生まれ変わった名曲と、変わらないノスタルジー

 デビュー40周年を記念して、来生たかおがセルフカヴァーアルバム『夢のあとさき』をリリースした。2枚組のヴォリュームで、1枚はオーケストラ、もう1枚はバンドとの共演で自身の楽曲を再録音している。

来生たかお 夢のあとさき 日本音声保存(2016)

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 「デビュー当時は、まさか40年も音楽活動を続けられるとは思っていなかった。特に最初の5年は、商業的に成功しなかったから。この40年にたくさん曲を書き、レコーディングしたけれど、実は心残りの曲が結構あります。アレンジ、サウンド、歌、キーなどの問題でね。いつかやり直してみたい、という気持ちが贅沢にも2枚組で実現したというわけです」

 この願望がベースにあったので、27曲全てに新しいアレンジが施されている。これが大きな魅力。そして、特筆すべきはオーケストラと同時録音していることだ。

 「昔の方法ですよね。仮歌のつもりで一緒に歌い、よくなかったらやり直そうと思ったけれど、ほとんどがそのまま生かすことになった。今時の別録りとは異なり、60名編成のオーケストラとの同時録音は、スリリングだったけれど、緊張感って必要なことですよね」

 収録曲の中に新曲が2曲あり、そのうちの《風のニュアンス》は、来生えつこの作詞で、曲調が昭和の歌謡曲風。カヴァー曲とは異なるノスタルジーが香る。

 「僕の音楽の原点は、日本の流行歌。ビートルズとか洋楽を聴き始めたのは中学生の時だから。井上ひろしの《雨に咲く花》という曲が一番好きだった。60年代後半から80年代初期にかけての日本の歌謡曲っぽいものを作りたいと思い、そのイメージで書いたのが 《風のニュアンス》。あの頃の音楽は、本当に豊かだった」

 “ノスタルジー”が重要なキーワードのひとつになっていると思うが、単なる懐古ではなく、音楽制作にテクノロジーが介入せず、人間によって紡がれていた時代へのオマージュが感じられる。それがとてもいい。

 「20世紀から21世紀への過渡期に音楽も、コンピュータの成熟によって制作過程に変化が起きた。僕はアナログな人間なので、その進化についていけない(笑)。でも、いくら技術が進歩しても、メロディまでは作れない。そこで問われるのが普遍性だと思う」

 さらりと口にした“普遍性”という言葉だけれど、芸術表現において最も難しい課題のひとつである。

 「シンプルで音数が少なく、誰でも簡単に作れそう、という曲が一番難しい。《ムーン・リヴァー》や《上を向いて歩こう》とかがそうでしょ。普遍性とは人それぞれの好みを越えて、いいと好かれるもの。ライターとしては究極に目指すところだと思います」

 アルバム『夢のあとさき』は、来生たかおが歩んできた、その探求の旅を辿れるセルフカヴァー集である。

 


LIVE INFORMATION

40th Anniversary 来生たかお Symphonic Concert 2015-2016~夢のあとさき~
○3/13(日)アクロス福岡 シンフォニーホール
○3/19(土)札幌コンサートホールKitara 大ホール
○4/9 (土)愛知県芸術劇場 コンサートホール
○4/16(土)大宮ソニックシティ 大ホール
○4/24(日)神奈川県民ホール 大ホール
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