タワーレコードのフリーマガジン「bounce」から、〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに、音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴っていただきます。今回のライターは渡辺祐さんです。 *Mikiki編集部

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キリンジは麒麟児となり、KIRINJIは大瓶となる!?

 「きりんじ」を辞書で引けば「麒麟児」に行き当たります。「才能・技芸が特にすぐれ、将来性のある若者」ということですね。この場合の麒麟とアニマルのキリンとの関係は各自検索してください。

 筆者が幼い頃、60年代から70年代にかけて角界に麒麟児という関取がおりました。うっちゃりや吊り出しを得意とするパワフルな取り口で活躍、その後、大麒麟というちょっと大瓶のラガービールみたいな四股名に改めて大関に昇進します。さらにもう一人、70年代から80年代にかけて麒麟児が土俵に上がりました。こちらは最高位こそ関脇ですが、明るいキャラクターもあって人気絶大。そして90年代も半ば過ぎになって堀込高樹・泰行による兄弟バンド、キリンジがデビューし、ウィキペディアに「きりんじ」の項目を増やします。2013年のコンビ解消(漫才師みたいだけど)の後は、兄の堀込高樹さんを中心とするバンド・KIRINJIとなり、現在は高樹さんのソロ・プロジェクトになった、というのは音楽通にはご説明するまでもないでしょう。“エイリアンズ”“雨は毛布のように”“夏の光”などなど、名曲多数なのもご説明するまでもないでしょう。まさしく麒麟児。ちなみにデビュー前には「ホリゴメズ」というバンド名もあったようなんですが、アマチュア時代は本名→プロの土俵を前に四股名襲名という流れもお相撲みたい。

 こうして各年代で「麒麟児」への出会いもいろいろ。しかしまあ、筆者などはもう50年ぐらい麒麟児体験してきているのに、いまだに「麒麟」がすんなり書けないのはどういうことでしょう。ほぼ毎週のように大瓶のラガービールも眺めてきているというのにだ。うっかりしているにもほどがある。人間、学ぼうと思わないことは学びませんね。

 この稿は、タワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE」と連動しているのですが(そうなんですよ!)、2021年の11月~12月に堀込高樹さんが登場して、いいことを言っております。けっこう長いコメントなので詳しくはタワレコのサイトでご覧願いたいのですが、「世の中がどんな状況にあっても(音楽人は)もっと堂々としていていいはずだ」と、コロナ禍での矜持を語っていらっしゃる。頼もしい。

 そもそもこのタワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE」のシリーズ自体が時代への言葉を反映していて頼もしい。コメントを寄せるというのは、けっこう難しいのですね。拙稿を読んでいる皆さんも試しに自分が登場したらあそこに何て書けばいいか、考えてみてみて。ほら、難しいでしょ。

 がしかし、過去に登場した音楽家の皆さんは、短くも鋭く、ときに優しく、ときに厳しい言葉を連ねている。寸鉄人を刺す。広告侮り難し。サイトに行くと1997年のポスターからずらっと見ることができまして(コメント形式になったのは2006年あたりから)、これが実に読み応えがある。音楽であれなんであれ、そして若手であれヴェテランであれ、どこにもないモノを作り続ける人は言葉を持っているなあ、と感じいること間違いなし。中でもヴェテラン勢のコメント力には脱帽せざるを得ない。個人的には冬場に帽子を脱ぐとちょっと寒い頭髪事情ですが。

 現KIRINJI、堀込高樹さんも50代となり、兄弟での結成から数えれば四半世紀。ヴェテランの域にさしかかっていることを思えば「才能・技芸が特にすぐれ、将来性のある中年」です。個人的な感覚では、もう「大麒麟」です。大瓶のラガービールを片手に次の作品を待っている次第です。

 


著者プロフィール

渡辺祐(わたなべたすく)
1959年神奈川県出身。編集プロダクション、ドゥ・ザ・モンキーの代表も務めるエディター。自称「街の陽気な編集者」。1980年代に雑誌「宝島」編集部を経て独立。以来、音楽、カルチャー全般を中心に守備範囲の広い編集・執筆を続けている。現在はFM局J-WAVEの土曜午前の番組「Radio DONUTS」でナヴィゲーターも担当中。

 

〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉は「bounce」にて連載中。次回は現在タワーレコード店頭で配布中の「bounce vol.459」に掲載中。