連載

【架空のJ-Pop考】番外編:〈干物妹!うまるちゃん〉など手掛ける東宝株式会社/音楽プロデューサーの三上政高に訊く、攻めたキャラソン制作の裏側

アニメやゲームなどの劇中の役柄/登場人物として声優が歌った楽曲である〈キャラクター・ソング〉を、さまざまなミュージシャンにレヴューしてもらい、音楽界において類を見ない……おそらく日本独特の存在であるこのキャラソンというジャンルを紹介してきた〈架空のJ-Pop考〉。しばらく沈黙を続けている本連載ですが、今回は実際にキャラソン制作に携わっている方にお話を訊いてみよう!ということで、レギュラー回で楽曲のセレクトを担当してくれているTOWERanime新宿の樋口翔と共に、過去にも取り上げた「干物妹! うまるちゃん」や「モンスター娘のいる日常」をはじめ多くの人気アニメを送り出す東宝株式会社の音楽プロデューサー、三上政高氏にインタヴューさせてもらいました。

〈アニメ好きのみならず、普通の音楽リスナーも楽しめる楽曲を現行アニソン/キャラソンのシーンでもっとも強く打ち出している〉と樋口が熱烈に語る、東宝発アニメのキャラクター・ソングはどのように作られているのか? 次々とフレッシュなアイデアで楽しませてくれる三上氏が辿ってきたユニークなキャリアと共に、斬新ながら堅実かつ真摯な理念のもとで行われているキャラソン制作の裏側に迫った。

★「干物妹! うまるちゃん」より“勇者うまるの華麗なる生活”を取り上げた回はこちら

 

 

キャラクター性とサウンドと歌詞とが合わさった時に最大限の効果を発揮させる

――まずは基本的なところから伺いたいのですが、三上さんのお仕事内容を教えていただけますか?

三上政高「僕の仕事としては、アニメーションの音楽プロデューサー。映像作品があって、それらに対しての音楽アプローチをどうするのかを考えるのが、ざっくり言うとメインです。劇伴と言われるアニメーションの世界を奏でるBGM的な音楽、そしてTVアニメや劇場版アニメの主題歌、それから今回お話させていただく、本編の内容とは直接関係がないけれど〈もしアニメのキャラクターが歌ったら〉という〈if〉の要素を楽しむための音楽であるキャラクター・ソング――大きく分けてこの3つのプロデュースをするのが、アニメーションの音楽プロデューサーとしての仕事ですね」

――これまで三上さんはどういった作品を手掛けてこられたんですか?

三上「劇伴に関しては、2013年10月に東宝に入社して以降の作品はすべて担当しています。キャラクター・ソングでは『未確認で進行形』『弱虫ペダル』、それから『干物妹!うまるちゃん』『モンスター娘のいる日常』『灰と幻想のグリムガル』、そして現在放送されている『三者三葉』でしょうか。『一週間フレンズ』のEDテーマもキャラクターが歌ってはいるので、キャラソンですね。それ以外にも『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』『血界戦線』とか……」

2014年にリリースされた「弱虫ペダル」キャラクター・ソングCD予告編
 

――入社して2年ちょっととは考えられない作品数ですね(笑)。

三上「そうですねぇ(笑)。1年間に4クールしかないんですけど。2014年、2015年を振り返ると12クールくらいやってるんですよね(笑)」

――東宝に入社される前からアニメ音楽関連のお仕事をされていたんですか?

三上「そもそも僕はゲームっ子だったこともあって、ゲームの音楽を作るクリエイターになりたかったんです。曲を作るほうになりたかった。僕が通っていた高校は進学校だったんですが、途中でどうしても音楽をやりたくなったので学校を辞めて、東京に来て専門学校に行ったりして。でも、いろいろと行き詰まってしまい、その時に〈自分はどうして音楽に関わりたいのか〉について真剣に考えたんです。それでローディーやPAといった音楽にまつわるアルバイトをやっていくなかで、ディレクターやプロデューサーといった、何かひとつの大きなプロジェクトを取りまとめて世の中に出す仕事に興味を持つようになりました」

――曲を作る側より、全体を見る側のほうが向いているんじゃないかと。

三上「そうですね。全体も見えるし、いろんな仕組みもわかるので。それで確か20歳になったばっかりの頃に、この業界でインターンとして働くことになったんです。そこで3年くらいADやディレクターをやって。当時、立ち上がったばかりの会社にいたのでいろんな経験をさせてもらったんですけど、ちょうど音楽不況ががっつり来ていた時代で、いろいろな事情も重なってそこを辞めることになり、一旦、僕は音楽業界を去るんです。そしてその後に3DCGプロダクションに転がり込んで、1年間、映像の仕事をやっていたんですよ」

――映像のほうもやってらしたんですか!

三上「その会社ではプロダクション・マネージャーという、クリエイターをマネージメントする担当として入りました。海外製作の作品にも関わって、ハリウッドの音楽や音響効果などいろいろと経験させてもらいました。その後、映像と音楽の複合コンテンツにはまだまだ可能性があるなと思ったんですよね。それで、そのプロジェクトが終わったところでもう一度音楽業界に戻ろうと。その後は音楽プロデューサーをやりつつ、同時に新規事業プロデューサーのような業務を兼任して、アニメーションの音楽以外にスマートフォン・ゲームやウェブ開発、ショート・フィルムなど、いろいろと手を出していました。そこでの繋がりから現在の東宝に誘われて……いまに至ります。ちょっと転職しすぎですね(笑)」

――いやいや、でも映像のお仕事も含めて、これまでの経験の蓄積がいまに繋がっているのは間違いないですよね。

三上「そうですね、いろいろなところで運良く勉強させてもらったなと思います」

――では、今回のインタヴューは〈架空のJ-Pop考〉というキャラクター・ソングを取り上げている連載のスピンアウト企画なので、キャラソンを軸にお話しをさせてもらいたいと思います。まず、キャラソンはどのような考え方で作られているのでしょうか?

三上「キャラソンとしての肝は、例えば『けいおん!』のように〈歌〉がテーマになっているアニメーションでない限りはキャラクターが歌う必然性はないんですが、なぜキャラクターに歌わせるかというと、もちろん〈このキャラクターが歌ったら……〉というifの要素を楽しんでほしいという以上に……これはビジネス的な話なんですが、キャラソンは〈グッズ〉なんですよね。その作品のキャラクターをもっと好きになってもらうために、アニメ本編以外でキャラクターを深堀りできる要素として音楽を取り上げているんです。だから、僕らがいつも作っているキャラソンは、音楽的に攻めようということはそこまで意識していなくて、キャラクター性を大事にしつつそのコンセプトに相応しいサウンドを引き出したうえで、いかに音楽的にしっかりしたものを作るか、というところを重視しています」

――キャラクターに相応しい音楽というのは、どのように導き出しているんですか?

三上「作品ごとに大枠のキャラクターの立ち位置というものがあるんですけれど、そこを踏まえて、そのキャラクターをいろいろな角度から深掘りしていきます」

――本編だけでは見えないキャラクターの本質を推し量るというか

三上「そうですね。うちでやっている『未確認で進行形』には〈紅緒〉というお姉ちゃんキャラが登場するんですが、その子はすごく自分の妹〈小紅〉を溺愛していて、アニメのなかではそれが若干ギャグっぽく描かれているんです。すごく過保護な姉で。そういう子を歌で表現する時に、その(目に見えている)キャラクターのままというのはよくあるんですけど、彼女は妹が大好きで彼氏がいることも許せないと本気で思っているのかというと、実際なら違うと思うんですよね。むしろ妹が幸せになることを望むだろうなと。なので紅緒のキャラソンは、1曲は妹を溺愛するキャラ性だけを押し出した面白変態ソング(?)で、もう1曲はバラードの泣き曲にしつつ、1番の歌詞ではシスコンぶりが激しいお姉ちゃんをギャグっぽく押し出し、2番では24時間365日そばに置いておきたいけど彼女には幸せになってほしい! だから誰と結婚してもいい!という内容になっています。そういうふうに、キャラクターの表面だけでなくその奥にある感情まで表現できると、リスナーが聴いた時にハッとすると思うんですね。さらにその曲が、例えばクォリティーの高いロック・バラードになっていて、キャラソンなのになぜかすごく感動しちゃうと思わせられたら僕ら的には勝ちかなと。感動するとか、おもしろいとか、曲を聴いて何かひとつ心に残せればいいなと思って作っていますね」

――実際に作詞/作曲をするクリエイターの方々にはそのあたりの細かいディレクションをして取り掛かってもらうと。

三上「どこまで各クリエイターの皆さんに(方向性を)お伝えするかというと、作詞家さんには原作や脚本をもちろん読んでいただいて、キャラクターのこういう部分をこういう形で詞にしたい、ということは伝えますが、そこから先、どのようにそのテーマを噛み砕いて詞を書くかというのは作家さんの感性に任せています。楽曲に関しても方向性は示すんですね。例えば、昔に流行った曲を現代的なこういうアレンジにしてほしいとか、ある曲を引き合いに出して、この楽曲のこういうところを参考にしてください、というふうにお願いしています。僕らはキャラソンにオリジナリティーを追い求めるつもりは特になくて、キャラクター性とサウンドと歌詞とが上手く合わさった時に最大限の効果を発揮するような方向に持っていきたいので、発注する際はそのことを意識してプロデュースしなければと思っています」

――なるほど。ただ奇を衒った音楽を求めているわけではなく、あくまで〈キャラクター・ソングとしておもしろい〉ものを、ということが前提ということですよね。

三上「まず〈わかりやすさ〉に重点を置いています。聴いたことがない音楽ではなく、馴染みやすい曲であってほしい。でも、キャラソンは声優さんが歌うものなので、いま言った要素をすべて満たしていたとしてもキーが高すぎて歌えないとか、歌えたとしてもファルセットになるとそのキャラクターの声じゃなくなってしまう、なんてこともあったりして。そこがいちばん難しいですね、音楽としてのクリエイティヴィティーを取るか、キャラクターの忠実性を取るか。いまだに僕のなかでは正解が出ていないんですが、そのなかでもいちばんベストなもの……ベターなものになるかもしれませんが、それを現場でジャッジしていくことが多いです。声優さんの演じているキャラクターの声は歌うためにあるのではなく、お芝居をするためにあるものなので、どうしてもそういうことが起こりますね」

――実際にその場ではどういった対応をするんですか?

三上「ディレクターや僕らの経験則で、本来の曲のイメージからは少し変わってしまうけどピッチを下げることで成立することもあるし、がんばって歌ってもらったほうが良かったりする場合もあるし。要はサウンドや歌唱、歌詞などを合わせたトータルで魅力的に見えるかが肝なので、一概にどちらが良いとは言えないんです。やっぱりファンの方からはたまに〈これ、キャラクターの声じゃないね〉と言われることもあるんですけど、同じ声優さんが出している声なので、そこを僕らがどう上手く良いところに落ち着けるかというのがポイントになってくるのではないかと」

樋口翔(TOWERanime新宿)「いや~……長年の疑問が解けました。なぜキャラソンが好きであるにもかかわらず、興冷めしてしまう瞬間があるんだろうと思っていたので」

三上「でも声がキャラっぽくないと思われても、サウンドや歌詞といった他の部分で補完できれば、そのキャラが歌っているように聴こえたりもするんですよ、意外と。ちょっとこのキャラとは違うな……と思っていても案外いい曲だったり、いい歌詞だったりすると受け入れられたりするじゃないですか。そうすると不思議なもので、人間の脳みそはどんどん変換してくれるんですよね(笑)」


キャラクター・ソングは、そのキャラの名刺になるようなものにしたい

樋口「いまの流れで言うと、『干物妹! うまるちゃん』の“トトファンタジア”がそうだったんですけど、あれは(本場)切絵ちゃんのイメージからはだいぶ離れた曲だと思うんですが、僕はすごく納得して愛聴していて。それはおっしゃっていたように、歌詞などいろいろな要素を含めてバランスが取れているから納得できたのかなと」

“トトファンタジア”は2曲目
 

三上「そうですね。切絵ちゃんの曲は声だけでキャラクターを出すことが難しかったんですよね。ぼそぼそ喋っていたり、アワアワしている感じなので。歌となるとアワアワできないじゃないですか(笑)。なので、この場合は歌詞で表現する内面性で補強しました。“My Precious”は初めてプールでうまるちゃんを見て抱いた憧れがテーマになっていますし、“トトファンタジア”は原作者のサンカクヘッド先生に確認を取ったうえで、原作にもある、彼女が昔描いてた絵本のモチーフをちょっと深堀りして作っています。基本的にキャラクター・ソングというのは、アニメを好きになって、さらに原作も読んで登場キャラを好きになった方が聴いているものなんですよね。僕らもそういう人たちに向けて曲を作っているので、その人たちに〈こいつわかってるな〉と思ってほしいんですよ(笑)。なので切絵ちゃんの曲も、原作を読んでいる人にとってスルメ曲であってほしくて作りました」

樋口「そうなんですよね~。もう全曲訊いていきたいくらいなんですけど(笑)、もう1曲、海老名(菜々)ちゃんの方言を活かしたキャラソンについて。あれは結構衝撃的で、海老名ちゃんのキャラソンといったら、ゆったりとしたバラードにしそうなイメージですが、実際はスタイリッシュなポップスになっていますよね。あの方言もいい感じに活かされていますし。そこに至った理由を訊いてみたいです」

 

三上「“sweet sweet everytime sweet”がフレンチ・ポップ、“そいだばね”がボサノヴァですね。彼女の雰囲気が出ていて、尚且つみんなが歌って楽しくなるジャンルは何かなと探したんです。〈うまるちゃん〉には4人のキャラがいるから、それぞれの曲調が被らないようにすることも踏まえて、海老名ちゃんの場合はちょっとハネたリズムのもので、そんなにテンポの速くないジャンルを選んだんです。で、さらに巨乳だったり、海老名菜々という名前だったり、秋田出身でたまに方言が出たりするところや、うまるのお兄ちゃんのことが好きといったキャラクター性を噛み砕いて、どこを曲のコンセプトとしてフィーチャーしていくかを決めていきました。“そいだばね”は、〈関西や福岡の女の子が話す方言が可愛い〉という話をしていて、じゃあ秋田弁も可愛いんじゃない?ということで、たまに出る彼女の方言をフィーチャーして歌詞を秋田弁にしてもらったんです。でも、最初にあがってきたものはあまりにも秋田弁すぎて、元の意味がなんだかわからなかった(笑)」

――本気度が高すぎたんですね(笑)。

三上「それで徐々に元に戻していったんですよ。でもレコーディングしてみたら、やっぱり秋田弁が可愛いかったのでまた増やしていって、あの形になりました」

樋口「僕の周りにはこの曲をきっかけに〈うまるちゃん〉に入った人がいました。やっぱりキャラクターに対する真摯な姿勢が音楽に表れていると、コンテンツそのものへの興味に繋がるということがやっぱりあるんですよね。ちなみにシルフィン(橘・シルフィンフォード)のキャラソンは、僕の2015年のベスト・シングル1位として発表させてもらったんですけど……」

三上「あ、そうだったんですね!」

樋口「あの曲がなければ〈うまるちゃん〉にそこまでのめり込まなかったと思うんです。僕は原作を読んでいなくてアニメから入ったので、出番の少なかったシルフィンはキャラが掴みづらかったんですよね。でもあの曲を聴くと、彼女のことを知らなくてもいいキャラだなと思うだろうし、名刺としてある程度成立している」

三上「いま、すごく良いことを言っていただいたんですが、キャラソンでは名刺になるくらいそのキャラを表わしたいなというのはあります。1枚のCDでキャラ紹介というか、その人がわかるように、というのは結構意識していますね」

樋口「それに、各キャラクターで2曲ずつがっつり作っているキャラソンって、普通ないんですよ! わりと1曲をさまざまなヴァージョンにリメイクするというパターンが多くて。でもTOHO animation RECORDSさんは手抜きが一切ない」

三上「ハードル上がるな~(笑)!」

一同「ハハハハハ(笑)!」

樋口「あと、音楽自体からは少しズレちゃうんですが、CDショップのスタッフとしてはCDそのものを手に取る楽しさともやっぱり伝えたくて。そういう意味で『モンスター娘のいる日常』のキャラクター・ソングCDの歌詞カードが……」

三上「あれは僕ともう一人のパッケージ担当者とで作っていて。あれをやろうと思ったのは、『モンスター娘のいる日常』は男性主人公が1人で、それ以外は女の子なんですよね。それもすべてモンスターで、上半身はヒトで下半身は蛇や馬だったりする。これまでにない〈ハーレム・アニメ〉。CDジャケットでキャラクターの顔を見せようとするとバストアップになりますが、このアニメの場合はそれだとキャラ性がわからないんですよね。それで全身を見せようとしてイラストを引くと小さくなっちゃって魅力がわかりづらくなる。じゃあどうやったら上手く見せられるかと考えたところ、ボディー全体がわかる大きいジャケットを4つ折りにして封入しようと。なので、表のCDサイズのジャケットではモンスターの全身は見えないんだけど、CDを買ってジャケットを広げると彼女たちの本当の姿を見ることできる。そうやってグッズ性を高めようと思ったんです」

『「モンスター娘のいる日常」キャラクターソング Vol.1 ミーア』ジャケット
 

樋口「そんなところまで考えられていたとは! もちろん音楽のほうも凄くて、なかでもゆよゆっぺさんがDJ'TEKINA//SOMETHING名義で書いているパピのキャラソン“PAPISM”がキャラクター・ソングの域を超えているんですよ!」

三上「“PAPISM”は日本でも海外でも多く聴いていただいているんですよね。『モンスター娘のいる日常』のキャラソンはすべてTOKYO LOGICというプロダクションと一緒に作っていて、そこに所属されているネット系出身のプロデューサーの人たちに作ってもらっていました。各曲のコンセプトをTOKYO LOGICのディレクターさんと話し合いながらやっていくなかで、パピだけはEDMにするかどうかですごく悩んだんです。EDMは海外で流行っていますし、日本でも人気ではあるんですが、長くアニメーションが好きな人たちにそういう楽曲が受け入れられるのかなと思ったんですよね。でもTOKYO LOGICのディレクターさんに、〈こういう曲は聴いていて絶対楽しいからやろうよ!〉と言われてチャレンジしました。よくよく考えるとすごくコンセプチュアルな曲になっているんですよ。パピは〈ハーピー族〉のモンスター娘で、鳥なんです。鳥なので、地面に着いて3歩歩くといろいろ忘れるっていう(笑)」

樋口「頭が空っぽで元気が良い子なんですよ」

三上「頭を空っぽにして楽しめる音楽はなんだ? EDMだっ!!って(笑)。それでいいのか?と思いながらだったんですけど、結果、的を得た曲に出来ましたね」

樋口「キャラクターのイメージから全然乖離してない」

三上「〈モンスター娘〉のキャラソンに関しては、ひとつのキャラクターで曲調を切り分けないように作っていて、なるべく統一感のある2曲をスルッと聴ける形で作ったんです」

樋口「全曲楽しかったですね。ミーアの“キスミーだぁりん♡”なんかは1曲のなかで全然違う展開を見せるんですけど、そこがミーアのパッと見で受ける印象だけじゃない性質を音楽で斬り込んでいるのかなと」

三上「曲の細かいアレンジに関して、僕らは細かくディレクションできないんですよね。だからコンセプトを伝えつつも、そのなかで作家さんが自由にクリエイティヴィティーを発揮できる余地を残したいんです。だからスタッフィングをする際に、こちら側でこの作家さんならこういうことをやれるんじゃないかとか、そういう目利き的な部分が重要になってくると思います」

 

いま力を入れている新プロジェクト、(K)NoW_NAMEの独自性

――まさに人選が肝ということですよね。でも、実際に曲を作るわけではないにしても、やっぱりディレクションをするにあたって参考曲を提示したりするわけですし、三上さん自身もさまざまな音楽をインプットしておく必要がありますよね? 普段はどのように音楽を聴いているんですか?

三上「実はですね、これを言うと他の音楽プロデューサーから〈えっ!?〉って思われるかもしれないんですけど、僕が音楽のプロデューサーの仕事を始めてから、趣味で音楽を聴くことはほぼないんですよね。基本的にいろんなジャンルを聴いているし、知ってはいるんですけど、何かをヘヴィー・ローテーションして聴くことがほぼなくて。普段聴いている曲も好んで聴いているものはほとんどないに等しい。自分でも大丈夫なのかな?って最近思うんですけど……」

――つまり音楽を知るために聴いている、みたいな感じ?

三上「そうですね。いまは(担当する作品)数が多いので、毎回楽曲を作るたびに、YouTubeを観たり、CDをいろいろ借りてくるんです。でも僕一人で思いつくことは限られるので、ディレクターや一緒にやるアニメのプロデューサーに、〈こういうコンセプトの、こういうジャンルで行こうと思うんだけど、もっと良い(参考)曲ある?〉と訊いてレコメンドをもらったりして。キャラソンでも活かせる、商業的に生きている音楽ジャンルを探しています」

――やっぱりトレンドもしっかり踏まえて?

三上「いま人気のある曲、例えば三代目J Soul Brothersの曲はなぜ流行っているんだろうか?と思って聴くわけですよ。それがアニメーションに活かせるか考えたり。自分の(好きな)曲を聴いてるよりは、仕事用に探している時のほうがいまは多いかもしれないですね。たまにそのなかで自分の趣味だなと思う曲をひっそりとiTunesで聴くんですけど(笑)」

三代目J Soul Brothersの2016年の楽曲“MUGEN ROAD”
 

樋口「僕は逆に自分の好きなジャンルにこだわっちゃうほうなんで、僕がキャラソンをプロデュースするとなると、三上さんより幅が狭くなっちゃいそうですね」

三上「サウンド・プロデューサーではないので、自分のカラーを強く押し出す必要はないんです。〈この音楽はこうだ〉〈これがベストだ〉と思っちゃうと幅を狭めちゃったりするので、ある意味、音楽に対して無趣味でいることが必要というか。僕、音楽がすごく好きでこの仕事を始めたんですけど、もし音楽が好きでこの仕事をしたいと思っている人がいるならば、〈音楽は趣味じゃなくなる〉ということはお伝えしたい(笑)。でも楽しいですよ。仕事として楽しんでやっているので、僕には合っているなと思います」

樋口「三上さんプロデュースの作品は、〈こんなジャンルでやっちゃうんだ!〉という尖った感じはあるんですけど、キャラとの乖離がないというのがおもしろいところなんですよね」

三上「ありがとうございます、そこは意識しています」

――やはりキャラクター性を重視しながらも、クォリティーやクリエイティヴィティーの面で音楽が好きな人も納得できる作品、そのバランスがすごく良いということですよね。

三上「音楽商品として聴いてもらううえで、何があっても超えなきゃならないラインはありますよね。キャラソンだから、グッズだからそこまでクォリティーを求めなくてもいいというわけではないと思っています。アニメの作品性、キャラクター性と高い音楽性は共存できる。そこを明確に求めていくという感じですかね」

――なるほど。そんななかで2016年に入ってさらにおもしろい作品を打ち出されているんですよね!

三上「今年もキャラクター・ソングなどいろいろと取り組んでいるのですが、そのなかでもアーティスト作品に力を入れていきたいと思っているんです。今年の1月〜3月に放送された『灰と幻想のグリムガル』という〈異世界ファンタジー〉と言われている作品では、オープニング/エンディング・テーマから劇伴まで総合的にプロデュースする(K)NoW_NAMEというプロジェクトを立ち上げました。これまで一人の方がトータルで手掛けている作品はあるんですが、(K)NoW_NAMEは『灰と幻想のグリムガル』に留まらず、今後もいろいろな作品をプロデュースしていけたらと思っています」

※(K)NoW_NAMEのオフィシャルサイトはこちら

(K)NoW_NAMEによる「灰と幻想のグリムガル」の第1話挿入歌“Head Wind”。

※各話でそれぞれ異なる挿入歌が付けられているというスゴさ……。各話の挿入歌はこちらをチェック

――やはりトータルで同じプロジェクトで手掛けたほうが、アニメの世界観に統一性がより強固になりますよね。

樋口「やっぱりオープニングやエンディング曲はアーティストのタイアップ曲で、劇伴と雰囲気が全然違うというパターンがTVシリーズでは多いですから」

三上「そうですね。また最近のTVアニメーションだと、特に劇伴に関しては〈このアニメにはこういった音楽が必要です〉というメニューをあらかじめもらって、そのコンセプトに合わせてだいたい30曲~40曲程度劇伴を作っていき、それを音響監督が本編の合うところにはめていく――という流れが基本なんです。一方、劇場版になると公開までに時間があるので、本編のアニメーションが出来上がった後に、フィルム・スコアリングという出来上がった映像に合わせて音楽を作っていく作業をするんですが、やっぱり映像音楽はこちらのスタイルが好ましいと思っています。本編との親和性も図れるし、より映像にマッチした音楽を作れるので。でもTVシリーズはスケジュールに余裕がないので、そのスタイルで音楽を付けることができないこと多いんです。ただ、『灰と幻想のグリムガル』ではなんとかその中間を取れないかと思ってチャレンジしました」

「灰と幻想のグリムガル」エピソード1~4のダイジェスト映像
 

――極力、映像に寄り添った作り方にしていくと。

三上「『灰と幻想のグリムガル』では、監督(音響監督兼務)からシーンごとに〈このシーンは何分くらいだから、何分くらいの音楽がほしい〉という指示を事前にもらうんです。例えば脚本のP4~P6までが2分30秒とすると、監督のなかではそれがどれくらいのスピードでシーンが動くかが頭にある。その流れ――どこでカットが変わって、ここまではこの楽曲のテーマを提示するイントロダクションです。ここから一段階盛り上がって、次はここまで行きます。そこまでがだいたい50秒くらい――という展開をもらって、それに合わせて曲を作っていくんです。これをやっている最中は上手くいくかどうかはわからない(笑)。つまりフィルムはないけど、後で上がるフィルムにフィルム・スコアリングしようとしている作品だったんです」

(K)NoW_NAME TVアニメ 灰と幻想のグリムガル CD-BOX 『Grimgar, Ashes And Illusions "BEST"』 TOHO animation(2016)

――そこまでは〈想定〉で進んでいくということですね。

三上「監督の想像力もそうですけど、こちら側の想像力も必要になってくる。なので、実際に映像が上がってきて音楽をはめてみると、バッチリはまっているところもあれば、ちょっとズレるところもある。そういうところを各話ごとにトラックダウンしていきました」

――なんだか気が遠くなる……。

三上「普通の劇伴だとすでにある音楽を映像に当てるので、(尺を合わせるために)どうしても曲をリフレインさせたり、フェイドイン/フェイドアウトしなくちゃいけないんですけど、この方法だとその必要がない」

――1曲を最初から最後まで使えるということですよね。

三上「このやり方が上手くいけば、今後こういう新しい音楽プロデュースの手法を確立できるんじゃないかなと思っています。〈(K)NoW_NAMEだったらこのアニメの音楽は安心だね〉と、どんなアニメでも思ってもらえるようにしたいですね」

(K)NoW_NAMEのライヴ映像
 

樋口「これまたすごい展開になっていますよね。なんでこんなに攻めるんですか(笑)? いやぁ、すごいな~」

三上「アニメーション作品は多くの人が関わりますし、お金もかかっているし、観る人も30分の時間が取られるということを考えると、やっぱり少しでも意味のある形にしたいと思っています。制作本数が増えるにしたがって各所スケジュールも含めて、いろいろなことの調整が難しくなっていますが、なんとかその間を取って良いものを作っていけたらと考えています。今後も作品性、キャラクター性を上手く深堀りした音楽をリリースしていければと思っていますので、期待していてください!」

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