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斜に構えている人は楽しそうだけど、素直になるのもいいんじゃないかな(夏目)

――シャムキャッツが次の音源を作るにあたって、堀込(高樹)さんにプロデューサーをお願いするというアイデアもあったんですよね。

堀込「え、そうなの?」

――それはどういう発想から?

夏目「直感ですね。自分でもビックリするようなものを作るには、自分ではわからない領域について意見を言える人が必要かなと思って」

堀込「あー、それは自分で作っていても本当に思う」

夏目「ロック・バンドのプロデューサーを務めるような人は、(自分たちと)似ていることが多いんですよ。そうじゃなくて、あんまり話が通じ合いそうにない、新しいメスがほしかったんです。そんなことを一人で想像していたら、〈KIRINJIのお兄ちゃんがピッタリだ!〉と気付いて」

堀込「ハハハ(笑)。シャムキャッツの音楽は好きなのでウェルカムですけど、どうしても自分の癖として整合感を出したくなるんですよ。例えば、シンセを足してみようかとか。それはシャムキャッツの音楽にあっていいものなの?」

夏目「あっていいよね?」

大塚「過去の2作『TAKE CARE』と『AFTER HOURS』(2014年)に関しては、自分たちなりに整合性を持たせようとしていた作品だったんですよ。でも、やっぱり手探りだったから、なんとなくで出来上がったところもあるし、〈これで合っているのかな?〉と思うところもあって。僕らでは絶対にできないバランスの取り方を、高樹さんならやってくれるという印象があるんです。それを経験することで、きっと自分たちにも発見があると思うんですよね」

堀込「でも、サウンドを整理することで、意外に〈あれ?〉ってことが起こり得るじゃん。そのへんの加減が難しいよね」

夏目「確かに」

堀込「だから一緒にやってみるのはいいけど、良かったらそれで問題ないし、もしイマイチだったときは……お互いが傷付かないようにしようね?」

一同「ハハハ(笑)!」

大塚「一緒にやる前からバランスを取ってる(笑)」

 

――でも、この両者が組み合わさったら、新しい可能性が生まれる予感しかしないですけどね。

堀込「菅原くんの空間的なギターは絶対にあったほうがいいと思う。そのうえで、自分だったらリズムがもっとファンキーになったシャムキャッツを聴いてみたいかな」

大塚「なるほど、やりましょう!」

堀込「気が早いな(笑)」

夏目「質問があるんですけど、ポップスとして力があるというか、わかりやすいものを作ろうとすると、どうしてもメロディーが大味になってくるじゃないですか。そのあたり、KIRINJIはどんなふうにバランスを取っているんですか?」

堀込「理詰めで作ることもできるわけだよね。サビだから転調させてとか、平歌より高いレンジのメロディーはサビとして認識しやすい、みたいな。でも、やっぱり大事なのは直感じゃない? ああしてこうして……とこねくり回していくんじゃなくて、インスピレーションを感じてパッと作ったものは、それなりの強度があると思う」

夏目「へー、なるほど!」

堀込「メロディーがインスピレーションに基づいて作られているというのが、地味/派手に関わらず重要な気がする。自分の話で恐縮だけど、今回のアルバムに収録されている“Mr. BOOGIEMAN”という曲では、印象に残りそうなサビを先にパッと仕上げて、あとはそのサビを活かすために、ほどほどのものを作ろうと思ったんだよね」

KIRINJI ネオ ユニバーサル(2016)

――“Mr. BOOGIEMAN”はいつにも増してキャッチーな曲だから、いまの話もすごく納得しました。KIRINJIの新作はいかがでしたか?

大塚「もう最高でしたね(笑)。僕はRHYMESTERも好きなので、好きな人同士が一緒にやっていること、しかもそうやって出来た“The Great Journey”が途轍もない曲になったことに感動して」

――“The Great Journey”は確かにすごい曲ですよね、ラブホテルと夜の営みをテーマにして、なかなかこんな曲は作れないと思う。

堀込「よくよく歌詞を読み返してみると、空疎なんだけどね(笑)。でも、これが深いんだって言い張ろうと思っている」

大塚「その感じも含めてRHYMESTERっぽいし、KIRINJIらしい。大事なことを言いすぎないバランス感覚というか」

堀込「そうだよね! そんなにいつもいいこと歌えないよ(笑)」

――夏目くんはどうですか?

夏目「僕は“fake it”が一番好きでしたね。“ネンネコ”もそうですけど、わらべ歌っぽい言葉遣いがおもしろくて。最近は自分の好みもそういうところにあるから、なおさらグッときました」

――昔のキリンジは歌詞が難解だとも言われましたけど、近年はストレートな表現のなかに、ふくよかなユーモアやタガが外れたような切れ味を潜ませている気がして。 “ネンネコ”なんて、基本的には猫が寝ているだけの淡々とした曲なのに、キャッチーな曲調とさりげない描写の移ろいで、猫が持つ愛らしい魅力を感動的に描いている。

夏目「これも昔のインタヴューを読んで知ったんですけど、吉増剛造さんが好きなんですよね?」

※1939年東京生まれの、現代日本を代表する詩人。代表作に「黄金詩篇」「オシリス、石ノ神」など

堀込「昔ね。ちょっとイキがって、〈詩とか読むぜ!〉みたいなのを出してた頃に好きだったかな」

夏目「実は、大学の頃に吉増さんが講義を持っていて」

堀込「えっ、本当?」

夏目「僕もその講義を受けてたんですよ。そのときの経験はまだ残っていて、一つの指標じゃないですけど、歌詞を読むときのフィルターになっていて。だから、吉増さんが好きだったという話も頷けるし、そういう視点でKIRINJIの歌詞も読んでいて楽しい。読みたいように読めるけど、実は連続していない行と行が繋がってるんじゃないか、とか。探りながら感じて、曲として聴く。クンクン嗅ぎながらというか」

――『ネオ』というタイトルを名付けた理由は?

堀込「前作の『11』は『Ten』(兄弟時代のラスト・アルバムである2013年作)から続けてカウントすることで、それまでのキリンジと地続きであることを伝えたかった。6人になった新しさもあったけど、〈この曲はかつてのキリンジでやっていてもおかしくないよね〉という部分も散見されたと思うんですよね。でも、今回はミックスの感じもだいぶ違うし、僕以外のメンバーが曲を書いたりもしていて。いまのKIRINJIとしてやるべきものを追求しつつ、最近の音楽に混じっても強度を発揮できるようなものにしたいという気持ちがありました」

――確かに、すごく冒険的な方向へシフトしている印象です。

堀込「これまでのKIRINJIとはだいぶ印象が違うと思う。それで、新しくなったことを伝えるためには、新しくなったと名乗るしかないと(笑)。〈ニュー〉は単に新しいものを指すんだけど、〈ネオ〉にはそれまであったものが更新されるという意味があるらしくて。カタカナで〈ネオ〉と書くと、漢字っぽく見えるのも気に入ってます」

シャムキャッツ マイガール TETRA(2016)

――そしてシャムキャッツも、〈ニュー〉というより〈ネオ〉な3曲入りシングル“マイガール”を完成させたわけですけど。

堀込「“マイガール”は、この間のライヴでも演奏していましたよね。歌い出しはキャッチーで可愛い感じだけど、曲の後半がエライことになっていて。ライヴならではの展開なのかと思ったら、音源でもそうだった(笑)」

――こういう曲展開は、これまでのシャムキャッツにはなかったと思います。

大塚「でも新しいというよりは、ある意味でシャムキャッツっぽいというか」

夏目「ロックをやりたい、ギターを歪ませたいというのがまずあって。その気持ちをちゃんと爆発させたかった。そのためにあのパートが必要だったんですよね」

堀込「前回の作品はそんなに歪んでなかったよね? もっとクリーンなトーンで、アコギもたくさん使ってたし」

――ここ2作は、いわゆるネオアコを再解釈したような作風でしたよね。そこから今回、もっとロックしようというモチヴェーションに至ったのはなぜ?

夏目「情熱を燃やしたかったんですよね。もっとエモーショナルになりたかった。ここ2作では、音楽的なところにフォーカスして制作に取り掛かってみたんだけど、もう1回バンドを始めた頃に立ち返ってもいいのかなというアイデアがあって。それがサウンドにも影響されていると思います」

堀込「菅原くんが書いた曲(“お早よう”)が、またセンチメンタルな感じで良かったです」

大塚「これまでは菅原が作曲した曲は自分で歌ってたけど、この“お早よう”は夏目が作詞して歌ってるんですよね。それは初の試みです」

堀込「あとは“真冬のサーフライダー”、こっちのほうがリード曲っぽいと思ったな」

大塚「それについては、実は会議があって」

夏目「最初はこの曲をリード曲にしようということで、意見が一致していたんですよ。こっちのほうがロックっぽいし」

――でも、最終的に“マイガール”を選んだんですね。

夏目「新しいレーベルを始めるというのもあったので、テーマがわかりやすいほうががいいかなって」

 

――“マイガール”はこれまで以上に〈王道〉というか、開かれたメロディーを追求しているようにも感じるし、歌詞も優しさと包容力に満ちている。そのなかで目を惹いたのが、〈だいたい世の中は暗い つらいことばっかり ニヒルなやつはいいね 楽しそうにしているさ〉という一節で。ここでの〈ニヒル〉って、どういうニュアンスなんでしょう?

夏目「どうなんだろう。でも、斜に構えている人って楽しそうでいいなと思うんですよ。自分にもそういうところはあると思うし。だけど、もうちょっと素直になるのもいいんじゃないかなって」

――キリンジが兄弟で活動していた頃は〈ニヒルで文学的〉と言われてましたよね、もちろん褒め言葉として。

堀込「そういうパブリック・イメージはあるみたいですよね」

――さっき、堀込さんが〈イキがっていた頃〉の話を少しされてましたけど、キリンジはどこかのタイミングで、ニヒルで尖っていた時代と、いい意味で素直になった時代の分岐点があったのではないかと勝手に想像していて。ご自身ではどう思いますか?

堀込「どうだろう……。確かに、若い頃は背伸びをしたがるもので。でも、背伸びをしたことで吉増剛造さんの詩にも出会えたんだし、背伸びすることの格好悪さよりも、その収穫のほうが明らかに大きいじゃないですか。だから、背伸びはするべきなんだけど、それも20代だったらの話で、47歳でそれをやってたらアイタタタ……になっちゃう(笑)」

――なるほど。

堀込「転機については思い当たる節がないけど、“Drifter”の歌詞は深刻ぶってる感じがして、いまの心境からするとあんまりなんですよ。それは歳を取ったからだと思うんですよね。あの曲を書いたのは30代のときだけど、その頃はまだ葛藤が多かった。いまはそういうものから抜け出たというか、だんだんどうでもよくなってきていて。いろいろな経験を重ねたことで、あんなに力む必要もなかったなと思うわけですよ。だから深刻そうな人に対しても、そんなに心配しなくていいからねってスタンスにはなりつつあるかな」

キリンジの2001年作『Fine』収録曲“Drifter”
 

――いまの話は、現在のシャムキャッツにもあてはまる気がするんですよね。レーベルを立ち上げて第1弾のシングルということで、すごく気合の入った内容だけど、いい意味で力んでないというか、シリアスになりすぎていない感じがまた良かったので。

大塚「いまの力まなくて良くなったという話と、さっきの強いメロディーはインスピレーションから生まれるという話には、なるほど!って思いましたね。僕はベーシストだから理論的というか構築的になりがちだけど、高樹さんからそういった話が聞けてよかったです」

――今回の出会いをきっかけに、新しい何かが生まれるといいですね。

堀込「お互いが傷付かない感じでね」

夏目「大丈夫ですって(笑)!」


~KIRINJIからのお知らせ~

KIRINJI TOUR 2016
9月22日(木・祝)石川金沢 AZ
9月23日(金)京都 磔磔
9月25日(日)仙台 CLUB JUNK BOX
9月28日(水)Zepp Tokyo
10月1日(土)札幌 PENNY LANE 24
10月8日(土)鹿児島 CAPARVO HALL
10月10日(月・祝)福岡 イムズホール
10月15日(土)愛媛・松山 WstudioRED
10月16日(日)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
10月26日(水)名古屋 ダイアモンドホール
10月27日(木)大阪・なんば Hatch
10月30日(日)東京・品川 ステラボール
10月31日(月)東京・品川 ステラボール
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~シャムキャッツからのお知らせ~

TETRA RECORDS presents シャムキャッツ“マイガール”発売記念ワンマン公演「ワン、ツー、スリー、フォー」
9月17日(土)東京・吉祥寺STAR PINE'S CAFE
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