キャラクター・ソング(キャラソン)とは、アニメやゲームなどの劇中の役柄/登場人物として声優が歌った楽曲のこと。このキャラソン市場が拡大を続 ける近年、音楽自体も大きな進化を遂げているらしい、どうやらおもしろいことになっているらしい! しかしその音楽に触れるには、実際に作品を観たりゲー ムに親しまない限り聴くことはないわけで。でもその扉を開く第一歩をなかなか踏み出せない……何から手をつければわからない……という人もいるでしょう。 そんな 貴方のために、Mikikiではキャラソンという名の〈架空のJ-Pop〉にフォーカスし、一見アニメ/ゲームとは相容れないフィールドで活躍する3名の ミュージシャンに、TOWERanime新宿のバイヤーと編集部スタッフがセレクトした1曲を自由にレヴューしてもらいます。さまざまな意味で目から鱗な発見があるかもよ!

 


 

【今月のお題】

 

青山吉能 Wake Up, Girls! Character song series 七瀬佳乃 DIVEIIentertainment(2014)

※試聴はこちら

地方を拠点に活動するアイドル、いわゆる〈ロコドル〉をフィーチャーしたアニメとして2014年に劇場版が公開、その後TVアニメとして放送された「Wake Up, Girls!」。今回は、〈七人の侍〉に由来する名前を持つ7人から成るユニット=Wake Up, Girls!のメンバーが発表した個性溢れるソロ・シングルから、七瀬佳乃(通称:よっぴー)が歌う“ステラ・ドライブ”を取り上げます。〈架空のJ-Pop考〉という本連載のお題にぴったりなのでは!と候補として温めていた1曲です。

2000年以降のアニソン・シーン随一のヒットメーカーであるクリエイター集団〈MONACA〉の田中秀和さんが手掛けた“ステラ・ドライブ”は、作曲にあたってユーミンを意識したそうで、タイトルにも窺えるカー・ステレオからヒットソングとして流れていそうなシティー感のある4つ打ちナンバー。想像力を心地良く刺激する只野菜摘さんによる90年代J-Pop調の歌詞と相まって、夜の環状線ドライヴのお供に最適なナンバーとなっています。 *樋口翔(TOWERanime新宿バイヤー)

 

★mabanua

 

今回はいわゆる〈ロコドル〉をフィーチャーしたアニメ「Wake Up, Girls!」のテーマ曲ということですが、その前に〈ロコドル〉が何かわからなかったので、調べました(笑)。〈地方を拠点に活動するいわゆるローカル・アイドル〉とのこと。ロカドルやロードルとも言われるらしいですね、なるほど……。

で、今回の“ステラ・ドライブ”ですが、ロコドルと言われつつも曲調はいたってCity派! このギャップが個人的には良かったりします。歌詞の内容も夜のドライヴを歌った90s調の率直な歌詞の内容で聴きやすいです。Aメロやギター・ソロ部のコード・アレンジなどすごく練られていて、複雑ながらもそのあとの落ちサビもすんなり繋がるなど、僕自身すごく勉強になりました。

特にAメロ~Bメロの繋がりやサビラスト2小節の締め方など、こんな繋げ方あったのか!と思うほど、自分にとってはとても新鮮なコード・アレンジです。つまりは、キャッチーさとお洒落さが同居しているうえに先ほどの90s調歌詞、それらがうまく融和していて、作者の田中秀和さんが作曲段階でユーミンを狙ったというのもうなずけるわけです。この音楽的要素と当時へのオマージュ、そして今回初耳だった(笑)、ロコドル色がバランス良く混ざり合った素晴らしい楽曲ではないでしょうか! 

 

PROFILE:mabanua


ドラマー/ビートメイカー/シンガー。Shingo Suzuki関口シンゴとのOvallとして活動する傍ら(現在活動休止中)、ソロでも活躍。リーダー作としては2012年の最新作『only the facts』を含む2作品をリリースするほか、BudaMunkとのGreen ButterU-zhaanとのコラボ、 さらにCharaGotch七尾旅人福原美穂ら多くのアーティストのプロデュースやリミックス、ツアー・サポートなどをこなす。直近では思い出野郎 Aチーム大橋トリオ、Charaの最新作、そして4月にリリースされるAwesome City Clubの初作をプロデュースした。ドラマーとしては関口シンゴのソロ作(ヴォーカルでも)、くるりや大橋トリオのツアーにサポート参加中。また、7月18日(土)に埼玉は所沢で行われる〈夏びらき2015〉に福原美穂のサポートでSWING-OShingo Suzuki、関口シンゴと共に〈origami players〉として出演する。

【参考動画】mabanuaの2012年作『only the facts』収録曲“drawing”

 

 

★西山瞳

 

キャラソン・レヴュー3回目にして、思っていたよりも普通のポップスがきたなあという感想です。 

いままで、いわゆる声優さんのキャラクター演出の強い歌を聴かせてもらいましたが、最初は面喰らうものの、聴いているうちにその非現実感が楽しいと思うようになり、むしろ脚色されているほうがその世界に没入できる感じがしました。

今回の曲は、歌のプロじゃない人がちょっと古めの歌謡曲を真正面から歌っている感じがフレッシュではあるのですが、一本調子の歌が妙にリアルで、逆に少しこそばゆい違和感を感じて、これも90年代っぽい演出なのかな?と思いました。

これまでキャラソンというものは聴いたことがなかったのですが、送られてくるお題や、それに関連するキャラソンを聴いているとだんだん慣れてきて、非現実の世界がしっかり構築されているほうが楽しく聴けるものですね。アニメを観なくても、キャラクターやストーリーの雰囲気がわかるので意外と楽しんでいる自分がいます(前回のお題〈日向美ビタースイーツ♪〉の絡みで聴いた“ちくわパフェだよ☆CKP”には、ドハマリしました)。

今回のものは、架空のキャラクターというよりは生身の人間が歌っている感が強くて、キャラソンという感じがあまりないですね。

これを書いている時に思い出したのですが、昔のアニメって必ずと言っていいほど音頭があったじゃないですか。“アラレちゃん音頭”とか“クックロビン音頭”とか。ああいうものは最近もあるのでしょうか? 昔はアニメ本編の、オープニング/エンディング・テーマに加えて音頭がセットで、いまはキャラソンがセット、という感じなんでしょうか。

【参考動画】アニメ「Dr.スランプ アラレちゃん」より“アラレちゃん音頭”

 

PROFILE:西山瞳


79年生まれのジャズ・ピアニスト。2006年にスウェーデンのミュージシャンとのトリオで録音した『Cubium』でデビュー。2008年のバンド編成での『Parallax』、2011年のトリオ作『Music In You』など作品ごとに着実に評価を高めるほか、ヴォーカリスト・東かおるとのプロジェクトやベーシストの安ヵ川大樹とのデュオ、さらにビッグバンドへの楽曲提供なども手掛ける。2014年には西山瞳trio“parallax”として最新作『Shift』をリリース。

【参考音源】西山瞳trio“parallax”の2014年作『Shift』ダイジェスト

 

 

★澤部渡(スカート)

 

これまでこの企画で聴かせていただいたどのアニソンよりも、音楽的に〈声〉を使っているのがとても印象的です。特に冒頭の四声のコーラスの部分には驚きました。憎たらしい転調を繰り返す難しい曲だし、音域も広いと思うんですが、この子には低いところも高いところもしっかりと聴かせる歌唱力があるんだろうな、と。

ソリッドさを演出するだけではない流線型のフォルムのようなギター・カッティングも耳を惹きます。ですが目立ちすぎているわけではなく、楽曲のなかでとてもよくバランスが取れているのが好感を持てます。サビになるとダンサブル/ディスコティックなシンセ・ベースはいわゆる〈ンベンベ〉のリズムをキープしながらもところどころ、上のほうに行ったり元に戻ったり忙しく動き回っていて、〈なるほど、その手があったか〉と膝を打ってしまいました。あのベース・ラインが“ステラ・ドライブ”というタイトルのキーだったりするのかな、なんて想像してしまいました。とても好きな曲でした。

 

PROFILE:スカート/澤部渡


2006年より澤部のソロ・プロジェクト=スカートとして、サポート・メンバーを迎えて活動。2010年にファースト・アルバム『エス・オー・エス』を発表後、2014年作『サイダーの庭』まで計4枚のアルバムをリリース。一方、オノマトペ大臣らと組むトーベヤンソン・ニューヨークで2013年にシングル“ロシアンブルー”を発表、また2014年のマンタ・レイ・バレエの初作にパーカッションで、Negiccoの最新作にアレンジャーとして参加するなど、幅広い活動を行っている。

【参考動画】スカートの2014年作『サイダーの庭』収録曲“すみか”

 

《お知らせ》
ここまで3回に渡ってレヴュアーとして担当してくださったmabanuaさん、西山瞳さん、スカート澤部渡さんは今回が最終回となります! 本当にありがとうございました!! 次回からはまた新たなミュージシャンの方々にキャラソンを斬っていただきますので、引き続きお楽しみに~♪

 

【番外編! 今月のお題候補たち】
残念ながらお題盤にはならなかったものの、ぜひ聴いていただきたい楽曲をTOWERanime新宿の樋口による解説付きで紹介します!

 

沼倉愛美 THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 3 02 我那覇響 コロムビア(2015)

現在の2次元アイドル・シーン隆盛の立役者的な存在である〈THE IDOLM@STER〉シリーズ発のソロ・ナンバー“Pon De Beach”。沖縄生まれでダンスが得意!というアクティヴ系アイドル、我那覇響のキュートで快活なヴォーカルと、いま〈アイマス〉コンポーザー陣でもっともヤバイ存在のひとりである井上拓さんによるトリッキーでファンキーなトラックの化学反応がとにかくおもしろい1曲です。普段J-Popを耳にする機会の多い方ほどフックになるポイントが多いのではないでしょうか?

 

 

STAR☆ANIS TVアニメ/データカードダス アイカツ! 2ndシーズンベストアルバム SHINING STAR* ランティス(2015)

本連載でお馴染みの「アイカツ!」。音楽ジャンルという概念が存在しない子供たちにこそさまざまなタイプの音楽を聴いてほしい!という制作サイドの想いから実現した、耳の肥えたリスナーをも圧倒するクォリティーのヴァラエティーに富んだ楽曲群は、シリーズ開始から3年が経ったいまでもアニソン・シーンに一石を投じ続けています。ここで紹介する“ハートのメロディー”はそんなシリーズの2年目のステージを彩ったナンバーのひとつ。Aimerやなぎなぎといったアーティストの楽曲を手掛ける、歌い手の魅力を最大限に際立たせる繊細かつダイナミックなアレンジメントに定評のある大西省吾さん(agehasprings)の手腕が存分に発揮されています。

 

VARIOUS ARTISTS プリパラ アイドルソング♪コレクション bySoLaMi SMILE&コスモ&ファルル avex pictures(2015)

 

「アイカツ!」同様に女児向けアイドル・コンテンツとなる〈プリパラ〉。積極的に外部コンポーザーを起用しており、同作キャラソン集第3弾となる↑の作品に収録の“HAPPYぱLUCKY”は2008年に開催された第1回〈閃光ライオット〉の出場者として人気を博した中村瑛彦さんのプロデュースによるもの。プリパラ・ファンの心を鷲掴みにした泣きのメロディーと緻密で繊細、職人技が光りまくりのアレンジ(特に終盤は圧巻!)はすべての音楽ファンに聴いていただきたいほど素晴らしい展開になっています。それにしてもこのドラム・ループ、凄いです……!