キャラクター・ソング(キャラソン)とは、アニメやゲームなどの劇中の役柄/登場人物として声優が歌った楽曲のこと。このキャラソン市場が拡大を続ける近年、音楽自体も大きな進化を遂げているらしい、どうやらおもしろいことになっているらしい! しかしその音楽には、実際に作品を観たりゲームに親しまない限り触れることはないわけで。でもその扉を開く第一歩をなかなか踏み出せない……何から手をつければわからない……という人もいるでしょう。 そんな貴方のために、Mikikiではキャラソンという名の〈架空のJ-Pop〉にフォーカスし、一見アニメ/ゲームとは相容れないフィールドで活躍する3名のミュージシャンに、TOWERanime新宿のバイヤーと編集部スタッフがセレクトした1曲を自由にレヴューしてもらいます。さまざまな意味で目から鱗な発見があるかもよ!
【今月のお題】
〈ツインテール〉や〈眼鏡〉などアニメ/マンガ/ゲーム業界につきものの〈属性〉。いわばフェティシズムをテーマにしたTVアニメ「俺、ツインテールになります。」は、世界を救うヒーローもその〈属性〉をエネルギー源に戦います。そんな作品のキャラクター・ソングである両A面シングル『虚無の思考時間(シークタイム・ゼロ)/恋のメガネ』。“虚無の思考時間(シークタイム・ゼロ)”は、アニメ本編では主人公たちの導き手であり、異世界からやってきた美少女(ではあるが中身は超ド級の愛すべき変態キャラ)トゥアールが、いつものハイテンションなキャラとは一味違ったアダルトでセクシーな魅力たっぷりに歌う、ビッグバンド・ジャズ・ナンバー。作曲を手掛けたのはボーカロイド使いのオリジナル曲でヒットを飛ばすNemさん。ジャズを得意とする氏のポテンシャルが存分に発揮された一曲になっています!
そして個人的にイチオシの“恋のメガネ”は、眼鏡属性を世界に広める……いや眼鏡属性で世界を支配せんとするダーク・グラスパー様の仮初の姿であるアイドル、善沙闇子の持ち歌として世界に放ったナンバー。現実のアイドルはほぼ間違いなく歌えないであろう、眼鏡への偏愛と信奉を綴った、狂気のレヴェルを越えた眼鏡へのピュアなラヴソング。こういった非現実なファクターを込めた楽曲が架空のヒットソングとして成立してしまうのもキャラソンの面白さではないでしょうか。作詞/作曲は人気ボカロPのふわりP。その手腕、二次元アイドル・ソングのファンとして、また、いち〈眼鏡スト〉として御見逸れしました! ※樋口翔(TOWERanime新宿)
★Atsuo(Boris)
「俺、ツインテールになります。」この作品はすでに最終回まで放送を終えていたので、まず一通り観てみることにする。本編を知ることによって、キャラソンの機能性、効果がはっきりするはずだ。キャラソン・レヴューを執筆する前提でアニメを観る……。文章を書くにあたっては、もちろん文章表現におけるお約束事は最低限踏まえたい、一文に同じ言葉を2度使用しないなど基本中の基本!という心構えからアニメを観はじめると、〈ツインテール〉という言葉の乱舞……。何だこのシナリオ……。日本人なら誰しも経験がある、漢字ドリルに繰り返し同じ漢字を書き続け、自分が何をやっているのか次第にわからなくなるあのゲシュタルト崩壊……。同じ行為を繰り返せば繰り返すほど、本来の意味を見失い、文章の執筆においては伝えたいことも伝わらなくなる……。〈プル天〉並にトロトロに溶けた作画崩壊回も乗り切り、全話視聴完了。お題の2曲を聴いてみる……。
主人公たちを導く、異世界からの来訪者トゥアールが歌う、怪しくアダルトな雰囲気のナンバー“虚無の思考時間(シークタイム・ゼロ)”。劇中に登場する武器名称、漢字に別読みのルビを振り、あちらの世界とこちら側の現実世界のリンクを作る、キャラソンならではの作詞法も適用されている。認識錯乱(イマジン・チャフ)、属性力(エレメーラ)、変態性(こころ)、完全解放(ブレイク・レリーズ)etc……。
もう片方の曲は、キャラソンと言っても階層が違う、劇中内のアイドル・善沙闇子の持ち曲“恋のメガネ”。作品世界内のリスナーに向けられた曲であるからして、本編アニメを知らない現実世界の方でも何のお約束事もなく聴き入ることができる。メガネのエレメーラを持つ彼女は、その曲中で〈メガネ〉という言葉を連呼し、その属性力の勢力拡大に努める。曲中に繰り返される〈メガネ〉の数は39回。アニソンでは番組名自体がサビ、もしくは曲中に歌詞として使用される様式美が存在する。第9&12話に挿入される“テイルオン!ツインテイルズ”では〈ツインテール〉が8回繰り返される。この挿入歌は渡辺宙名氏によるもので、氏の楽曲は戦隊/宇宙刑事モノを筆頭に、往年のアニソンでもタイトルが曲中に連呼される代表と言えるだろう。言葉は繰り返せば繰り返すほど、その意味性は薄れ、祈りとなり、呪詛化していく。氏の楽曲はいつも熱く、勇気という祈りに満ちていた。
ふとここまで来て、本編アニメ内で〈ツインテール〉という言葉が各話ごとに何回登場するのか気になった。本編2周目……。添付のグラフを参照されたし(Wikiの各話リストの表、シナリオ、絵コンテ、作画監督の欄と照らし合わせていただくのも一興かと)。
20分という尺のなかで同じ言葉を繰り返すことは、単調さ、意味や物語性の損失を生むリスクを感じる。だが実際に受けた印象は真逆だった。あくまで個人の実感値で恐縮なのだが〈ツインテール〉という発言数が多い話ほど、話の盛り上がり、密度、クォリティーも高かったように思う。本編を視聴された方であれば同意していただけるだろう。と、ここまできて、すべて数えないと気が済まなくなっていたわけです、〈ツインテール〉の回数を。
“ギミー!レボリューション” OP×0回
“ツインテール・ドリーマー!” ED×1回
“レッドブレイバー” テイルレッド・キャラソン×16回
“ブルー・エモーション” テイルブルー・キャラソン×2回
“JUDGEMENT OF YELLOW” テイルイエロー・キャラソン×5回
ま・さ・か!のOP曲が0回、そして今課題曲“虚無の思考時間(シークタイム・ゼロ)”も0回……。ここでふと気付いたのは、この2曲を歌うのはトゥアール。彼女は本編にて元来持っていた〈ツインテール属性〉を主人公に託します。その際自身が写る過去の写真でさえもツインテール姿は消え去るという〈ツインテールとの断絶〉が描かれました。
さらに彼女はキャラソンでも〈ツインテール〉と歌うことが許されなかった……。
作品世界の隅々に行き渡るこの構造の美しさ、無慈悲さに戦慄を覚えたと共に、トゥアールが背負う物語の重さも感じさせるという、今課題曲2曲のコントラストでした。
PROFILE:Atsuo
92年より活動する3人組ロック・バンド、Borisのドラマー。ほぼすべて自身で録音する断続的なスタジオ・セッションを通じ、限定アイテムやUSビルボード・チャートにランクインする作品を発表。毎年行っている海外ツアーに加え、ナイン・インチ・ネイルズのUSアリーナ・ツアーのサポートや数々のコラボレーション、映画「リミッツ・オブ・コントロール」(2009年)や「告白」(2010年)への楽曲提供など、国内外で幅広く活躍。2014年に最新作『NOISE』をリリース、現在もワールド・ツアー〈Live Noise Alive〉を続行中。また、ニコニコ生放送で配信中のアニメ「ニンジャスレイヤーフロムアニメイション」では第1話のエンディング・テーマとして“キルミスター”を提供。同曲はiTunes配信のほか、7月22日にリリースされる『ニンジャスレイヤー フロムコンピレーション「忍」』に収録。9月22日にはイヴェント〈leave them all behind 2015〉に出演。
★AZUMA HITOMI
今月も〈キャラソン〉の時間がやってきました! AZUMA HITOMIです。
きょうは梅雨の晴れ間の蒸し暑さがキツい1日でしたが、キャラソンだって蒸し暑さでは負けていませんよね。先月のこのコーナーで初めてキャラソンを聴き、浮かんだワードは〈エモい〉、そして〈アツい〉。もちろん、アツいと言っても決して地中海沿岸のカラっとした暑さではなく、あくまでニッポンの〈蒸し暑さ〉です。今回もさぞ湯気の出るエモさのキャラソンが登場するに違いないぞと意気込みながら、クーラーの下で1曲目“虚無の思考時間”の再生ボタンを押したところ……。
ジャズ!? !?
jazz!? !?
そうです、またもや予想を裏切られました。ピアノのコードのリフで始まり、クラシック・ギターがさりげなく絡んできたかと思えば、カラっとしたスネアのフィルで一気にスウィング開始! 〈ラッタッタ パヤッパッパ~♪〉と愉しげに、まるでステージでショウが始まったかのような豪華なテーマが続きます。と、驚いているうちに、艶やかなヴォーカルが入ってきましたよ。これまでの、〈どっからそんな声を出しているんだろう?〉というような、いわゆるキャラクターの声のヴォーカルとはあきらかに違いますね。とてもステキな歌声です。ここでタイトルが気になりました。“虚無の思考時間”とは? アニメの世界観とリンクしているタイトルなのでしょうか? 詳しくはわかりませんが、切実な恋心をセクシーに紡いでゆく歌なのだということはよくわかりました。が、このままでは終わりませんよね。2分15秒から突如、〈脱ぎたての制服の匂いとぬくもり……〉という情感たっぷりのセリフが入ってきました。ああ! これはキャラソンなのだった、とわれに返ると同時に、〈待ってましたーー!〉とワクワクする私がいます。このセリフ部分の秀逸さは実際に聴いていただければわかると思いますが、ここを経てからの後半はグッとヴォーカルのキャラが聴き手に迫ってきて、歌声から熱情をいっそう感じ取れるようになります。
残りの1分はそのまま勢いを増して、半音上げのサビも炸裂、ふたたび〈ラッタッタ パヤッパッパ~♪〉へ無事着陸して終わります。が、この〈ラッタッタ〉が頭の〈ラッタッタ〉と少し雰囲気が違いますね。どことなく一方的(かどうかはわかりませんが)な恋心に、開き直っているようなニュアンスが感じられます。頭とはキーが違うので、そのままコピペできないのはもちろんですが、こういう細かいところの表現がいいなあと思いました。曲の長さも4分強で、とても聴きやすいですね。例えば夕方の子供向けアニメのエンディングに使われていても違和感がないのではないかと思いました。素敵です。
さて、予想に反してカラっと暑く、しかし最終的にはメラメラと熱くなったところで、2曲目にいきましょう。その名も“恋のメガネ”です! いや~タイトルのシンプルさが逆に勝負に出ている感じですね。おそらく数多くあるであろう〈メガネ萌え〉をテーマにした歌。直球勝負です! 出だしから〈メガネ〉コールが絶好調ですよ。この曲はものすごくポップに作り込まれている印象でした。Aメロでは掛け声があり、Bメロはリズムが〈たーん、た、たん!〉となっているのでノリやすい。そしてサビで華麗に転調しています。アイドルの現場に詳しい友人に聴かせたら即オタ芸を打ってくれそうです。わたしがこの曲で気に入っているポイントのひとつ目は、スネアの音がシモンズっぽいところ! 2拍4拍で打っているところもサビで4拍全部打っているところも、この音が弾けることでワクワクの度数が上がります。2つ目は、シンセの高速シーケンスと鐘の音の絡みがYUKIさんの“長い夢”を連想させるところです。とてもキラキラしていて、テンポの速さが活きています。
そして3つ目は、3分30秒からの劇的な転調です。最後のサビへのヴォルテージが上がり、サビへの着地で感動すら覚えました。わずか4分20秒程度の長さでこれだけドラマチックに、飽きさせない展開をさせているというのがすごいです。この曲好きです! 偶然にもわたしもメガネが好きだし、良い出会いでした!
それでは来月もおたのしみにー!
PROFILE:AZUMA HITOMI
88年、東京生まれのシンガー・ソングライター。大学進学後、ライヴを中心とした音楽活動を本格的に開始し、2010年にMaltineより“無人島”を発表。2011年にTVアニメ「フラクタル」のオープニング曲“ハリネズミ”でメジャー・デビュー。2013年の初フル作『フォトン』では初回限定盤にbanvoxやさよならポニーテール、Galileo Galileiらが参加したリミックス集も同梱して話題に。2014年には最新作『CHIRALITY』をリリースしたほか、矢野顕子『飛ばしていくよ』に楽曲提供&矢野とのステージ共演、Buffalo Daughterの大野由美子らとのユニット=シンセサイザー・カルテットでアルバム『Hello Wendy!』を配信で発表するなど、幅広く活動中。7月19日(日)には東京・渋谷Gladにて〈サワソニ Vol.12〉、8月24日(月)には東京・渋谷LOOP ANNEXにて〈MUSIC HOURS〉に出演予定。詳しくはこちらへ!
★夏目知幸(シャムキャッツ)
“虚無の思考時間”、タイトルやばいですね。とんでもない悪夢的状況に置かれているのか、もしくはそーとー酔っ払っているか。もしくは何らかのドラッグで持って行かれてしまっているのかって感じがします。聴くとやっぱりそんなような世界観でした。槇原敬之でいうと“Hungry Spider”を思い出します。好きです、この曲。好きなものをもっと自分好みに寄せてみたいという欲求からいろいろ妄想してみました。
音数を減らして、生のバンドで録音したらもっと僕好みでした。仮想EGO-WRAPPIN’というアプローチ。アニメに合うかどうかは別ですが。バンドでやることの良さは、悪夢からバンドだけが現実世界に飛び出てきてしまった感じが出せるから効果的かなと。
打ち込みでやるんだとしても、もっとサイケな音色を選んで世界観をベト~っとさせたほうがおもしろかったのかなあと思えてきました。宇多田ヒカルの“traveling”とか“SAKURAドロップス”みたいな。
そして“恋のメガネ”は、普段自分が趣味で聴いている音楽との距離がありすぎて聴けなかったです。疲れてしまうというか、パチンコ屋にいるような気分になってしまいました。この曲を聴いて、これを書いているのが朝だからっていうのもあるとは思いますけど、数秒で〈ああ、もうだめだ……〉となってしまいました。ごめんなさい。
PROFILE:夏目知幸
2009年にアルバム『はしけ』でCDデビューしたシャムキャッツのヴォーカル/ギター。自主制作のCD-R作品群やシングル2曲を発表後、2011年にミニ作『GUM』を、翌2012年にフル作『たからじま』、さらにライヴ会場限定発売のスタジオ・ライヴ音源なども含めてコンスタントにリリースを重ねる。2013年にはTurntable Filmsとのスプリット12インチ・シングル“シャムキャッツ×Turntable Films”を発表。ディアフーフやマック・デマルコなど海外アーティストとの共演も精力的に行う。2015年には前作『AFTER HOURS』の〈その後〉を描いた最新ミニ・アルバム『TAKE CARE』をリリースしている。7月19日(日)に茨城は〈GBF '15(つくばロックフェス)〉、7月20日(月・祝)に東京・渋谷TSUTAYA O-nestで行われるnever young beachのリリース・パーティーなどに出演予定。詳しくはこちらをチェック!
【番外編! 今月のお題候補たち】
残念ながらお題盤にはならなかったものの、ぜひ聴いていただきたい楽曲をTOWERanime新宿の樋口による解説付きで紹介します!
★宮本るり(CV:内山夕実)“通り雨drop”
TVアニメ「ニセコイ」第10話EDテーマソング
雨粒の音色をサンプリングしたエレクトロニカ調のトラックにるりちゃんの気怠げながらキュートなヴォーカルがふわりと染み込んだ、雨の日に聴きたくなる名曲です。サビでの開放感はまさに通り雨後の晴れ空を思わせるようで、とてもドラマティックかつ映像を喚起する仕上がり。泉まくらやCharaを彷彿とさせる内山夕実さんの歌声も楽曲とマッチしていて素晴らしいですね!
TVアニメ「日常」のキャラソン“麻衣の涙の南無阿弥陀仏”は、カヒミ・カリィっぽさ漂うオシャレなトラックに、水上麻衣ちゃんのハスキー・ヴォイスが……だがしかし、歌詞はまったくもって理解不能の呪文のような文言が延々と続く――いわばタイトルよろしく〈お経〉。
本シングルのカップリング曲“麻衣のカカカタ☆カタオモイ-梵”は、ヒットした同アニメのOPテーマ“ヒャダインのカタタタカタオモイ”を麻衣ちゃんが原曲のメロディーは完全無視で勝手に歌い上げ、時に歌うのを止め、時に受付に電話をして玄米茶(玄米抜き)をオーダーし、最終的には店員(CV:ヒャダイン)とデュエットするという、トンデモかつとびきりおもしろい構成のカヴァーを披露しています。こちらも必聴!