キャラクター・ソング(キャラソン)とは、アニメやゲームなどの劇中の役柄/登場人物として声優が歌った楽曲のこと。このキャラソン市場が拡大を続ける近年、音楽自体も大きな進化を遂げているらしい、どうやらおもしろいことになっているらしい! しかしその音楽には、実際に作品を観たりゲームに親しまない限り触れることはないわけで。でもその扉を開く第一歩をなかなか踏み出せない……何から手をつければ良いのかわからない……という人もいるでしょう。 そんな貴方のために、Mikikiではキャラソンという名の〈架空のJ-Pop〉にフォーカスし、一見アニメ/ゲームとは相容れないフィールドで活躍する 3名のミュージシャンに、TOWERanime新宿のバイヤーと編集部スタッフがセレクトした1曲を自由にレヴューしてもらいます。さまざまな意味で目から鱗な発見があるかもよ!
そして今回で、レヴュアーを務めてくださったSWING-Oさん、キノコホテルのマリアンヌ東雲さん、ミツメの川辺素さんは最後になります! ありがとうございました!!
【今月のお題】
大ヒット中の劇場アニメ「心が叫びたがってるんだ。」(通称:ここさけ)は、クラムボンのミトさんが音楽を担当している、いわゆる〈ミュージカルもの〉の要素を持った、切なくも清々しくて感動的な青春映画です。アニメ・キャラクターたちによるミュージカルは、ディズニー映画をはじめ、界隈ではスタンダードなジャンルなのですが、〈ここさけ〉におけるミュージカルは極めて機能的。普通に存在する学生たちがクラスの出し物としてオリジナルのミュージカルをやることになり、時間もない、オリジナル曲を書けるコンポーザーもいないという状況のなかで、主人公の一人である坂上拓実が父の影響で聴いていた映画音楽やクラシック音楽から脚本に合った楽曲のフレーズを引用して音楽を作り上げる――という極めてメタな構造になっています。
この時点で相当おもしろいのですが、今回レヴューしてもらう“心が叫びだす ~あなたの名前呼ぶよ”は、なかでも音階も印象もまったく異なる2つの楽曲(どちらもミュージカル&クラシック音楽の大名曲!)を混成したナンバー。本編ではキャラクターたちの心情や強い想いにリンクして同曲が作り上げられ(制作の過程もしっかり描かれます)、クライマックスで歌われるわけでして、盛り上がらないはずがありません。この一連の過程を楽しむ映画なので、本編を観ずに出来上がった楽曲を聴くのは邪道かもしれませんが、ミトさんが手掛けたミュージカル映画ものとして作品に興味を持つのも、いち音楽ファンとしてアリなのでは……という観点から、今回セレクトしました。 *樋口翔(TOWERanime新宿)
★SWING-O
ふだんゲームをしない、アニメも観ない自分ですが、音楽家/音楽マニア目線で解説を試みようと思うPt.3&最終回です。
通称〈ここさけ〉――これももちろん存じ上げない作品ではあったが、RHYMESTER・宇多丸氏のラジオ番組「ウィークエンド・シャッフル」で10月頃に評論されていたので、かろうじて聞き覚えがあった。一方ミト・クラムボン氏はもちろん知っている&呑んだことも確かある。そして彼の音楽性は〈音質的〉でおもしろいなぁと以前から思っていたわけだが、気付くとキャリア20年にして、ついにポップ・フィールドで引っ張りだこになっていて驚きだ。クラムボンとしても先日、20周年記念の日本武道館ライヴを満員にして大成功させたのも記憶に新しい。
そして今回だが、まずこのミュージカル・アニメの設定がおもしろい、というか〈うまい〉。ミュージカルをするにあたり、オリジナル曲を書ける仲間がいないがゆえ、既存の音楽から引用して1曲に作り上げることにした、という設定。そしてこの課題曲“心が叫びだす ~あなたの名前呼ぶよ”は「オズの魔法使い」から“Over The Rainbow”とベートーベン〈悲愴〉を組み合わせたもの。うん、自然に2つの曲を絡ませて、伝えたい歌詞を乗せていく――それが自然に成功していて、ストーリー設定からしてもこれは感動できるであろうことがわかる仕上がりだ。ほか、〈ここさけ〉のサントラにはガーシュインの"Summertime"やコール・ポーターによる映画「80日間世界一周」の曲やら、いろんな聴き覚えのある古い名曲の日本語カヴァーが散りばめられている。ミト氏のアレンジも、氏の持つ変態性こそ封印しているが、シンプルでセンスのあるまとめ方をしていて流石な感じだ。
ただ1つポイントを挙げるならば、それらすべてがいわゆるPD楽曲、つまり作者の死後50年以上が経っていて、著作権フリーになっているナンバーだということだ。冷静に考えるならば、高校生が学校内でやるミュージカルなのであれば、〈既存の有名曲からメロディーを借りる〉のであれば、選曲がもっとポップなものも混ざるべきではないか? AKB48なりEXILEなり、他のアニソンなりの替え歌が混じってるくらいのほうがリアリティーがありはしないだろうか? もちろん主人公の1人が〈父親の影響で映画音楽やクラシック好き〉という設定になってることで辻褄を合わせてはいるけれど、個人的には……
〈なぜ高校生が著作権を気にして音楽をやらねばいけないのか?〉
という点が目についてしまった。
心を閉ざした高校生が音楽と接して、ミュージカルを演じていくうちに救われていくというストーリーは素晴らしいし、音楽の持つ〈力〉を素敵なドラマに織り込んでいると言えよう。感動する人が多数いるのもわかる。ただその裏に、こうした大人の事情を作品中に織り込まなければならないというのは、今日の音楽の〈弱さ〉を図らずも提示してしまっている。
一体、音楽は誰のものなんだろう???
SWING-Oでした。
PROFILE:SWING-O
キーボーディスト/プロデューサー/トラックメイカー。izanami、JAMNUTSでの活動を経てソロでのキャリアをスタート。2008年には48名義でステフ・ポケッツらを招いた『Hello Friends』、翌2009年の『THE REVENGE OF SOUL』と自身のアルバムをリリースするほか、レーベルメイトのmabanuaやShingo Suzuki、渥美幸裕と共にアートと音楽を融合したソングブックを毎月発表するプロジェクト〈laidbook〉を始め、各所で話題となる。さらに2011年には竹内朋康や椎名純平らとソウル・バンドのDezille Brothersを結成して『だしの取り方』を、2013年には金佑龍とのコラボ・ユニット=キムウリョンと45trioでセルフ・タイトル作をリリース。また自身の活動と並行して、CharaやZeebra、RHYMESTER、KREVA、福原美穂、防弾少年団などなど多数のアーティストへの楽曲提供/プロデュース、さらにサポート・キーボーディストもこなしている。先日リリースされたCOMA-CHIのシングル“always”のプロデュース、土屋アンナのカヴァー・アルバム『NAKE'd ~Soul Issue~』のために結成されたスペシャル・バンド=ANNA TSUCHIYA & THE GROOBEESの一員として参加している。そのほか最新情報はこちらへ。
★マリアンヌ東雲
ご無沙汰しております。年の瀬だと云うのに外飲みできてしまう異常気象に笑いが止まらないマリアンヌ東雲でございます。
今月のお題も例によって存じ上げなかったワタクシですが、今回の楽曲(タイトルが一昔前のビー●ング並に長い)は言うまでもなくミュージカル曲〈虹の彼方に〉とベートーヴェン〈悲愴〉の合わせ技をやってのけており、編曲の所為もあってか何だかクリスマス・ソングのようにも聴こえますね。(嗚呼厭だ、またこの忌々しい季節がやって来た)映画のクライマックスのシーンでここぞとばかりに流れるのだとか。ストーリーがイコールこの楽曲の成り立ちとなっているそうで、これぞまさにカタルシス。鳴り止まぬスタンディング・オベーションが目に浮かびますナ(どうもワタクシが書くと悪意的になるがそんなつもりは無いのよ)。
近年、クラシック音楽を主題にしたり劇伴に起用するアニメ作品が増えたのでは?と勝手に感じております。有無を言わせず人を黙らせる力を持ちながらも、他ジャンルとの親和性も高いと云う素晴らしい特徴を持つクラシック音楽は、まさに音楽の基礎。これぞ世紀を跨いで世界中から認められた安定感。これから先、こんな音楽が生まれてくる事は決して無いでしょうね。従ってクラシックを選んでおけば取り敢えず失敗無し(否、実際はそんな安易な発想で選ばれて居る訳ではないと思いますが)。
あ、そうそうクラシックを絡めた作品と言えば、ワタクシが好きなのは中村晃子の『アタックシューベルト』(71年)。バッハやショパンなどの名曲を下敷きに新たな旋律が乗せられた楽曲を集めたコンセプチュアルな作品なのですが、こう云った試みは歌謡曲の全盛期にはよく行なわれて居たものです。なかには無茶なものもあるのですが、基本は強引にやり切って居るのが清々しい。アニメや漫画でクラシックの世界を知る若い世代には、是非こう云ったものも聴いていただきたいですわね。
さて全三回のこの連載も今回でお終い。こう云う機会を頂いておいて申し上げるのもナンですが、ワタクシやはり音楽は語るより演る方が性に合っているようでございます。来年も、物好きな皆様に好き勝手語って頂けるような楽曲を作って演って、面白おかしい1年にしたいと思って居るわ。皆様もよいお年を。
PROFILE:マリアンヌ東雲
女性4人組バンド、キノコホテルのすべての楽曲を手掛け、歌と電気オルガンを担当する支配人。都内を中心に活動を続けるなか、2010年に初のオリジナル・アルバム『マリアンヌの憂鬱』を発表。メンバーお揃いのヘアスタイルと、ロックンロールやパンク、ニューウェイヴなどを通過した音楽性で注目を集める。以降、メンバー・チェンジもありながらコンスタントに作品をリリースし、最新作は2014年のフル・アルバム『マリアンヌの呪縛』。またツアーやフェス出演も精力的にこなす。12月24日(木)には東京・下北沢GARDENで行われる〈じゅじゅ「宴」クリスマススペシャル〉に出演するほか、2016年1月には沖縄での公演が予定されている。そのほか最新情報はこちらへ。
★川辺素(ミツメ)
有名な引用元があって、合唱でアニメにまつわる曲……と考えて思いついたのは、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」の挿入歌“Komm, Susser Tod ~甘き死よ、来たれ”でした。本当にアニメに疎かった大学生の頃、〈エヴァ〉と「とらドラ!」だけは一般教養だから観なさい、というよくわからない考えのもと、僕に無理矢理ぶっ続けで観せてくれた友達がいました。そのなかで聴いた“Komm, Susser Tod ~甘き死よ、来たれ”は明らかにビートルズの“Hey Jude”が下敷きにあって、耳馴染みも良くておもしろいなと思い、よく聴いている時期がありました。その曲はすごく映画のシーンともハマりがバッチリで、初めてアニメの劇伴っていうものが大きな役割を持つ仕事なのだな意識しました。今回の課題曲はその類いの曲なのかなと思います。
それまでのストーリーがあって、流れるシーンがあって最大限に機能するこういった楽曲は、記憶にもそのアニメの感動的なシーンと一緒に残りますよね。何が言いたいかっていうと「心が叫びたがってるんだ。」を観よう!ということです……。僕もいまやっていることが落ち着いたら、と思っていますが、こんなことを書いてると友達から連絡がきそうですね。
これで僕の連載はおしまいです。ありがとうございました! またどこかで~。
PROFILE:川辺素(ミツメ)
2009年に結成された4人組、ミツメのヴォーカル/ギター。都内を中心にライヴ活動に励み、2011年に『mitsume』でアルバム・デビュー。2012年作『eye』、2014年作『ささやき』とシングルを挿みながらリリースを重ね、今年5月にはシングル“めまい”を発表。自身のツアーも積極的に行うなか、Alfred Beach Sandalのリリース・ツアーへの参加や、スカートとトリプルファイヤーとの共演イヴェントなどもこなす。また川辺単独では先日リリースされたSpangle call Lilli lineの新作『ghost dead』の収録曲“feel uneasy”にゲスト・ヴォーカルとして参加している。そのほか最新情報はこちらへ。