでしょ。あれもそういうボウイらしい曲作りの、ひとつのピークだったと思う。かつてロックで、ああいうコード進行でああいうメロディーで格好良くやった人はいなかったよね」
――話は尽きませんが、最後に一言ずつ。それぞれがボウイから受け取ったものを教えてください。
浅井「世界観から凄く影響を受けたのかな、俺は。コード進行やメロディー、歌、ライヴとかファションとか。自然に俺の中に入っとって、いままでの作品にも、これからもずっと影響を受け続けると思うけどね」
小林「僕らが新作(THE NOVEMBERSの2015年作『Elegance』)を作ってる時に昌巳さんから受けた影響でもあるんですけど、自分がステージに上がる時に〈これはいる、これはいらない〉という判断をする、という。全部を持ったままステージに上がるんじゃなくて、〈自分がステージに立って表現することはこれだから、これだけ持っていこう。それが自分の美しい姿なんだ〉という。そういうことを初めて意識することができたんです。そういうボウイや昌巳さんから受けた影響を、自分の人生のなかで高めていけたらいいなと思います」
――必要なものと必要でないもの。
小林「普段はいつも朗らかで良い人のボウイであっても、ステージで人の良さとか朗らかなボウイを出すことはないから、みんなプライヴェートでのボウイの姿を意外に思うわけじゃないですか。だからステージ上でそれが必要なのか、それが本当に表現したいことなのか、自分の貴重な時間を使って。自分が本当に作り上げたいもの、表現したいものをステージや、記録として残すものに持ち込む時に、すごく意図的でありたいと思いました」
浅井「(小林は)エフェクターが多すぎる?」
小林「ボードを小さくしました(笑)」
浅井「ドイツの人の格言で、荷物の多い人は時間を奪われるって。福士(久美子:SHERBETS)さんがめっちゃ荷物多いんだわ(笑)。そんでいっつも時間に追われとる。だからエフェクターも多すぎると時間を奪われる!」
土屋「音も悪くなるしね(笑)」
――では最後に土屋さん。
土屋「僕はもう一言ですね。音楽への寄り添い方。それを教わったという。しかも終わりまで見せてもらった。ここ1~2日でようやく自分のなかで整理が出来てきたんですけど、この人は音楽に寄り添って生きてきた。それがこの人のすべてだったんだなと。音楽に寄り添ったまま死んでいく様を見せてくれた。ここまで教えてくれたんだって。僕の思春期以降の人生の最初から最後まで、全部お手本を見せてくれた。なので覚悟がついたところもあるんです。これからどこまでこの格好良さについていけるだろう、と。ボウイになれないのは最初から承知だけど、何の指標もないまま、ただうろうろするよりも、ずっとラッキーだった。こんな人にはなかなか巡り会えないですよ。この人がいてくれてありがとう、と。そんな簡単な言葉じゃとても言えないですけど」
――わかります。
土屋「もう、弟子でも取れば良かったのに。歌舞伎みたいに」
――二代目デヴィッド・ボウイ!
土屋「そう(笑)。もったいないよね、伝えることは山ほどあったと思うんだよなぁ」
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