キャラクター・ソング(キャラソン)とは、アニメやゲームなどの劇中の役柄/登場人物として声優が歌った楽曲のこと。このキャラソン市場が拡大を続ける近年、音楽自体も大きな進化を遂げているらしい、どうやらおもしろいことになっているらしい! しかしその音楽には、実際に作品を観たりゲームに親しまない限り触れることはないわけで。でもその扉を開く第一歩をなかなか踏み出せない……何から手をつければ良いのかわからない……という人もいるでしょう。 そんな貴方のために、Mikikiではキャラソンという名の〈架空のJ-Pop〉にフォーカスし、一見アニメ/ゲームとは相容れないフィールドで活躍する3名のミュージシャンに、TOWERanime新宿のバイヤーと編集部スタッフがセレクトした1曲を自由にレヴューしてもらいます。さまざまな意味で目から鱗な発見があるかもよ!
そして、今回より新たなレヴュアーとしてSWING-Oさん、キノコホテルのマリアンヌ東雲さん、ミツメの川辺素さんにご登場いただき、熱いキャラソンをガシガシ斬っていただきます!
【今月のお題】
学校では品行方正な完璧美少女、ひとたび家に帰ればぐうたらの限りを尽くす〈干物妹(ひもうと)〉をコミカルに描いたTVアニメ「干物妹! うまるちゃん」発のキャラクター・ソング“勇者うまるの華麗なる生活”。ゲームとジャンクフードが大好きな現代っ子である主人公・うまるちゃん(CV:田中あいみ)の奔放な性格と生活を体現したような、キュートでちょっぴりカオティックなチップ・チューンに仕上がっています。
作曲/編曲を手掛けたくろかわ まさきちさんは、中学生だった2007年に黒魔名義でニコニコ動画へ投稿した〈中二の俺がスーパーマリオブラザーズを頑張って耳コピしてみた〉以降、楽譜の読み方や楽曲制作ツールの使い方を独学で学び、コンスタントに楽曲制作を重ねて今期最大級の話題作「干物妹! うまるちゃん」のキャラソンでアニメ・ファンやアニソン・リスナーにその成長っぷりと個性的な音楽性を披露した気鋭のコンポーザーです。彼が〈サウンド・クリエイターになりたい〉という夢をひたむきに追いかけた結果、いまこういう形で私たちの耳に届いているというのは、いちファンとしてとても感慨深いですね。これからのご活躍も期待しております。 *樋口翔(TOWERanime新宿)
★SWING-O
ふだんゲームをしない、アニメも観ない自分ですが、音楽家/音楽マニア目線で解説を試みようと思うPt.1です。
当然ながらこのアニメ「干物妹! うまるちゃん」もキャラソン作者の黒魔a.k.a.くろかわ まさきちさんのことも今回初めて知った。軽く何作かアニメを観てみつつ、彼の他の作品もチェックしてみつつ、この曲を聴いてみる。うん、歌詞に出てくる通りまさに〈弾けるコーラの甘み〉BPM169の超高速電子音楽。そして〈おしえてお兄ちゃん!〉なうまるちゃんのキャラも今ウケるのが分かるポップさだね。
これを聴きながらふとイメージしたのは、ホット・バターというアメリカの電子音楽アーティストの“Popcorn”という曲だ。アーティスト名や曲名を知らなくても、曲を聴いてみると知っている人が多数だと思う。
このアルペジェーターを駆使した1972年の音楽から40年以上経った、今の電子ポップの日本に置けるガラパゴス的発展系な曲だなぁという第一印象。この展開の多さは現在のこの手の音楽のスタンダードだと思うが、大胆なブレイクの作り方がこの黒魔氏の個性か。使われるシンセサイザーの音色はほとんどがシンプルな矩形波・サイン波系のもので、それらはまさにゲームの空気感を醸し出しているが、その音色のドライな処理具合に40年前の音楽との共通性を自分のなかで見い出したのかもしれない。
そもそも40年ほどの歴史があるシーケンス音楽は、それまでにない〈揺れの無い一定のグルーヴ〉を出せるという、新しい音楽表現として生まれたもの。それが月日を経て、我らがYMOなどを経由して、いやむしろP-MODELあたりが遺伝してたどり着いたガラパゴス進化深化音楽がこれなんだなと。このBPM169の、限りなくせわしないがゆえにむしろ〈揺れている〉音楽が自然に響く、そんな時代だね。
PROFILE:SWING-O
キーボーディスト/プロデューサー/トラックメイカー。izanami、JAMNUTSでの活動を経てソロでのキャリアをスタート。2008年には48名義でステフ・ポケッツらを招いた『Hello Friends』、翌2009年の『THE REVENGE OF SOUL』と自身のアルバムをリリースするほか、レーベルメイトのmabanuaやShingo Suzuki、渥美幸裕と共にアートと音楽を融合したソングブックを毎月発表するプロジェクト〈laidbook〉を始め、各所で話題となる。さらに2011年には竹内朋康や椎名純平らとソウル・バンドのDezille Brothersを結成して『だしの取り方』を、2013年には金佑龍とのコラボ・ユニット=キムウリョンと45trioでセルフ・タイトル作をリリース。また自身の活動と並行して、CharaやZeebra、RHYMESTER、KREVA、福原美穂、防弾少年団などなど多数のアーティストへの楽曲提供/プロデュース、さらにサポート・キーボーディストもこなしている。10月8日には隔月で行っている自身のイヴェント〈My Favorite Soul〉を東京・恵比寿BATICAで開催。さらに11月3日には自身の未発表リミックス曲を収めた7インチ『SWING-O remix works 1』を発表する。そのほか最新情報はこちらへ。
★マリアンヌ東雲(キノコホテル)
常夏の島でのヴァカンスから帰国してみれば東京は土砂降り。汚水塗れの心身を慰めながら部屋でひとりシャンパンを開け、生理痛と闘って居るマリアンヌ東雲と申します。全国ツアーが始まったばかりのグンバツなタイミングでたまたま連載のお話を頂いてはみたものの、執筆の依頼なんて久しぶり。すっかり錆び付いた脳細胞が果たしてどの程度まで働いてくれるか。ま、ゆる〜くやらせて頂きますので3か月間どうぞ宜しく。
さてさて、この「干物妹! うまるちゃん」。
干物妹と書いて「ひもうと」……へー、日本語って面白ーい(棒読み)。
うまるって、馬のキャラクターか何か?と思いきや(安易過ぎて厭になるわ)、可愛い女子高生の名前なのだそうです。へー……(暫し沈黙)。
今回ワタクシにこの話をくださった担当者さんは恐らく、ワタクシがアニメにこれっぱかしも興味が無い事くらい先刻ご承知。これを機に見聞を広めよと云う事ね。御意、御意……。
おや、何だか酔いが廻って考え方が前向きになってまいりました。
で、今回レビューをさせて頂く楽曲のタイトルが「勇者うまるの華麗なる生活」。
頭の中にはでっかいクエスチョン・マーク。ま、拝聴してみましょう。
……ぬ? テクノ歌謡ですかこれ。
テクノ歌謡とはなんぞや。ヤング達の為に簡単に説明すると、1980年前後から大量発生した、シンセサイザーや打ち込みをフィーチャリングし、華麗に時代の最先端を行っていた(とワタクシは信じたい)トンがった歌謡曲の事なのであります。ずばりワタクシの大好物。その中でも、アパッチという三人組アイドルによる“宇宙人ワナワナ”を想起させるかのようなピコピコ・サウンドにワタクシは束の間、心を許してしまったのであるが……現実はそんなに甘くは無く、作り手のあり余るエネルギーと執念がぱんぱんに詰まった、しつこい展開が待って居たのでした。あんた、さてはロールキャベツ男子ね。でも欲張りってのは、良い事だと思うわよ。最近は本当に腑抜けた奴らばっかりだからね。
この世知辛い音楽業界に於いて、最早夢や希望を語れるコンテンツは二次元とアイドルだけ。そう云う意味で非常にドリーミィで得体の知れないパワーに満ちあふれたこの楽曲に突き動かされ、ワタクシもそろそろ方向転換を考える時期を迎えたのかも知れません。いや、本当に。ではまた、御機嫌よう。
PROFILE:マリアンヌ東雲
女性4人組バンド、キノコホテルのすべての楽曲を手掛け、歌と電気オルガンを担当する支配人。都内を中心に活動を続けるなか、2010年に初のオリジナル・アルバム『マリアンヌの憂鬱』を発表。メンバーお揃いのヘアスタイルと、ロックンロールやパンク、ニューウェイヴなどを通過した音楽性で注目を集める。以降、メンバー・チェンジもありながらコンスタントに作品をリリースし、最新作は2014年のフル・アルバム『マリアンヌの呪縛』。またツアーやフェス出演も精力的にこなしており、現在は単独独演会〈サロン・ド・キノコ2015秋~夜の禁猟区〉を敢行中。次回は10月9日(金)に札幌・sound lab moleにて開催、ファイナルは11月3日(火・祝)に東京・キネマ倶楽部で行われる。そのほか最新情報はこちらへ。
★川辺素(ミツメ)
こんにちは。川辺と申します。レヴューを担当させて頂きます。
キャラクター・ソングということで、自分にとってキャラクター・ソングといえば何かなと考えてみたら、「けろけろけろっぴ」の歌が思い当たりました。5歳ぐらいの時でしょうか。サビが〈けろけろけろっぴ冒険しよう!〉という強烈なパンチラインで、今でもすぐ思い出せます。
時は経ち、バンドで作詞をしている身になって考えると、1曲でキャラクターの性格だったり人となりを伝える、というのはなかなかコンセプチュアルで技術がいるなと思いました。けろっぴならまだ分かりやすいんですが、このうまるさんは美少女ですしね。かえると美少女だと美少女のほうが人となりを伝えるのは難しいですよね。
いざ曲をプレイしてみると、8bitのゲーム機を想像させるシンセのサウンドが耳に入ってくるので、ゲーム好きのキャラクター設定なんだろうな、という想像ができます。また自分の話をして申し訳ないんですが、YMCKさんというアーティストの方がファミコンに近い音が出るシンセのプラグインをフリーで配布されていて、昔それを宅録で無闇に使ってたなぁと思い出しました。2007年とかでしょうか。懐かしいです。
曲が進んでいくと、どこかで聴いたことがある!というようなゲームの効果音が出てきてもはやゲームをやっているような感じですね。それに合わせてちょっとドジな感じのエピソードが盛り込まれた歌詞が展開されていきます。それで調べてみると、まさにそんな感じのキャラクターの歌なんですね。匠の仕事だなと思いました。
ではまた次回よろしくお願いします。
PROFILE:川辺素(ミツメ)
2009年に結成された4人組、ミツメのヴォーカル/ギター。都内を中心にライヴ活動に励み、2011年に『mitsume』でアルバム・デビュー。2012年作『eye』、2014年作『ささやき』とシングルを挿みながらリリースを重ね、今年5月にはシングル“めまい”を発表。自身のツアーも積極的に行うなか、Alfred Beach Sandalのリリース・ツアーへの参加や、スカートとトリプルファイヤーとの共演イヴェントなどもこなす。また川辺単独では11月11日にリリースされるSpangle call Lilli lineの新作『ghost dead』の収録曲“feel uneasy”にゲスト・ヴォーカルとして参加。そのほか最新情報はこちらへ。