BLANKEY JET CITYの全曲サブスク解禁と全オリジナルアルバムのアナログレコード再発が発表され、大きな話題になっている。浅井健一(ボーカル/ギター)、照井利幸(ベース)、中村達也(ドラムス)からなる伝説的なトリオは、もちろん演奏やロックサウンドこそが魅力だが、浅井による独特な歌詞世界に惹かれる者も多いはず。今回は、そんな浅井がブランキー時代に書いた歌詞に注目。小説家・奥野紗世子が3曲を選び、それぞれについて綴った。 *Mikiki編集部
やっぱり不良に憧れます。年々不良への憧れが強くなっています。もちろんTelegramで隠語を使って薬物のやり取りをしたりしないタイプの不良。
2024年にBLANKEY JET CITYを聴くことでしか得ることのできないものって、そういうもう失われつつある不良性、〈トッポさ〉(ググってください)みたいなもので……、なんか、身も蓋もなく言えば、映画をたくさん見ている不良がサリンジャーを読んでいて、レザーパンツでバイクに乗っているとか思うと、もう、たまらないじゃないですか。
そして、そんなのもうベンジーしかいない。しかも、ベンジーは不変的なまでに、いまもベンジーでいてくれている。
そういう他に替えのきかない、ベンジーしか持っていない魅力に今回のサブスク配信解禁によって全国の21世紀生まれの人間たちが触れると思うとドキドキしてしまいます。
あなたたちもスマホの代わりにちっちゃいスケッチブックを持ち歩いて、時間ができたら動物の絵を描いたりして欲しい。
以下わたしが選ぶBLANKEY JET CITYの歌詞です。
作詞しているのは浅井健一、通称ベンジー。「グローイング・アップ」という映画の主人公の少年、ベンジーに似ているからベンジー。もうここからして、あまりにもベンジーなエピソードすぎる。
PUDDING
(1997年作『LOVE FLASH FEVER』収録曲)
名盤『LOVE FLASH FEVER』の曲です。これは本当にすごいと思っていて、わたしはブランキーファンに会うたびに、この歌詞のヤバさを説明しています。これ、本当に、すごいことしてるんじゃないかと思う。
まず歌い出しの〈寝る前にブルーのジェット機に乗る夢を見たいって願う〉からして、あまりのピュアな願望に(しかもブルーのジェット機に乗りたいんじゃなくて乗る夢を見たい、という点!)胸が締め付けられるような思いなんですが、わたしが聴くたびに新鮮な気持ちで、巧みさと、それを繰り出すときの涼しそうな居様に驚くのが〈ベロを出して爆弾落すぜ35,000のビルディング〉からはじまるAメロです。
最初に(おそらく)ジェット機から爆弾を落としたであろう視点は、〈まるでプディングが潰れるみたいに音も立てずに飛び散る〉以降に書かれる〈切っ先で風を切り分け ブ厚い雲 突き抜ける〉を経ながら爆弾が見ている景色に変わります。曲調の疾走感も相まって、わたしたちもその目撃者になれる。そして爆弾は爆発寸前に〈そこに立ってた標識読んだら「全てはガラクタ」だってよ〉と放ちます。しびれる。
ブルーのジェット機に乗る夢を見たがっていたピュアな少年の想像力はここまで膨らんでいるのです。その視点の移り変わりの語り口は、言葉少なく叙事的ながら不自然なところがなく、映像的です。同じ夢をまるでベンジーと一緒に見ているような気分になれませんか?
何気なく巧みな視点の誘導の仕方をしているような気がする。わたしが文章でこれをやったら絶対不自然なことが起こると思うのに、するっと変わっているから気がつかない。散文の人間にないリズム感だと思う。これが不良のリリシズムか。