松田聖子、中森明菜、原田知世らを通じて親しんできた来生メロディ、自身のCDでは初収録となる曲も!
〈来生メロディ〉というのが熱烈に迎えられた時代というのがたしかにあって、それは80年代、“Goodbye Day”や“シルエット・ロマンス”など自身歌唱によるヒット曲と、薬師丸ひろ子や中森明菜などに託した楽曲を通して親しんだものだった。シンガー・ソングライターであり、いわゆる職業作家ではないゆえに、現在に至るまで絶えずヒットメイカーとして君臨していたわけではないが、そのメロディは、聴けば彼のそれとわかるニュアンスがあり、とって代わるものがないことをいまもしみじみと感じさせるもの。その来生が、今年はデビュー45周年記念で全国を巡っているところだが、山崎教昌、小田木隆明、藤谷一郎、桜井正宏といった勝手知ったるミュージシャンたちと共に、そのツアーに向けて編まれたと言っていいセルフ・カヴァー・アルバムが本作である。81年発表のアルバム『Sparkle』に収められていた“たそがれの苺”のほかは、林部智史、松たか子、原田知世、八神純子、布施明など男性/女性詞交えた提供楽曲を取り上げているが、まずは、あの頃から変わらない独特の温度感を湛えた歌声に追憶と心地よさを覚える。ゆえに、バラードなどシンプルなアレンジの楽曲においても味わいは格別だが、ストリングスのみの物静かな幕開けから軽快なバンド・サウンドへと展開していく“トワイライト -夕暮れ便り-”(中森明菜)、ジョビン風情のエレガントなボッサに着替えた“愛することを学ぶのに”(やしきたかじん)、松田聖子の82年作『Pineapple』のオープニングを飾っていた“P・R・E・S・E・N・T”ではアメリカン・ポップス、ドラマ「翔んだカップル」の主題歌だったH2O“僕等のダイアリー”ではファンク・テイストを加味……といった具合に、メロディが呼び寄せるであろうコク深いアレンジを効かせた楽曲も、メロディの機微、ルーツがあらためて見えてきて風味絶佳。沈むことなく、追憶で〈アガる〉作品だ。