唯一無二の不良番長がマイペースに司った刺激的な超越の儀式――バレアリック育ちな大人のロックとしての『Convenanza』

 「もう60代へまっしぐらさ(笑)。俺はこの活動を〈キャリア〉とは考えていないんだ。俺は、この活動を〈仕事〉だと思っている。懸命に取り組むこともあれば気楽にやることもあるし、大変な時もあればそうでもない時もある。他の仕事と同じさ。27、8年も同じ仕事をしていれば、当然波はある。でも、上手くやっていると思うね。いまだにエンジョイしているし、良いレコード、良い音楽を作ることができている。だから、これからも何も変えずにこのままやっていこうと思うよ」。

 その〈仕事〉を〈キャリア〉として積み重ねてきたDJ/プロデューサーのアンドリュー・ウェザーオール。自身のパーティー〈A Love From Outer Space〉を軌道に乗せているここ数年は、アスフォデルズとしてアルバムを発表したり、ニュー・オーダーモービーノエル・ギャラガーらのリミックス仕事も積極的に手掛けてきた。昨年9月にはフランスの古城における主催イヴェント〈Convenanza Festival〉を成功させ、新年に入ってからは(昔の恋人でもある)ニナ・ウォルシュとの新ユニット=ウッドレイ・リサーチ・ファシリティでの初作『The Phoenix Suburb(And Other Stories)』を発表したばかりだが、そこから間髪入れずに新作『Convenanza』を届けてくれた。以前も主催イヴェント〈From The Double Gone Chapel〉から同名のアルバムを生んだように、今回の新作も当然ながら先述したフェスの影響下にあるものだろう。

ANDREW WEATHERALL Convenanza Rotters Golf Club/BEAT(2016)

 「俺は好きな音楽を見つけてきてキュレートしているだけだよ。ロケーションは宗教的な歴史もいろいろと秘められている場所で、〈コンヴェナンザ〉というのは〈超越〉を意味する儀式の名前なんだ。アルバムをそのタイトルにしたのは、儀式と超越を意味するから。宗教的でない人々の儀式と超越……それがナイトクラブというものだからさ」。

 そんな意味も込められた新作は、シンガー・ソングライター的な意欲を増した『A Pox On The Pioneers』(2009年)以来となる、ソロ名義でのセカンド・アルバムだ。アルバムに取り組む意識を彼はこのように説明する。

 「構えて座って、〈さあ、アルバムを作ろう〉というふうに作ることはない。きっかけがある時にトラックを作っていたら、半年後にはいくつかトラックが溜まっている、そんな感じなんだ。だからアルバム作りは苦じゃない。義務感はないし、不安を抱えたことは一度もない。ありがたいことにレーベルからのプレッシャーもないしな。俺は億万長者ではないけど貧乏でもない。このペースとやり方が機能し続ける限りはこのやり方を続けていくよ」。

 作風の転換を見せた『From The Double Gone Chapel』(2004年)から『Wrong Meeting』(2007年)シリーズへと至るトゥー・ローン・スウォーズメン後期、そして初のソロ名義作だったEP『The Bullet Catcher's Apprentice』(2007年)の頃よりアンディ自身に太い軸を通すこととなったソング・オリエンテッドな作風は、今回もより強固な形で推進されている。

 「俺にとってニュー・アルバムは『A Pox On The Pioneers』の続編のような作品だ。作り方としては、先にサウンドを作って、その上に歌詞を乗せたりして〈曲〉として形を整えていく。作業はすごくオーガニックで、決まったルールや意識はなかったね。スタジオでの作業をとにかく楽しんだだけ。歌詞があるということで少しだけメッセージを持たせながらも、解釈はリスナーの自由にしているんだ」。

 ニューウェイヴ育ちの〈地〉が素直に出た作品全体の雰囲気は、トランペットの舞う序盤の“Frankfurt Advice”でさらけ出している通り。ダビーな意匠も帯びたバレアリックなトーンが全編に〈大人のロック〉的な心地良さをもたらす一方で、“Confidence Man”など彼自身の陰鬱なヴォーカルを配した楽曲と、その詞世界も全体の統一感に貢献している。

 「俺は週に1冊くらい小説を読むから、もしそこで良い表現やフレーズを見つけたら書き留めておくようにしているし、ストーリー自体からインスピレーションを受けることもある。どう成長したかはわからないけど、まだまだベターなミュージシャン、プロデューサー、リリシストになれると思うんだ。自分はまだまだだと思う謙虚さは大切だと思うね」。

〈RAINBOW DISCO CLUB 2016〉などでの来日も控える番長。その動向からはまだ目が離せないだろう。

ウッドレイ・リサーチ・ファシリティの2016年作『The Phoenix Suburb (And Other Stories)』収録曲“I Am Amateur Barbarian”